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列車の停る先

 電車の中で独り。

 雪橋悠は携帯電話をぼんやり眺めながら物思いに耽っている。

 画面には保存のかかったメールが幾つか。

 下スクロールを押しっぱなしに、画面がグルグル、グルグル、回っている。

 今年の、つい最近の日付から、2年前の日付まで、行っては来て、行っては来て。

 そして時折、思い出したように着信履歴を表示する。


 昨晩の0時頃。


 綾辻翠から着信があった旨を知らせている。

 それをしばらく眺めて、またメールの履歴をクルクル、クルクル。

 彼は綾辻翠の連絡先を知らないはずではなかったのか?

 この件に関して別に彼は嘘をついて居たわけではない。

 つい先程まで彼は綾辻翠の電話番号は知らなかった。

 今し方、談笑していたファミレスで「綾辻を頼む」という謎の力強い言葉とともに、早蕨秀弥により彼の携帯電話に登録されたのである。

 そして取り返した携帯電話に、すでに綾辻翠から着信の記録があったことに、雪橋悠は気づいたわけである。


 昨晩の0時頃に。


 電車は今、彼の自宅最寄り駅近くまで走ってきている。

 ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトンと一定の調子で響く音と振動。

 列車内には人気がまばら。

 話し声は特にしない。

 1両編成のワンマン列車。

 窓の外は、鬱蒼と茂る青々としたヤブの合間から、時折、畑や人家が、あるいは町がのぞく。

 まだ夕時には少し早い。

 列車は停止し、密閉され圧縮された空気が抜ける音とともに扉が開いた。

 放送は特にない。

 無人駅のホームには誰も居ない。

 コンクリート製の歩廊が屋根もなく鎮座し、なけなしの金網で侵入を阻害している。

 入り口には小さな掘っ立て小屋のような入り口と、切符を放り込むポストに類似した物体が鎮座している。


 看板の駅名は彼の駅を示す。

 誰も降りない。

 彼も降りない。


 列車の扉は閉まり、汽笛の音がして、また列車は走りだす。

 列車は次の駅についた。

 誰も降りない。

 彼も降りない。


 列車はさらに次の駅についた。

 誰も降りない。

 彼も降りない。


 そして列車は、彼の最寄り駅から3つ先の駅についた。

 誰も降りない。

 彼は降りた。

ここまでお読み下さりありがとうございます。

研究のため、意図や意味の読み取りにくい箇所がありましたらお知らせ頂けますと助かります。

また、前後の展開と矛盾する設定・表記等お気づきになられましたらご指摘いただけますと助かります。

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