2、とりあえず、亜人のアシミーは攫われます。
震える亜人の少女は口を強く閉じるが、諦めたように視線を下へと落とすと、何かを告げようと口を開いた。
そんな、亜人の少女の声を聞こうとネルの口角が緩んだ瞬間、ネルの耳にノイズが飛び込んでくる。
開かれたままの扉、外から店内に入ってくる男が1人、身なりのいい男は店内に入って早々に声を荒らげた。
バケット「何をしている! この役立たずが! 何のためにお前みたいな、犯罪者奴隷を買ったと思ってんだよ! くそタコが!」
その場のすべてを無視して始まったやり取りは、酷く歪なものでしかなかった。
ネル:無視されるのも、イライラするし、お嬢ちゃんの声を掻き消されたのはもっとイライラしちゃうじゃないかぁ……でも、ボクちゃんは、こんな時にどうするべきか知ってるんだよねぇ。
ネル「うるさいんだよ! ノイズキャンセラー!」
ネルの握り締めた拳がフルスイングでバケットの顔面へと打ち出される。
ノイズを撒き散らしていた男、バケットに拳が命中したと同時に入口の扉横に大きな穴が空き、外から清々しい風を舞い込んでくる。
ネル「ごめんよぅ、ボクちゃんとお喋りするために頑張ってくれたのにさぁ! 話しておくれよ〜」
固まる亜人の少女、ネルが視線を向けると悔しそうな表情をネルに向けている。
亜人の少女「本来の力があったら、アンタなんかに負けないんだから……絶対に負けないんだからね」
悔し涙であろう、無数の雫が頬に流れ、ネルはそんな表情を前に困惑したように慌てふためいている。
ネル:理由が分からないじゃないかぁ。ボクちゃんは仲良くなるために、邪魔なやつらをどかしたのは、多分〇だよね? 自己紹介もした、これも〇!
ネル:あ、わかった……最後のやつが、悪口を言ったから、悲しんでるんだ! なら、解決法は1つしかないよねぇ!
亜人の少女をその場に置いたまま、ネルは急ぎ足で外へと向かう。
吹き飛ばされたバケットが地べたで寝ているのを確認したネルは、すぐに店内へとバケットを引きずっていく。
亜人の少女の前まで引きずり終わると、意識のないバケットの頭を持ち上げて、腹話術をするように口を開かせては、喋っていく。
ネル「ボクちゃんはネルだよ。君のお名前は?」
亜人の少女「ひぃ、なんなのよ……」
ネル:おや? 逆に怖がらせちゃったみたいだよねぇ……使えないなぁ。
バケットが使えないと理解するとネルは、無造作にバケットを放り投げる。
壁に叩きつけられ、床に落下したバケット。だが、すぐにバケットへと歩み寄る。その手に付けていた腕輪に『魔玉』を見つけると、素早く取り外した。
ネル:すんなり取れなかったら、手首からスパッと切っちゃうつもりだったから、簡単に取れてよかったよぅ。
腕輪を見つめる亜人の少女の目が絶望に染まっていく。
ネル「おやおや〜? どうしたのかなぁ……そんな顔で見つめられたら、ボクちゃんも傷ついちゃうじゃないかぁ?」
亜人の少女はいきなり、真顔になるとすぐに泣き出した。あまりの変化に慌てるネルは理由を知るために質問をしていく。
ネルに悔しそうに泣きながら、亜人の少女は涙のわけを語っていく。
腕輪に付けられていた魔玉は【水性亜人操作】と呼ばれる超レアスキルの魔玉であり、亜人の少女はその魔玉により、力を半減されて、指示に従うようにバケットに命令されていた。
ただ、そこまでの情報を素直にネルに告げたのもまた【水性亜人操作】の魔玉が付いた腕輪をネルが手にしてたからに他ならない。
ネル:素直な会話ができないなんて、つまらないし、面白くないじゃないかぁ……
話を聞いた後、ネルは腕輪を亜人の少女に見せてから、付けられたビー玉サイズの魔玉を抜き取って口へと運ぶ。
亜人の少女「え、ちょっと!」
