18、ギルドのやり方
地下に続くギルドの階段。普段はギルドの許可を得ることで冒険者ギルドに登録している者ならば、誰でも使える訓練場である。
無表情のペルグ。
諦めた表情を浮かべるアシミー。
気楽そうに両手を頭の後ろに組むネル。
気怠そうな雰囲気を隠すアイシャ。
そんな4人は無言のまま、地下へと進む。
アシミー:グラードでの冒険者資格の剥奪だけでも、キツイのに……なんでこうなるかなぁ……ネルとペルグさんとか、魔導炉に魔石を直接ぶち込むようなものじゃない……街が引き飛ぶわよ。
ネル:最高に面白いじゃないかぁ……格好いいボクちゃんをアシミーちゃんにアピールしないとだよねぇ。ついでにバカの親玉も潰しちゃおっかなぁ……あはぁ。
辿り着いた先に広がる巨大な訓練場。ギルド全体の敷地を丸々くり抜いたと言われても嘘に聞こえない広い空間になっている。
壁は岩肌を貼り付けたような見た目であり、光を生み出す魔導具が埋め込まれている。
魔導具から作り出された淡い光が訓練場を照らしていた。
ネル:壁に落書き? 魔導具は分かるけど……変な落書きだなぁ……ギルドってやっぱり意味わからないやぁ……それより早く始めたいなぁ……
アシミー:こんな形で、また訓練場に来るなんて思わなかったわね。何年ぶりかしら……壁に付与された【不殺】の模様も変わらないみたいで安心したわ。まぁ……ペルグさんらしいわね。
徐ろにペルグが片手を上げると、アイシャが頷き、壁に作られた窪みに手を伸ばす。アイシャが窪みに触れると模様が輝き出し訓練場全体が眩い光に包まれていく。
ペルグ「待たせたな。準備が出来たぞ」
ただ、そう口にしたペルグは訓練場の中を歩いて行き、中心部分から奥側まで進むと入口側に視線を向ける。
ネルはその動きを理解したように、ニヤリと笑みを浮かべた。
前に進もうとしたネルをアシミーが袖を掴む形で停止させる。
アシミー:言わないと、ネルにちゃんと言っとかないと……不殺の付与があっても、なにをしでかすか分からないもん!
アシミー「ネル、絶対にやり過ぎないでよ。(ペルグさんに)何かあったら、怪我だけでも、大変なんだからね……」
ネル「あはぁ〜大丈夫さぁ、ボクちゃんは淑女だからねぇ……アシミーちゃんの考えは痛いほど分かっちゃうからさぁ……安心しておくれよぅ」
ネル:可愛いじゃないかぁ……ボクちゃんになんか“あったら大変”なんて言われたら、全力で潰して安心させたくなっちゃうじゃないかぁ!
アシミー:よかった……ネルも分かってくれてたんだ。心配して声を掛けたのが、恥ずかしいわね。でも、これで一安心だわ。
アイシャ:なんなのよ……この2人、会話の後で、表情が天と地ほど違うじゃない……アシミーは安心しきってるけど、アイツはヤバい笑ってるし……胃が痛い……帰りたいよぅ。
ネルがペルグと向かい合う位置まで移動する。
ペルグが上からネルを見下ろす形になる。
そうして、向かい合った時、ネルが静かに語り掛ける。
ネル「ただのデカ物ってわけじゃないだろうけどさぁ、ボクちゃんと遊んでくれるんだろう……なら、簡単に倒れないでおくれよぅ?」
ペルグ「お前もただのガキにしちゃあ態度だけはデカいな。背丈程度の発言なら可愛いもんだろうにな」
ネル「なぁ! ボクちゃんは立派な大人だから! もう、許さないからねぇ……ボクちゃんを挑発するなんてさぁ!」
ペルグ「大人にしちゃあ、短気だな? 身長も150くらいか……だが、背丈より中身だな。そういうのを、中身がガキって言うんだ」
ネル「小さな物差ししかないみたいだねぇ……ボクちゃんを測り間違えると、頭が空っぽになっちゃうよぅ〜!」
ネルは両手を広げる。完全に無防備な体勢でペルグを挑発するように苛立っていた顔を笑みに変えていく。
