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『好きに生きるから楽しいのさぁ』☆アウトローズ☆問題児たちに常識を  作者: 夏カボチャ 悠元


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8、バケット討伐大作戦・2

 ネルとアシミーは、バケット邸を目指して夜の湖から駆け出した。


 月明かりに照らされた草木が疎らに生い茂る道を進み、2人は、一心不乱にグラードの街へと向かっていく。


 次第に見えてくる巨大な壁。丘の上から街を覗ける位置まで辿り着いた2人は、同時に足を止めた。


 2人は静かに、街を取り囲む防壁と夜になり閉じられた巨大で強固な正門に視線を向けていた。


 本来ならば、夜中でも正門に小さな小窓がついており、門番が駐在している為、理由を伝えれば真夜中でも通ることは可能であった。


 ただ、ネルは一言「今回は門番と話してる時間はないなぁ」と口にしてから、アシミーと共に防壁へと向かって走り出す。


 アシミー「ちょっと、こんな高い防壁を登るなんて、時間かかるじゃないのよ……どうするのよ?」


 ネル「決まってるじゃないかぁ、ボクちゃんからしたら、こんな壁なんて関係ないからねぇ。むしろ、ボクちゃんが優しい襲撃者なら、グラードの街なんて簡単に制圧できちゃうからさぁ」


 ネル:むしろ、アシミーちゃんが欲しがったら、ボクちゃんが絶対にプレゼントしてあげるのになぁ? ボクちゃんとアシミーちゃんだけの街にして……それから……あはぁ、邪魔な奴らはみんなゴミ箱に押し込んで……


 アシミー「はぁ……ネルが言うと冗談に聞こえないのよね……本当にやったらダメなのよ……わかってるわよね?」


 アシミー:本当に明るいというか、なんだろう……私が悩んでるのに、ネルといると不思議となんでも上手くいきそうな気がしちゃうのよね……ダメダメ……ダメよ。しっかりしないと!


 ネル「はいはい〜分かってるさぁ。それじゃあ……今からグラードの街に入ろうじゃないかぁ!」


 ネルは、闇夜に紛れ込ませるように足元に煙を作り出すと足全体を纏う。

 巨大な魔物の襲撃すらものともしないであろう、巨大な防壁を見上げ、笑みを浮かべてから、アシミーを両手で抱き寄せる。


 アシミー「え、何、ちょ! ネル、何する気よ」

 ネル「アシミーちゃん……しー! ボクちゃん達は今から、街の中に潜入するんだから、騒いだらダメなんだよ? これも常識じゃないかぁ」


 アシミー「ネルは無茶苦茶なのよ……普通はこんな風に防壁を突破しないのよ……あと、今回の非常識は絶対にネルの方だから」


 ネル「えぇ〜! 普通に入るなら【煙幕えんまく】で目くらましをしてから、門番を無視して入ればいいだけの話じゃないかぁ?

 でも、ボクちゃん達は今から悪さをするんだろう、ならこっちの方が格好いいじゃないかぁ〜」


 アシミー:何言ってんのよ、格好いいとか、そんな次元の話じゃないのに……ううん、今はやめよう。ネルはそういうやつなのよ……うん、そうよね。


 アシミー「はぁ、まぁいいわよ。私もネルに普通を求めたのが、間違ってたのよね」


 ネル「アシミーちゃん、流石にそれはボクちゃんでも、傷ついちゃうなぁ〜ボクちゃんほど常識的に考えてるやつなんていないはずさぁ」


 ネル:本当にアシミーちゃんは考え方が優しすぎるんだから、でも流石に門番ちゃんの仲間を殺して、表から街に入ったりしたら、“ごめんね”ってボクちゃんが謝っても門番ちゃんは、許してくれないだろうから、面倒でも仕方ないよね。


 アシミー「ううん。ネルが考えてくれた方法だし、正直、私にもいい案がなかったから、ありがとうが正しいのよね」


 2人は軽く会話を交わしながら、防壁の上に辿り着くと、そのまま防壁の上を移動して、市街地を抜ける形でバケット邸に程近い位置まで一気に駆け抜けていく。


 普段から防壁の上に侵入されることを想定されていない為、見回りの兵士もおらず、目的地であるバケットの私有地まで2人は最短距離で移動していた。


 ネル「無事に到着だねぇ。アシミーちゃん? ボクちゃんは飛び降りるけど、一緒でいいよねぇ」


 アシミー「飛び降りるって、いやいや……私は自分でいくから、今回は遠慮するのよ……先に待ってて」


 ネル「そうなのかい? 残念だなぁ、ならお先に〜あははぁ〜」


 ネル:アシミーちゃんから、待っててなんて、言われたら、ボクちゃんは飛び降りるしかないじゃないかぁ〜あはぁ!