そんな亜人の少女が声を上げた瞬間、“ゴクリ”と魔石を飲み込んでいく。
亜人の少女「あ、アンタ……おかしいんじゃないの! 魔玉よ、魔玉を飲み込むなんて……」
ネル:「あはぁ! ボクちゃんは特別だからねぇ……」
無価値になった腕輪を放り投げ、再度、ネルは、亜人の少女へと微笑みを浮かべた。
ネルが亜人の少女に喋りかけようとするが、先に亜人の少女が恐る恐ると言った様子で口を開く。
ネル:嬉しくて今すぐに抱きしめたいよぅ、理性が吹き飛びそうで仕方ないじゃないかぁ、今は我慢……あぁ、我慢できるボクちゃんはなんて偉いんだろう。
亜人の少女「アンタ、なんなのよ……ありえないのよ、なんで魔玉を食べれるのよ! 意味が分からないのよ!」
ネル「あらあら〜? 落ち着かないのかなぁ、よちよち、いい子だねぇ」
小さな亜人の少女に対して、ネルが素早く手を伸ばす。
慌てて身構えた亜人の少女に伸ばされた手がゆっくりと頭を撫でていく。
亜人の少女「頭を撫でるのやめてよ! 説明しなさいよ」
ネル「悪い子には教えてあげないよぅ、ボクちゃんは礼儀正しい子にしか、優しくできないからねぇ……さぁ、自己紹介からしておくれよ〜」
頭を撫で続けるネルが視線を下ろす。真っ直ぐにギラついた瞳が亜人の少女から、ネルへと向けられていく。
ネル:ボクちゃんってば、そんな視線を向けられたら、すごくゾクゾクしちゃうじゃないかぁ。
亜人の少女「私はアシミーよ。アシミーノーク、自己紹介はしたわよ!」
ネル「アシミーちゃんかぁ、ボクちゃんはちゃんと自己紹介できる子には優しくするタイプなんだよ〜」
アシミー「それより、私はちゃんと名乗ったんだから、質問に答えなさいよ! 魔玉はどうなったのよ」
慌てた様子でネルへと掴みかかる姿があり、そんなアシミーの行動にネルは笑みを浮かべる。
ネル:まるで愛を求めてくる、ひな鳥みたいじゃないかぁ……ダメだよぅ、我慢できなくなっちゃうじゃないかぁ!
自然に伸ばされたネルの手が、アシミーを抱きしめていく。
ただ、ネルの腕をアシミーは拒まなかった。若干の抵抗、次第に弱くなる手足の動き、諦めたかのように静かに抱きしめられていった。
ネル:肌はぷにぷにで、少し冷たい感じがたまらない。やっぱり欲しくて仕方ない気持ちが爆発しちゃいそうだよぅ。
アシミー「気は済んだでしょ、もうやめなさいよ! それより、質問に答えなさいよ!」
ネル「あはぁ、ごめんよぅ。ボクちゃんってば、大興奮で理性が吹き飛びそうになっちゃうじゃないかぁ!」
頬を赤らめたアシミーに対して、ネルは笑った。屈託のない純粋な笑みにアシミーは不安そうに言葉を返した。
アシミー「なによ、満足したんじゃないの、や、やめなさいよ! なによ、その手は、や、やめて……謝るから、お願い……」
ネル「大丈夫だよぅ、ボクちゃんは淑女だからねぇ……」
アシミー「や、やめてってば……」
アシミー:ダメだ……人の話をやっぱり聞かないタイプじゃない。本当になんなのよ。
諦めたように肩を落としたアシミーをネルは自身の膝に乗せると、幸せな表情でアシミーを抱きしめる。
ネル:あはぁ、途中から真っ赤になっていくアシミーちゃんはやっぱりキュートでたまらないよぅ。ボクちゃんは大満足さぁ。
そうして、ネルはアシミーを脇に抱えると店の外へと向かって歩き出した。
ネル「それじゃ、ボクちゃん達は移動するよぅ〜迷惑料はそいつらからもらっておくれよ。ふんふふ〜ん〜」
ネル:アシミーちゃんと2人きりで話すなら、やっぱり街の外だよねぇ……静かな森が1番かなぁ。
アシミー「ちょっと何処に連れてくきよ!」
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