4、気づけば膝の上にアシミー
ネルとアシミーは、互いに顔を合わせる形になっていた。
ネル:突然、ボクちゃんが魔物を燃やしちゃったから、きっとアシミーちゃんてば、びっくりで混乱してるのよね。ボクちゃんとしたことが反省だなぁ。
その場の状況を冷静に考えるように首を傾げるネル。それに対して、アシミーは、深刻な表情を露わにしてから、深いため息を吐いた。
アシミー「本当に、本当に! なんなのよぅ……おかしいでしょ、“キラービーナ”の討伐推奨ランクは単体でCランクだけど、5匹でBランク推奨になる魔物なのよ……」
アシミー:普通はこうならないのよ。普通はCランク冒険者なら4人で2匹、Bランク冒険者でも1人で2匹くらいが妥当なのよ……だから、無傷なんてありえないのよ。
頭を抱えたアシミーは、怯えながら自分の口を慌てて押さえると、ネルに恐る恐る、視線を向ける。
視線を向けられたネルは、どうして、アシミーが口を押さえているかが分からないと言った具合に、首を傾げながらも口を開いた。
ネル「まぁ、気にしたらダメさぁ、ボクちゃんからしたら、虫がランクCなんて話の方が信じられないからねぇ」
ネル:今、アシミーちゃんとちゃんと会話できてるんだよねぇ、ボクちゃんは心から思うんだ、幸せはこうやって生まれるんだって……ボクちゃんにも、理解できたんだからさぁ。
アシミー:なんで、嬉しそうな表情になるの……おかしいのが、まるで私みたいな顔をするの、本当にやめてよ、分からなくなりそうなのよ。
そうして、僅かな静寂が流れていく、その空気に耐えられないと言わんばかりに動き出したのは、アシミーの方だった。
軽く肺に酸素を送り込み、ゆっくり吐き出した後に、ネルへの問い掛けを口にする。
アシミーが求めたのは、丸呑みにした『魔玉【水性亜人操作】』についての説明であり、それを聞いたネルは何を思ったのか、口角を吊り上げて、この日一番の笑みを浮かべる。
ネル:少しだけでも、アシミーちゃんとボクちゃんは分かり合えたんだねぇ〜。
だって、ボクちゃんに興味を持ってくれたんだもんねぇ……嬉しいよぅボクちゃんは、アシミーちゃんになんでも説明してあげるさぁ。
ネル「まずは、ボクちゃんがどうやって、魔玉を丸呑みにしたかの、種明かしからだねぇ」
互いの位置を確認するような仕草で、ネルはアシミーに見えるように大きく口を開いていく。
ネル「見ての通り、口の中には何もないだろう。今から使うスキル、【入煙】と【出煙】を見せてあげるねぇ」
アシミー:見たくない、見たくない! ワケの分からないスキルより、口で説明してよー!
ネルがスキルを使うと知るとアシミーの表情が次第に青ざめていくが、諦めたように俯向くと、表情を改めて、ネルに視線を向ける。
アシミー:何を言っても通じないなら、全部受け入れるわよ。どうせ、今の状況なら、助からないのなんて、最初からわかってるんだからさ……
ネル:アシミーちゃんが真剣にボクちゃんのスキルについて聞きたがってるのが、表情からわかるよ。友達になるって、お互いを知るところからだもんねぇ……頑張らないと!
