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『好きに生きるから楽しいのさぁ』☆アウトローズ☆問題児たちに常識を  作者: 夏カボチャ 悠元


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16、アシミーの大切なもの

 ネルが冒険者ギルドに足を踏み入れた瞬間、ギルドに併設された酒場側から、いぶかしげな視線と不安を形にしたような表情が複数人から向けられていた。

 次第に集まる視線とネルとアシミーに向けられる会話が僅かなざわめきを作り出していく。


 グラスを置きながら、視線だけを向ける者もいれば、逆にいきなり黙る者、その場の空気がネル1人に塗り替えられていくようだった。


 冒険者A「おい、あれって……」

 冒険者B「馬鹿、見るなって。どうして、ネルのやつが、ギルドなんかに……」

 冒険者C「ん? ありゃ、横にいるのって……アシミーか? あいつ、生きてたのかよ」


 そんな僅かな会話にネルが目を細めて一瞥いちべつする。

 視線が重ならないように下を向く冒険者達にネルは口をへの字にしながら、呆れたようにため息を吐いた。


 ネル「はぁ……ボクちゃんてば……ギルドとか、うるさくて嫌いなんだよねぇ。アシミーちゃんと一緒じゃなかったら、ぜ〜たいに、ギルドなんて来ないもんねぇ」


 ネルの発言に下を向いていた冒険者達の数名が頭を上げる。だが、それだけだった……誰一人として、ネルに直接、文句を口にする者はいなかった。


 ネル:カッコ悪いなぁ……ボクちゃんみたいな女の子にこんな風に言われて、何も言い返さないのかなぁ……分からないなぁ……それが紳士的とか思ってるのかなぁ?


 アシミー:なんで、ネルはいきなり喧嘩を売るような言い方するかなぁ……ギルドで揉め事なんて、一番ダメなのに、もう……


 アシミー「好き嫌いを言わないの! それに、ネルが非常識なのよ。普通は魔物の討伐は、ギルドの依頼を通すものなのよ!」


 ネル「怒らないでおくれよぅ〜? ボクちゃんは別に好き嫌いなんか言わないよぅ? ただ、ノイズがうるさいと壊したくなっちゃうだけなのさぁ」


 アシミー「ネル……わかったから、少し静かにしましょうよ……みんなからの視線が居た堪れないから……お願いよ」


 ネル:アシミーちゃんから、お願いされちゃった! ノイズを我慢したら、ご褒美が貰えるなんて、やっぱりボクちゃんがいい子だからだよねぇ。


 ネル「わかったよぅ。アシミーちゃんの為に我慢するねぇ」


 アシミー「だから、なんで、嬉しそうなのよ! はぁ……いいわ。とりあえずカウンターに向かうわよ」


 ネルを強引に引っ張る小さなアシミーの手、だが、その光景を茶化すような者はギルド内にはいなかった。

 静かに討伐不可の魔物をやり過ごすような歪な空気だった。


 ギルドの受付カウンターまでネルの手を引くアシミー、その視線は無人のカウンター奥で書類整理をしていた小柄な女性へ向けられていた。


 アシミー:よかった。休みだったらって心配したけど、いてくれたわね。


 アシミー「あ、アイシャ! いてくれてよかったわ!」


 アシミーが明るい声を出した瞬間、ネルの鋭い視線が書類整理をしていた赤髪の少女に向けられる。


 奥から慌てて受付へと走るアイシャと呼ばれた少女。

 受付カウンターから顔を突き出して、アシミーの全身を上から下まで確認してから、見た目に反して、ハスキーな声で少女が驚いたように声を発した。


 アイシャ「え、アシミー! 本当にアシミーなんだね。生きてたんだね! と、誰……なんで睨んでるわけ……」


 喜びを声にしたアイシャは、鋭く恨みがましい視線が真っ直ぐに向けられている事実に気づいたのか、表情を凍りつかせてから、ぎこちない笑みを浮かべた。


 アイシャ:なに、この人……殺気バリバリじゃん……アタシなんかした。初対面だよね!


