電車を待つ
駅のホーム。少し外れた所。二人の会話。
「また背中、砂だらけになっちゃうよ?」
「ああ、うん。そうだね。」
そこは駅のホーム。日差しを遮る屋根の無い、ひび割れたアスファルトの上。
その日の空はきれいに晴れ渡り、すっきりとした蒼穹が広がっていた。
制服姿のままアスファルトの上にねっ転がっている雪橋悠。
顔を読みかけの書籍で隠して、カバンを枕にほうけている。
一時間に一本しかこない電車を待って、彼はそこに居た。
高校から一番近い駅。ほこり被った屋根を被せて、3ホームが並ぶ。
「どうしてそう、地べたにねっ転がるのが好きなのかしらね。」
スカートの裾を手折って、綾辻翠は彼の横に座った。カバンを座布団代わりに膝の下にしく。
「別に、好きと言う事はない。」
「いっつも寝てるじゃない。そうやって。」
「それは横になるのが好きなだけだよ。」
「ベンチがあるでしょ。あっちに。」
彼女はホームの、まだ屋根のある方を指す。
「そんなところにねっ転がって占領しちまうのは、申し訳ないだろう。」
「気にするんだ。」
「落ち着いて寝れん。」
「変な人だね君は。相変わらず。」
「そんな変わった発想だろうか?」
「そうでもないよ。でも君は変。」
「ひどいねどうも。」
眠たいのか、たるそうに彼は言う。もともとハキハキ元気の良い性質ではないのだが、それがいつもに増してフニャフニャしている。
「この間はごめんね。八つ当たりしちゃって。」
「ん? ん〜。事情は聴いた。」
「早蕨くんに? 口軽いねあいつ。相変わらずだなぁ〜。」
「そうね。まあ、問題ないって判断、間違っちゃいなかったけど。」
「うん。知らないから早蕨くんは。」
「そうね。」
「ね、ヒーくん。」
「ん?」
「どう思った?」
「何を?」
「早蕨くんから話聞いて。」
「ん〜? 『あいつがそんな可愛らしい思考をする物か。』とか?」
「ひどいな〜。」
「『なに白昼堂々いちゃいちゃしとんじゃこの腐れが。土に還れ。』くらい思ってるのが正解だろうとか。」
「ますますひどいな〜。」
「『こいつらがとっととくっついちまえばいい』とか思ってるに違いない、とか。」
ぐっと押し黙る綾辻。
「悪い。意地が悪かったな今のは。」
彼はむくりと上体を起こす。髪をはたくと、ぱらぱらと砂が落ちた。
「…美園ちゃんはいい娘だね。」
「うん。」
「可愛くて、守ってあげたくなる。」
「うん。」
「幸せそうに笑っていて欲しいと思う。」
「うん。」
「だからときどき、泣きそうになるの。」
「…うん。」
「ね、約束覚えてる?」
「覚えてる。忘れない。変わらない。」
「もっとちゃんと言ってよ。」
「『しゃべらない』が約束だろ。」
「ちゃんと言葉にしてほしいの。」
「変なヤツだ。」
「いいから。」
「ん〜。」と、ちょっと首を傾げるようにして、どう言った物かな、と彼は考え巡らす。
「今年の初め、あの場所で、あの時君が泣いた事、あの時君が泣いた理由をしゃべらない。ぼくはそれを知らない事にする。そういう約束を君とした。その約束をぼくは忘れない。」
結局彼は、思いつく言葉を、そのままを口にした。
「うん。ありがと。」
「やっぱりまだあれか。」
「うん。まだちょっとムリ。」
「そりゃ八つ当たりもしたくなるか。」
「ごめんね、ヒーくんに甘えて。」
「いいよ。友達だから。」
「うん。ありがとう、友達で居てくれて。」
「おかげでたまに早蕨を刺したくなる。」
「それは良い考えかもね。」
クスクスと、綾辻翠は笑う。
それを横目で眺める雪橋悠。その笑顔は、どこかひび割れて見えた。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
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