アシミー「初めて聞いたスキルだけど、それでどうやって、魔玉を消すのよ?」
ネル「【入煙】だけどねぇ、このスキルは、喉を通るサイズの物を収納できるスキルなのさぁ」
アシミー「え、アンタってば、収納系のレアスキルまで使えるわけ!」
アシミー:聞いてないし、前情報にないスキルばっかりじゃない……バカバケットのやつ、こんな危ないスキル持ちに私をぶつけたわけ、ありえないわよ……
ネル「反対に【出煙】が取り出すためのスキルだよぅ。すごいでしょう〜」
ネル:あぁ、アシミーちゃんがびっくりした顔は可愛いなぁ、ボクちゃんの話をこんなに真剣にきいてくれるんだもん。
アシミー「え、えっと……でも、口に入らない場合はどうするの……」
アシミー:今は、少しでも、ネルの情報を聞き出して、生存の確率を多少でも上げないと、間違いなく人生が終わる……むしろ、終わり掛けてる気がするわよ。
ネル「アシミーちゃんは鋭いねぇ? ただ、無理なものは無理だから、そんな時は【煙縄】を使って持ち運びをするのさぁ」
ただ、楽しそうにその場に胡座をかいて喋るネルに、ぎこちない笑みを浮かべるアシミー、互いの温度差は一目瞭然だが、ネルがそれに気づく様子はない。
アシミー「そうなのね……アンタって、便利なスキルも多いのね。話を聞いてたら、本当にびっくりよ……」
ネルを見つめるアシミーちゃんは、会話を終えてから、少し悩むように口を閉じる。
突然の静けさに、ネルが焦ったように話題をふっていく。その内容は単純な世間話というには、寂しい時間についての内容であり、アシミーは無視することなく、耳を傾けていた。
語られた内容は、ネルが強力な『職業持ち』として、生まれてからの記憶だった。
優しい母親とダメな父親に育てられ、それでも幸せだった記憶。
幼い頃に熱を出した際に、飲んだくれの父親が必死に走って、村の薬師を呼んでくれた記憶。
山賊に村が襲撃されて、家族を失った記憶。
床の食料庫に投げ込まれ、隙間から父親が母親を庇い共に殺された記憶。
1人泣きながら、彷徨っていた際に、山で老婆に出会い、魔物や戦い方を学んだ日々の記憶。
老婆が寿命を迎え、3年間の幸せが終わりを迎えた記憶。
それから1人で生きて、村を襲撃した山賊を皆殺しにして、たくさん泣いた記憶。
すべてのネルを語るように、淡々とネルはアシミーからの反応を待つように喋り続けていく。
ただ、アシミーは一言も言葉を返さずに、ゆっくりと震えるように頷くのみだった。
ネル:どうしよう、どうしよう! ボクちゃんだけが話し過ぎたから……アシミーちゃんに話す順番をあげなかったからかなぁ、ボクちゃんだけがずっと喋ってるじゃないかぁ……
アシミー:ネルの過去って、知らなかったら、絶対にこんなこと思わなかったのにさぁ。
ずっと1人で生きてきて……優しい人とサヨナラして、また1人で生きてって、怖がってた私がバカみたいじゃないのよ!
アシミー「決めたわ! アナタ……じゃなくて、煙の魔女=ネル・ニルガル! 私はネルの仲間になる……」
アシミー:もしかしたら、ネルは私の言葉にバカにされたって感じて、殺されるかもしれない……分からないけど、そうだとしても、このまま死ぬより、私も素直に最後くらい言いたいことを言いたい。
ネル:聞き間違い……違うよね! 違うよね! 今、ボクちゃんと友達になるって、仲間になるって! ボクちゃんに本当の友達ができたんだ!
ネル「あはぁ! ボクちゃんとお友達になってくれるんだねぇ、嬉しいよアシミーちゃん!」
アシミーを前にネルが立ち上がる。素早く伸ばされた両手がアシミーを包み込み、ネルは無邪気に笑った。
アシミー「だから、抱きつかないで、私は大人なのよ! もうぉぉぉぉ!」
抱きしめた後、ネルはアシミーを膝の上へと座らせ、採れたての蜂蜜を2人は食べていく。
アシミー「本当に、頭に蜂蜜を垂らさないでよ? 私の触腕髪《タコ足》が蜂蜜まみれなんて嫌なのよ」
アシミー:なんで、いきなり、膝の上なのよ。距離感が近過ぎるのよ……しかも、ニヤニヤしてるし、まったく。
ネル「はいはい〜! 絶対に大丈夫さぁ、ボクちゃんはアシミーちゃんを大切にしたいからねぇ」
アシミー:本当に……怖がってた私の時間を返して欲しいわ。まったく、なんていうか……子供なんだから!
アシミー「はぁ……なんか、調子が狂うわね。でも、バケットに“様”をつける生活よりは、ずっとマシなのよ」
それから、何故、アシミーがバケットの手下にされたのかについて、ネルは不思議そうに問い掛けた。
アシミーは、静かに俯いてから、消えそうな声で、自身に起きた「最悪」という名の日々を語り始めた。
読んでくださりありがとうございます。
面白い・気になる・そう感じていただけたら、☆5〜3で評価をもらえたら、嬉しいです。
逆にイマイチや、良くないと思われたら☆1~2で教えてもらえると励みになります。
これからも頑張りますので、よろしくお願いします。
下にある[ブックマークに追加]もしてもらえたら、嬉しいです。