そんな無防備のネルに対して、ペルグは会話をやめると手を握り拳を作り出す。
ネル:イライラしちゃうなぁ……なんでボクちゃんの身長とか、アシミーちゃんの前でバラしちゃうかなぁ! 女性の秘密をバラす奴はバラバラにして返さないとだよねぇ。
ペルグ「準備は出来てんだろうが? 早くかかってこい。オレもお喋りに時間を使えるほど、暇じゃねぇんだ」
ネル「ボクちゃんも、オジサンとお喋りするより、アシミーちゃんを抱きしめて、ずっと撫でてる方が大好きだからねぇ……早くやろうよぅ!」
2人の会話が終わろうとした矢先、地下室に、ブルーガが他の職員に連れられて降りてくる。
手に巻いた三角巾がアシミーとのやり取りを浮き彫りにするが、それをブルーガは口にすることはない。
アイシャ「来たね、ブルーガ。アンタも関係者なんだから、見てな!」
ブルーガ「怪我人をわざわざ呼ぶなんて、ペルグの旦那もヒデェよな」
アイシャ「何言ってんの? アンタが動けるようになったら連れてくるように言ったのはアタシだよ。静かに見てな!」
その場の視線が訓練場に立つ2人へ向けられる。
ペルグ「改めて名乗らせてもらうが、このグラードの冒険者ギルドを任されている。ペルグ・ランテだ。お前の非常識さはよく耳にしているぞ。ネル・ニルガル……」
ネル「そうなんだぁ、ボクちゃんはオジサンのことなんか知らないけど、自己紹介されたら、淑女なら、返さないとだよねぇ? ボクちゃんは、ネル・ニルガル。アシミーちゃんの、ただ一人のお友達さぁ!」
アシミー:心が痛い……なんで今なの、ペルグさんに言う必要ある……ないでしょ! 自己紹介じゃないわけ。
ペルグ「……そうか」
ネル「そうだよぅ、ボクちゃんとアシミーちゃんは友達なのさ! 自己紹介は終わりにして、やり合おうじゃないかぁ」
ネルの話を終える前にペルグがため息を吐くと、両手を腰に回す。ベルトから2本の鉈を抜いて構えをとる。
ネル「仕掛けてこないのかい? そんなにボクちゃんが怖いのかなぁ?」
ペルグ「安い挑発だな。レディファーストだ。自称淑女らしいからな」
ペルグからの反応に、ネルが明らかな苛立ちを顕わにさせる。
ネル:今までのお馬鹿さん達とは少し違うんだろうけどさぁ……ううん、ボクちゃんは淑女だから、冷静にならないとねぇ……それに、わかるんだよねぇ……雰囲気でさぁ。
ネル「魔玉の力だけじゃないよねぇ? “職業持ち”かなぁ……」
そうネルが口にしたと同時に、ペルグが一気に踏み込み、その一歩で距離を縮めると、2本の鉈をクロスさせて斬りかかる。
一瞬の出来事だったが、先程までのやり取りで冷静になっていたネルは2本の鉈の軌道を判断するように、ギリギリで回避をしていく。
ペルグ「冷静だな……今ので首……と、まではいかないが、腕の1本でも使用不可判定にするつもりだったんだがな?」
ネル「あはぁ、お生憎さま〜ボクちゃんは冷静に対処させてもらいま〜す。それに当たらない刃は単なる子供のお遊戯だからねぇ……」
ペルグは無言のまま鉈を乱撃すると、途中からは風魔法を刃に纏わせ、風の刃を飛ばしていく。
ネル:あはぁ〜すごいじゃないかぁ……ボクちゃんは満足するまで、鬼ごっこを楽しむことにしようかなぁ〜。
ペルグ「よく逃げるな。普通は何発か当たって痛い目に合うだろうに、ったく」
ネル「当たれば痛いよねぇ……でもさぁ、痛いから諦めろとかって、理不尽じゃないかぁ」
ペルグ「本当に……頭が痛くなるバカタレだなぁ。実戦なら死んじまうってのに」
ネル:わかるさぁ……ただ、それって、命を大切にして生きてる側の意見に過ぎないと思うんだよねぇ……命を賭けて森で獲物を狩るなら、これは最高に生きてるって、ボクちゃんは感じるのさぁ。
地下室で今も続く攻防……ネルは笑いながら回避を選び、ペルグは無表情で攻撃を繰り返していく。




