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同行者

「やあ綾辻さん。唐突で申し訳ないんだけど君は奇跡って信じるかな?」

雪橋悠はそう言った。

「何か新しい宗教書にでも感化されたのかな? それとも単に受験疲れから来るいつもの妄言かしら?」

疲れた声で綾辻翠はそう返した。

さて、どう話したものか?

などと、いまさらながら彼は思案する。

「君を探してたんだよ。」

「そうなんだ。」

彼女は興味なさ気にそういった。

「そうなんだよ。」

彼は曖昧に笑ってそう言った。

彼女の正面を、風を巻いて列車が通り抜ける。

人一人通れるのがやっとの細い道。

人家は遠く、あたりは雑草が低く茂る野。

目の前には、線路がある。

柵が巡っていて、彼らの前でそれは途切れている。

人一人通れるだけの横断路。

遮断機はない。

彼女の目と鼻の先で、列車が駆け抜ける。

別に、抜け穴的な場所ではない。

設計に抜けがあって、柵が外れているわけではない。

ただ遮断機がない踏切である。

ここはただこういう場所なのだ。

「手、離してもらっていいかな?」

「構わないよ。」と言って、彼は今の今まで握っていた、彼女の手首を離す。

彼女は視線を戻す。

彼に背を向けて。

線路の境界の直ぐ手前で、ボウっと佇む。

手には何も持たず、部屋着と思われる楽な格好。

そして彼は、その彼女の背中をただニコニコ眺めている。

「…別に飛び込むとか、ないから。」

「そう?」

「そぅ…。」

短くそう応じて、彼女は歩き出す。

信号灯はすでに静かだ。

彼女は踏切を渡った。

彼はそれに続いた。

細い道が続く。

すぐ近くには小高い丘が迫る。

木々が茂り静かに佇む。

風は凪いでいる。

野の匂いがすぐ近くから香る。

何が植わっているのかわからない畑が並ぶ。

遠い人家は静かに佇む。

彼女は田舎道を歩く。

彼はそれに続く。

「…ついてくるんだ?」

「そうだね。」

「そぅ…。」

しばらく歩くとまた住宅街に戻る。

家屋から小さくテレビの音が聞こる。

「ここ、ね。昔よく遊んだんだ。」

「ふぅん?」

小さな公園。

彼女は、ベンチ代わりに埋められたタイヤに腰を下ろす。

彼は立ったまま、彼女のその所作を眺めている。

「何か話したいことでもあるの?」

「特にないな。」

「そぅ…。」

言って、彼女は小さく嘆息する。

彼はそれを眺めている。

「…座ったら?」

「そうさせてもらうかな。」

と、彼は彼女の隣のタイヤに座った。

何をするでもなく、彼女は空を見上げている。

ゆっくりと流れる雲を眺める。

サワサワと、風が帰ってきた。

「どうしてついてきたの?」

「まあ、せっかくこの辺を散歩していて、独りで歩くのにそろそろ飽きたからかな。」

「何それ? そんな理由?」

「そうだよ。」

「悪いけど、私いまあまりお喋りしたい気分じゃないの。」

「そう。じゃあ、黙ってるとするよ。」

「暗に、ついてくるなと言ってるかもしれないとか、考えないのかな?」

「帰れと言うなら帰るけど、とりあえずそう言われるまではご一緒しようかと思っている。」

「そぅ…。」

「帰れ」とは彼女は口にしなかった。

ため息を一つ。頬杖ついて不機嫌な顔。

「電話は切った癖に。」

そう言った彼女の横顔を、色々言い返したい台詞を全部飲み込んで彼、雪橋悠は苦笑交じりに眺めるのだった。


ここまでお読み下さりありがとうございます。

研究のため、意図や意味の読み取りにくい箇所がありましたらお知らせ頂けますと助かります。

また、前後の展開と矛盾する設定・表記等お気づきになられましたらご指摘いただけますと助かります。

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