 アシミー:なんで、あんなに勢いよく飛べるのかしら……本当にネルって、凄いわね。


 防壁の上からネルは煙を足に纏わせ、地上へと飛び降りる。

 アシミーは逆に鋼糸を使い、壁面にそれを突き刺すことで、無事に地上へと降り立った。


 街外れに作られた大きな屋敷から広がるバケットの私有地、木々が森を思わせるように植えられ、周囲を鉄柵で囲み、悪趣味な魔物を思わせる飾りのつけられた門のみが出入口として作られている。


 敷地内には、バケットがテイムした魔物を飼っている為、屋敷へと向かう場合、戦闘を避けては通れない。

 2人が入ろうとしているその場所は、紛れもなくバケット自身が作り上げた人工の魔物の森であり、私有地だからこそ、グラード街に存在するにも関わらず、誰にもとがめられることのない要塞と化していた。


 ネルの見つめる視線の先にはバケット邸があり、夜の闇を照らすように無数の窓から薄っすらと灯りが屋敷内に人の存在をネル達に知らせている。


 ネル「おやおや〜? 随分と大きな屋敷じゃないかぁ、この街にあんな屋敷があったんだねぇ」


 アシミー「ネル、アンタ……グラードの街に暮らしてて、バケットの屋敷を知らないなんて、ありえないのよ……はぁ」


 アシミー:普通は最初に街の有力者と、権力者について、話をされたりするはずなのに……はぁ。


 ネル:う〜ん? バカの屋敷は、でかいって前に飯屋のおっさんが言ってたヤツかな? まぁ、バカもバケットもボクちゃんの邪魔をするなら、関係ないから、まぁ、いっかぁ。


 屋敷を目指すように、森に繋がる門を開いたネルにアシミーが慌てて声を掛ける。

 ネルがその声に対して、一度その場で動きを止めると、アシミーへと振り返る。


 アシミー「今から向かうバケットの屋敷までには、この森みたいな庭がずっと広がってるのよ……怖くないわけ……」


 アシミー:私は、自分が嫌になる……ここまで来て、私はやっぱり、踏み出せないよ……ネルを巻き込むなんて、やっぱりダメだよ……


 アシミー「ネル……やっぱり、私は1人でやるよ……巻き込んで……その、ごめんね」


 静かにネルへと呟かれた声、アシミーは震える拳をグッと握り、優しい笑みをネルへ浮かべた。


 ネル「何を言ってるのさぁ? アシミーちゃんってば、本当に素直じゃないんだからぁ、ボクちゃんは知ってるんだよ……本当に1人で何かやる人ってさぁ……」


 アシミー「な、なによ……」


 小さく返事を返したアシミーにネルは踵を返してから、ゆっくり、一歩、一歩近づき、身構えるアシミーの傍で止まると、耳元で呟いた。


 ネル「──謝らないし、伝えないんだよ……だって、1人でやるんだから……」


 その瞬間、アシミーは、握った拳を開くとネルのローブに掴みかかり、力を込める。

 アシミーに対して、脱力したようにネルは引き寄せられて顔面が向き合うと、アシミーはすべてを忘れたように大声で言葉を吐き出した。


 アシミー「わかってんの! これは、私の勝手な、意地なの! 本当なら街から離れたらいいし! 逃げれば済む話なの、ネルと私は知り合ったばかりで、こんな馬鹿なことにアンタが付き合う必要なんてないのよ!」


 ネル「知らないなぁ、ボクちゃんはこの街に美味しいステーキを焼いてもらう為に来てただけだし。むしろ、お肉以外に興味が出たのはアシミーちゃんだけさぁ……だから、付き合うんだよ〜」


 ネル:ボクちゃんは、本当にそれだけなんだよ……

 だから、アシミーちゃんには悪いけど、この涙にもイライラしてるんだよ……だって、ボクちゃんが泣かせちゃったみたいに感じるんだもん……バケット、本当に許せないよ。


 アシミー:何言ってんのよ……死ぬかもしれないってのに、なんで、そんな答えになるのよ……止めないと、今なら間に合うんだもん。


 アシミー「なによ、それ……私と肉にしか興味ないとか、本当に身の危険を感じるんだけど……じゃなくて、屋敷にたどり着くまでにも、放し飼いの魔物がいるのよ!」


 ネル:恥ずかしがり屋さんのアシミーちゃんがボクちゃんに顔を隠す仕草も抜群に可愛いなぁ。

 だからこそ、許せないんだよねぇ……ボクちゃんのアシミーちゃんを無理やり操るとか、好き勝手にするとか、ボクちゃん以外のゴミがそんな馬鹿なことをするなんて、面白くないじゃないかぁ。

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