 アシミー「ネル! なんで、そんな顔なのよ……アイシャは私の担当をしてくれてる受付嬢なのよ」


 アシミー:なんで、ネルは攻撃的なのかしら? アイシャはいい人なのに、困ったわね。


 ネル「……それってさぁ……アシミーちゃんの友達って意味なのかなぁ……」


 ネル:ボクちゃん……我慢できないかも……アシミーちゃんと初めての友達はボクちゃんじゃないのかい……アシミーちゃんの言葉が嘘なの……


 アイシャ「え、えっと……初めまして……受付を担当しているアイシャです……

 質問の内容ですが……アタシとアシミーは、仕事を頼む側と受けてもらう側になると言いますか……友達とはまた違うと言いますか……」


 引き攣った笑みを必死に作るアイシャ。その言葉を言い終わる直前まで、ネルは、ただゆっくりと前に進み、距離を詰めていく。


 アイシャの言葉を最後まで聞いて、ネルはその歩みを止めた。


 ネル「そうなのかぁ〜い! ボクちゃんは、アシミーちゃんの初めての友達でネル・二ルガルって言うのさぁ〜よろしくねぇ……アイシャちゃん」


 ネルの唐突な明るい挨拶にアイシャは身体をビクリと震わせたが、笑みを保つように笑いかける。

 そんなネルの背後で拳を作り、ふるふると震わせるアシミーの姿があった。


 アシミー「べ、別に友達がいないわけじゃないから、ただ……ずっと1人でいたかったからソロだっただけよ」


 アシミー:泣きたい……なんで大声で、友達が1人もいなかったみたいな言い方するのよ……ネルのバカ!


 アイシャ:あちゃー、アシミーに酷いこと言っちゃったなぁ、友達かって聞かれたら、ギルドとしては仕方ないじゃない……ただ、友人って言うべきだったかなぁ。


 ネル:やっぱり、ボクちゃんが最初のお友達だったんだねぇ〜あはぁ〜!


 ネルの横から、アシミーが前に出る。

 カウンターの高さに僅かに届かないアシミーは再度、全身を震えさせた。


 アシミー:なんで、ギルドのカウンターはこんなに高い位置にあるのよぅぅぅ!


 アイシャが慌てたように、受付カウンターから台を取り出す。


 アイシャ:ギルドカウンターって……120センチだから、アシミーには少し高いのよね……忘れてたわ。


 ネル:アシミーちゃんが頑張る姿は本当に可愛いなぁ、ボクちゃんが抱っこしたいけど、頑張るなら見ててあげるのが友達だよねぇ〜ボクちゃんてば、優しいじゃないかぁ〜!


 アシミーは悔しそうな表情を浮かべながら、手渡たされた台を受け取り、足元に置くと何事も無かったように受付カウンターからアイシャを覗き込んだ。


 アシミー「久しぶりね。色々あったけど、帰ってきたわよ!」


 アイシャ:あ、そのまま話を続けるんだ……アシミーって、変に精神力強いんだよねぇ。


 アイシャ「あ、うん。それよりも、アシミー! アンタ生きてたんだね……アタシはアンタが護衛クエストを受けてから、ギルドに顔を出さないから、てっきり……」


 アシミー「簡単に人を殺さないでよ! アイシャは大袈裟なのよ。まったく」


 アイシャ「違うって、アンタがギルドに顔を出さないから、てっきり、手篭めにされて冒険者を辞めたのかと思ってたんだってば」


 本気でそう口にしたアイシャにアシミーが全力で鳥肌を浮かび上がらせる。


 それと同時にネルの表情が固まり、アシミーに対して、ネルから怯えたような視線が向けられる。


 ネル「ア、アシミーちゃん……お嫁さんにされてたのかなぁ……ボクちゃん……アシミーちゃんの……」


 アシミー「ネル、落ち着きなさいよ! ムリムリ! あんな気持ち悪い奴の嫁なんて、絶対にありえないわよ!」


 アイシャ「だよねぇ……ただ、噂にはなってたんだよ?」


 アシミー「え、噂ってなによ?」


 アイシャ「だってさぁ、アシミーってば、先月期限の冒険者更新できてないから、事実的に冒険者資格はリセットだし? それでも顔出さないから、延長の10日も過ぎてるしさ……気づいてた?」


 その言葉に、アシミーの表情が絶望に歪んでいく。


 アイシャ:こりゃ、気づいてなかったパターンだねぇ……気まずいなぁ。


 アシミー「わ、私のギルドランクがリセットなんて、嘘でしょ! だって、戻ってきたのよ!」


 アイシャ「気持ちは分かるんだけどねぇ、ギルドにも規則があるから、こればっかりは、どうしようもないんだよね」


 困った表情を浮かべるアイシャ、ただ、アシミーも同様の表情で必死に説得する。


 アシミー「私はここにいるのよ。更新できなかった理由だってあるの、お願い聞いて」


 アイシャ「理由があるのも、考慮してる。それでも、期限は期限なんだ。全員が同じ規則で例外は作れないんだよ」


 アシミー「……それは、分かってる。でも、納得できないのよ」


 アイシャ「はぁ……厳しくなるけど、アシミー、音沙汰なしだったのは事実だよね? 分かってるんでしょ?」


 アシミー「それは……」


 アイシャの一言が決め手となり、諦めたようにアシミーが肩の力を落として会話が終了する。


 無表情のアシミーが唇を噛みながら、ネルへと視線を向けた。


 アシミー「ネル……私のBランクが、無くなっちゃった……」


 無表情のまま、泣き出しそうなアシミーは消え去りそうな声でネルへと、そう告げた。


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