昼休み、ベランダの語らい
教室のベランダ。ぐだぐだ交える会話。
「そんなことがありましたか。」
と、ため息交じりに早蕨秀弥は呟いた。
「うん。そう。最早事態は不可逆である。」
「不可逆ははじめからだろう。」
「そうだね。新たなフェーズに入ったと言うべきであった。」
と、そこでストローから紙パックフルーツジュースを飲むのは雪橋悠。
「カッコよさげに言っても、事態に変化はないやな。」
「そうな。君がどうするつもりか。すべてはそれにかかっている。」
「好き勝手言いよる。」
「他人事の様には言ったがしかし事実だ。」
「む。事実ならば仕方がない。」
昼休み。高等部3年校舎。
二人は教室のベランダに立って、昼食の余韻に浸っていた。
話題は、昨日の件。
祠堂沙奈江が、早蕨秀弥と祠堂美園が恋愛関係であることを知ったと、そういう話。
「というか、ミソノちゃんにはまだ言ってなかったのな。」
「うむ。ちょっと、言い出すタイミングが、ね。」
「沙奈江さんから伝わる前に教えとかないといかんかもよ?」
「そうだな〜。」
「嫌なのかい?」
「まあ、実質さ、何してんのって、話じゃない?」
「良いんじゃないの? 世は自由恋愛の時代だよ。別に沙奈江さんの面影追っかけてミソノちゃんと付き合ってるわけでもないだろ?」
「あ〜。うん。全然似てないし、あの二人。でもな〜。わかってくれるかな〜。」
憂鬱そうに、早蕨秀弥は空を仰ぎ見る。
本日いたって快晴。
燦々と降り注ぐ太陽が憎らしいくらいの天気である。
「不安か。」
「不安、なのだろうね。自信なんて持てんよ。オレ結構最低だし。」
「そうでもなかろうよ。」
「ありがとうよ。」
言う物の、彼の憂慮が晴れた様には思われない。
「また二人で内緒話してる。」
と、教室のなかから、窓枠に顎をのせて、恨めしそうなまなざしを向ける綾辻翠。
「やあ綾辻さん今日もキレイだね。」
「よう翠、お前ほど愛らしい女の子をオレは見た事がないよ。」
「君らが口をそろえてそういう事言う時ってわたしを仲間はずれにしたい時だよね?」
「仲間はずれにだなんてとんでもない。」
「もともと外せるほど仲間でもない。」
「ひどいよヒーくん。」
「うん、今のは酷いわ、ユッキー。」
肩をすくめる雪橋悠。
一連の流れが小芝居だと言うように。
ここでその流れは終わりだと言うように。
「それで? 結局わたしには教えられない話なの?」
「うん。ごめん。男同士の悪巧みなんで。」
「別に良いけどさ。」
言いながら、少し不貞腐れた様な顔をする。
「そう気を落とすなよ。ユッキーはちゃんと埋め合わせのできる男さ。」
「うん。そうだね。ヒーくんは仕方なしに相手を傷つけてしまった時に、それを補ってあまりある友情を示せる男だよね。」
「それは脅迫か?」
「脅迫じゃないよ〜。別に人質も物質も取ってないんだから〜。ただ、君の友情の度合いを推し量りたいだけだよ〜。」
「定量化しようというのか。なんと悪らつな。」
「ええ〜。相手の事をどのくらい思っているかは、常に伝えていかないと分からなくなるものだよ? それを悪らつだなんて言ってしまうの君は? 不安を抱かせる行いをしていながら、不安を抱いた相手を攻めるのあなたは? 酷いな〜。」
「だめだ、お前のほうが正しく聞こえてきた。」
「それは勿論、わたしが正しいからです。」
「おっと、予鈴だ。昼休みが終わってしまう。」
「逃げ切れたと思わない事ね。続きは放課後ゆっくり、語り合いましょう。」
「さすがはユッキー。付き合い良いなぁ〜。オレは用事あるから遠慮するけど。」
「あら、残念。早蕨くんは逃げてしまったわ。酷いわね。ね? 傷ついちゃうわ〜。この埋め合わせもしてもらわないと。ね?」
「お前らねた合わせでもしてきたのか?」
「何を言っているんだいユッキー。そんな必要がどこにあるんだい?」
「そうだよヒーくん。わたしはただ今現在について十全な対応をしてほしいと思っているだけなのよ?」
笑う早蕨。
笑う綾辻。
そっと伸ばされた彼女の手は、雪橋の手首を掴む。
何の含みもない友情を示すかのようにそっと伸ばされた腕。
何かを確かめるようにしかと、力のこもった手。
「…わかったよ。放課後付き合えばいいんだろ?」
「なんか投げやり。やり直しを要求します。」
「…ぜひお付き合いさせていただきます。」
「愛が足りない。もう一回。」
「…君と放課後を過ごせるなんてぼくはなんて幸せなんだ。」
「棒読みだった。もう一回。」
「放課後なんて来なければいいのに。」
「も〜。なんでそうなるの?」
「本鈴なったぞ〜。」
「覚えてろよヒーくん。このツケは払わせてやるからな!」
「こっちのセリフだバカ野郎。」
「ケケケ。ご苦労さん。」
からりと引戸を開けて教室に教師が入ってくる。
その様を見て、3人、席に着くべく駆け出した。
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