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魔法師ルシアの受難  作者: 和執ユラ
第一章 悩みの種

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02.第一章一話


 ディオリア学園は、主に貴族やその縁者、商家などの裕福な平民の子供が通う、中等部から大学まである学園だ。

 富裕層向けであるこの学園の学費は、当然ながら相当なもの。しかし、優秀な成績の者に向けては学費免除や減額、寮の家賃も減額される特待生制度があり、金銭的な余裕がなくとも学園の生徒になることはできる。

 とはいえ、特待生の審査基準に達する以前に、学園の入学試験に一般家庭の平民が合格することは容易ではない。教育にお金をかけることができない層の平民の試験合格率は極めて低く、合格するのは学力以外の要素――魔法に関する適性が突出しているなど、何かしらの才能が必須と言っても過言ではないのだ。


 ルシア・シャノンは孤児だけれど、暮らしていた孤児院は最長でも十五歳までしか世話になることができないと決まっていた。しかも、あくまで名目上はそうなっているというだけで、多数が十三歳になるまでには住み込みの仕事などを見つけて独り立ちするのが実態だ。

 そんな中、ルシアは平民向けの中学校に通いつつ、働いて収入も得ながら十五歳まで孤児院で暮らし、ディオリア学園高等部の入学試験を受け、魔法の才能を見込まれて合格。特待生としてディオリア学園生になった。

 寮暮らしで家賃や食費等の生活費が破格、学費は免除。何より、特待生の資格を剥奪されることなく無事に卒業すれば、大学に進まなくとも就職先はよりどりみどり。将来が約束される。

 ルシアの目標は、安定した高収入の仕事を手に入れることだった。ディオリア学園への入学はあくまでその手段にすぎない。


 ゆえに、面倒ごとなどお呼びではないのである。


「わたしはただ色んな人と仲良くなりたいだけなのに、婚約者だっていう人たちがすごく怒ってくるの。距離が近すぎるとか、異性とは軽々しくスキンシップしちゃいけないとか。仲良くなるなら普通のことなのに、自分よりわたしが婚約者と仲良いから嫉妬してるんだと思う。女子って怖い」

「……」

「しかも、婚約者候補ってだけで恋人みたいな立場で注意してくる人もいるんだけど、あれってなんなのかな? 婚約してるわけでも付き合ってるわけでもないなら、口出しする権利はないはずなのに……貴族ってそういうところが面倒よね。あ、わたしも貴族だけど、やっぱりその辺はなかなか理解できなくて。時代遅れだなぁって」

「……」


 休み時間。教室で教科書に視線を落としているルシアは、隣に座っているミラベルから愚痴を聞かされていた。前から四列目の窓際の席に一人で座っていたルシアの隣にミラベルが勝手に腰掛け、勝手に話しているのだ。


 ルシアは断じて彼女と友達ではない。同級生というだけの関係性だ。クラスだって、魔法科のルシアと普通科の彼女ではもちろん違う。

 ただ、不運なことに選択授業がいくつか被っており、最近はその授業の時や休み時間ですれ違う時などに話しかけられるようになったのだ。

 長年平民として暮らしてきた彼女にとって、貴族の生活は堅苦しいらしい。平民のルシアに親近感を抱いていることに加えて、貴族に馴染むことができないからか、こうしてルシアと親しげに振る舞うのが常になっていた。


(まあ彼女の場合、伯爵からかなりの金額の生活費の支援があったらしいから、富裕層並みの暮らしだったみたいだけど)


 伯爵は昔からかなり愛人に入れ込んでいたらしく、多額を貢ぎ、家にもほとんど帰っていなかったという。学力が低いらしいミラベルがこの学園に入ることができたのは、伯爵が相当な額の寄付をしたからだとも聞く。

 孤児院で暮らし、孤児院から出る時に備えて働いて貯蓄をしてきたルシアとは、育ってきた環境が違う。価値観が違う。それで仲間意識を持たれるのはまったく理解できない。共感を求めているなら、同じ生活水準の者の元へ行けばいいものを。


「ねえ、ルシアちゃんもそう思わない?」

(名前も勝手に呼ぶし)


 さんではなくちゃん付けで名前呼び。これも勝手にされていることで、最初からだった。名前で呼ばないでほしいと何度か言っているのに、「恥ずかしがらないで」と笑顔で返されるだけで改善される気配がないのだ。

 そもそも、色んな人と仲良くなりたいといいつつ、彼女が積極的に交流を持とうとするのはほとんど男子生徒ばかりである。女子とは気が合わない、いじめられると言うけれど、それはそうだろうとしか言いようがない。

 自身に問題があるという思考がミラベルに欠如している以上、どうしようもないのだ。


 ため息を吐いたルシアは、教科書を閉じて立ち上がった。ミラベルが「どうしたの?」と見上げてくるが、気にせず教科書やノートを持つ。

 もうすぐ授業が始まるこの教室には他にも生徒がいて、自身に視線が集まっているのを感じながら、ルシアは席を離れた。


「え、ルシアちゃん?」


 戸惑うミラベルの声に何も反応せず、ルシアは一番前の真ん中の机に移動して椅子を引き、そこに座る。


「ねーえ、ルシ――」


 ミラベルの言葉は、鳴り響いた鐘の音にかき消された。教師が教室に入ってきて、ミラベルはそのまま席で大人しくしている。


 安定した、給料も高い仕事に就くことをルシアは望んでいる。必然的に、そういう職場は貴族の縁者が多い。同じ教室にいる生徒たちが同僚になる可能性は否定できないのだ。

 彼らに媚びるつもりは毛頭ないけれど、無駄に敵を増やすことは避けたい。

 ミラベルの愚痴に下手に頷けば、周りがルシアにどのような印象を持つかは火を見るより明らかだ。ミラベルに付きまとわれているルシアはすでにミラベルの友人だという噂が広まっているので、将来に支障が出かねない。

 噂を払拭するには、ミラベルと離れることが必須だ。

 そしてルシアは、ミラベルが教室では最前列の真ん中の席を嫌うと気づいた。教師の目につくからだろう。


(できれば目立たない端の席がいいんだけど……仕方ない)


 特待生なので、教師にはやる気をアピールすることにも繋がると前向きに考えよう。


(教室で声量も気にせずあんな話を平然とできるのも怖いし)


 この教室には、先日ミラベルを注意していたステファニーとその友達である二人もいるのだ。後方の席に座っている。ミラベルがペラペラ話している間、そちらからの視線がずっと痛かった。

 今の行動でルシアがミラベルと親しいわけではないと周囲に伝わってくれたらいい。――なんて、甘い考えだった。


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