21、ネルとアシミーの庭掃除?
2人が向かっているのは、バケットの屋敷まで続く庭であり、ギルドが話していた調査と確認のために向かおうとしていた場所だ。
アシミー「ネル。まったく、もう! ギルマスに失礼すぎるよ!」
ネル「あらあら、アシミーちゃんは嫌だったかい? ボクちゃん的には、穏便に済ませたつもりなんだけどなぁ」
アシミー「どこが穏便なのよ……私からしたら喧嘩を売って、バチバチにしか見えないわよ」
街中を歩きながら、自然と会話が交わされる。
ネルがクスッと笑うとアシミーが、ジト目で視線を上向きにする。
アシミー「なんで、笑ったのよ?」
ネル「えぇ、ボクちゃんと話すアシミーちゃんから、変な語尾が消えたからかなぁ、今の方が可愛いからねぇ」
直接ネルの言葉を向けられたアシミーは、軽く赤面すると途端に視線を逸らした。
アシミー:今言わなくても……そんなに変だったのかしら……私なりに完璧なはずだったのに……
ネル:アシミーちゃんたら、ボクちゃんに可愛いって言われて照れるなんて、可愛いなぁ。本当に最高だよ〜アシミーちゃん。
アシミー「だから、なんでニヤニヤしてるのよ! もうぅぅ!」
そうして、ネルとアシミーの2人は目的地であるバケット邸の庭に到着する。
バケット邸に続く森のようになった庭を覆うように強固な鉄製の侵入防止柵があり、入口となる門の前には既に大勢の人々が集まりだしていた。
アシミー:やっぱりすごい集まってるわね……ギルドについて説明するの面倒くさそうだなぁ。
ネル:普段なら邪魔なノイズだけど……今回はボクちゃんとアシミーちゃんの為の観客みたいなものだから、大歓迎だねぇ〜!
入口には、桑や鋤といった先端が鋭く尖った農具を手にした男達が緊張した表情で睨みを効かせている。
ネルは悩まずに、その集まった集団に向けて、宣言するように大きな声で喋りかけていく。
ネル「やぁやぁ、ボクちゃん達が魔物を個人的に狩りにきてあげたよぅ」
ネルは即座にそう口にする。要件だけを伝えた形になり、集まっていた男達が唖然としていた。
数人が口々に質問をするが、ネルはアシミーを見て、ニッコリと笑う。
ネル「さぁ、ボクちゃん達だけでいこうかぁ……ギルドがやらないから仕方ないしねぇ、早くお片付けしにいこう〜」
アシミー「あ、ネル! もう、皆さんすみません」
アシミーは素早く、集まった人々に頭を下げてから、ネルの後をついていく。
ネル:時間の無駄は人生の無駄って言われてるからねぇ……説明とかはしてあげなぁ〜い。だって無駄だもんねぇ。
アシミー「よかったの? ネルに質問してた人達、みんな無視してたけど」
ネル「えぇ? なんか言ってたかなぁ……ボクちゃん、アシミーちゃんが横にいるなら、他のノイズは無視なんだよねぇ?」
アシミー「本当にネルは、マイペース過ぎるわよ。でも、ネルだもんねぇ、仕方ないかぁ」
ネル「あはぁ、そうさぁ。ボクちゃんからしたら、最高のピクニック気分だからねぇ……さぁ、お邪魔な害獣をスパスパ、お片付けしちゃおうかぁ〜」
2人はバケット邸の庭を進んでいく。数時間ぶりのバケット邸の庭は朝と同様に静かで、街中が魔物騒ぎに翻弄されているなどと微塵も感じさせる様子はなかった。
ただ、それも2人が庭の中間に足を踏み入れるまでの話であり、途中からは草木が擦れる音が2人を包囲するように迫ってきている。
アシミー:情報なしで来たけど、バケットの使役してた従魔を考えたら、DランクからGランク程度の魔物かしら……数が分からないのが厄介ね。
警戒するアシミーの横でネルは小さく笑った。
ネル「アシミーちゃんは、真面目だよねぇ? リラックスしてよぅ……せっかく2人きりのピクニック気分なんだからさぁ」
