図書室
さて、今回は図書室に入ったあたりから始めようか。
内開きの扉は、ぼくの手から離れると軋む音一つさせずにゆっくりと加速し、パタン、と人気のない室内に閉塞の音を響かせる。
窓は開いていない。
レースのカーテンが陽の光を受けて、ほのかに光って見える。
さっき扉を閉じて風が起こった以外、室内の空気は僅かな揺れもなく、死んだように停滞している。
室内は、特にかび臭いということはないが、書籍に積もった僅かな埃の匂いが感ぜられる。
ぼくは歩を進める。
図書室は、他の特別室とも異なりカーペットがしいてあり、上履きも脱いで靴下で上がることになっている。
彼女の姿はまだこの段階では現れない。
図書室の扉の真正面に、よく二人で腰掛けていたソファーがあるのだが、今回彼女の姿はそこにない。
そんなこともたまにあったかもしれない。
大体の場合、彼女はそこに座っていて、ぼくが図書室に入るなり出迎えてくれていたのだが。
とにかくぼくは歩を進める。
科学雑誌などを並べた陳列棚。
並べられた数種の新聞紙。
壁際に並んだ本棚。
パーテーションできっちり区切られたテーブルにはホコリ一つなく、椅子は乱れなく整えられている。
誰の声も聞こえない。
空気が停滞している。
椅子を引いて、かばんを置く。
図書室の本棚は、入り口に近いほど学科に関係する種の本が多い。
物理、数学、化学、歴史、その他もろもろ。
哲学系のレーンを見に来る人間は果たしてこの学校にいるのだろうか?
そして一番奥は、ややマイナーな外国人作家の小説が並ぶ。
ヘミングウェイだの、カフカだのといった有名ドコロは別レーンになっている。
だからこのレーンに人が居ることはめったにない。
「やあ」
覗きこむと、新島がいた。
顔を上げ、読みかけのページにちぎったメモ帳の切れ端を挟んで、顔を上げてぼくに声を掛ける。
ペタリと床に座って、今の今まで読書に耽っていたのだろう。
「やあ」とぼくは返す。
彼女がまだここにいることに、ぼくはひどく安堵した。
とてもとても、ホッとした。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
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