アシミー「普通はそうならないのよ? はぁ、ネルって、なんていうのかなぁ、落ち着いてるっていうか……自信しかないわよね」
その場でネルが足を止めると、アシミーも周囲に視線を確認するように動きを止める。
ネルは、わざとらしく、自身の顎に人差し指を当てて悩むような仕草をするとアシミーに視線を合わせていく。
顎から人差し指をゆっくりとアシミーに向けたネルはそのまま、伸ばした手を開くとソッとアシミーの頬に触れる。
頬を触られたアシミーがビクッと身体を震わせるとネルは笑いながら呟いた。
ネル「逆に聞くけどさぁ……アシミーちゃんの前で、カッコ悪いボクちゃんなんか、なんの価値があるっていうのさぁ〜」
ネルがアシミーを見つめながら、そう言い終わる寸前、茂みが激しく揺れ、ダークファングがネルに向かって噛み付こうと飛びかかる。
アシミーがダークファングに気づいて、ネルを守ろうとした瞬間、ネルはアシミーに向けていた暖かい視線を冷めた視線へと切り替え、音の方へ視線を向ける。
ネルの視線の先、ダークファングに向けて左手を振り払う。
一瞬で吹き出した血飛沫をネルは煙を傘のように広げると、しっかりとアシミーにかからないように防いでいく。
アシミー「はぁ……ネルといると、本当に寿命って概念がなくなりそうね……早すぎて、びっくりよ」
ネル「あはぁ〜びっくりしたのかぁ〜い? ボクちゃんってば、魅力的なのかなぁ〜」
アシミー「まだ来るわね……なら、次は私がネルに凄いところを見せてあげるわよ!」
触腕髪から複数の【鋼糸】を放つアシミー。
その鋼糸が姿を現した直後のオーク3匹の頭部を綺麗に貫いた。
ネル「やるねぇ、ボクちゃんも負けられないなぁ」
アシミー「私だって……これならネルに負けないわよ。むしろ、私がネルより、たくさん狩るんだから」
ネル:アシミーちゃんと共同作業なんて、まるで結婚式みたいじゃないかぁ……嬉しくてドキドキしちゃうよぅ。
アシミー:ネルったら、余裕の笑みを浮かべてるわね。いいわ……私の凄さを教えてあげちゃうんだから!
ネルは次々に【煙視】を広げて、索敵をしながら、オークにウルフ、ボアにコボルトとEからGランク程度の魔物達を片付けていく。
アシミーも【鋼糸】以外の糸を使うことで、索敵を行っている。
触腕髪から放たれた糸から周囲の地形や木々の位置、生物の温度を判断して、魔物を発見し討伐していく。
ネル「アシミーちゃんは、ボクちゃんより器用みたいだねぇ〜羨ましいなぁ」
アシミー「よく言うわよ! ネルみたいに全部を見渡すなんて、それこそ羨ましい限りだわ」
軽い会話風景に似つかわしくない魔物の死骸。その数の多さは異常と言えたが、なによりも異常なのは2人の存在だろう。
仮に魔物が2人を言葉にするなら、捕食者や敵などの部類ではなく、死神や悪魔に近いのかもしれない。
ネル「ボクちゃんは、やっぱりアシミーちゃんといるとワクワクしちゃうよぅ〜」
片手に掴んだウルフの頭部を砕きながら微笑む。
アシミー「そんな状態で言われても、嬉しくないわよ……ねぇ、ネル? 本来はここから出るなって命令されてるはずの魔物達がなんで、いきなり暴れて街に出たと思う?」
ネル「知らないなぁ、ただ、ボクちゃんが始末し損ねた大物でもいたのかなぁ……」
会話が終わる前に、木々の奥から“ぐうぅぅぅ!”と、唸り声が聞こえてくる。
ネル:何かなぁ……何かなぁ……獣臭が強くなってるねぇ……ワクワクだねぇ……巨大な猫?
ネル「なんだぁ……でかい猫ちゃんが残ってたのかぁ……強い魔物かと思ったら、猫じゃなぁ……」
アシミー「な、何が猫よ……ネル、よく見なさい! あれは、ビッグジャガーよ!」
アシミーの声にネルは視線を“でかい猫”へ向けて、悪い顔をするとニヤリと笑った。




