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もしかして俺って、もつれた状態? ~現実と異世界に別れた場合、上手くリンクできるのかな?~  作者: イニシ原
第1章 俺は一人で、二人いる。

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第1章 第三話 負けイベントなら気楽にいこう。応援ももらったし、カッコよく決めちゃうよ。……あれ、この赤いのは何?

 じわり……じわりと、二本足で立った奇妙なイノシシが近づいてくる。

 体は揺れているのに、進む方向だけは真っ直ぐだ。

 ふらふらした拍子に、長い牙が、きらりと光った。


 俺は、振り返る。

 画面の向こう、室内の俺を見た。

 気づいたときには、額を伝って、汗が落ちていた。


 たぶん、道を間違えただけだ。

 そんなことで、責める気なんてなかった。


「ミヅキ、平気だよ。俺がやっつけるから、待っててよ」


 それに対して、ミヅキは、ほんの少しだけうなずいた。

 それ以上、何も言わなかった。


 整列するウリ坊たちが、クゥー、クゥーと鳴きながら包囲してくる。

 手に汗して剣とコントローラーを持って、その中へ向かって行った。


 三人称の画面で見ているおかげで、突撃してくる動きがよくわかる。

 俺はそれをかわし、剣を振って飛び上がり、着地と同時に、またかわす。

 真空刃が走り、先頭の一体に当たった。


 ――当たった、はずだ。


 ウリ坊は、よろけただけだった。


「……ん? 倒せてない?」


 もう一体が、タタっと走って来る。

 体当たりされる前に、もう一度。


 真空刃。


 今度は、確かに吹き飛んだ。

 地面を転がって、ぴたりと止まる。


 ……のに。

 すぐに、もぞっと起き上がった。


「一発じゃ、足りない!」

「こいつら、強いのが交ざっている?」


 同じウリ坊に、間を空けず真空刃を叩き込む。

 二発目。

 それでも、倒れない。


 ……三発目で、ようやく動かなくなった。


 いくつか地面に転がるウリ坊だけど、減った様子はなかった。

 ミヅキを見れば、さっきから俺のことを見ていてくれる。

 心配になって声を掛けた。


「これじゃダメだ、一緒に逃げよう」


「うん」


 俺が言うのを待っていたように、ミヅキは走り出した。


「こっちへ来て」


 でも、そっちは傾斜がきつい壁のような崖だ。


「早く!」


 俺は、急かされてミヅキの方へと駆け出した。


 隣まで着くと、何も言わずに手を握られた。

 ぐいぐいと引っ張られて行く。

 そっちはどう見ても、崖しかない。

 岩肌がむき出しで、上に道なんて見えない。


「え? そっちは――」


「いいから!」


 迷っている暇はなかった。

 気づいた時には彼女は傾斜を走っていた。


「飛んで!」


 俺も、傾斜に足を掛けた。


 ――滑る。


 そう思った、次の瞬間。


 踏ん張れていた。


「……え?」


 感触が、ある。

 岩に、ちゃんと足がかかっている。


 ミヅキがどんどん登っていく。

 体が、自然に動きを合わせる。


 背後で、ウリ坊たちの鳴き声が遠ざかる。


 振りかえることなどできない。

 俺は横からミヅキの顔を見つめるしかなかった。


 傾斜が緩やかになった時には、丘の反対側についていた。

 ミヅキは両腕を持ち上げて、ふぅーと深呼吸。

 俺は、まだ繋いでいたと思った、その手はコントローラーだった。


「ねぇ、リクってどこの人なの?」


 ミヅキがいきなり聞いて来た。

 何かを確かめるように目を向けてきた。

 くりっとしたカマボコ目。

 その赤い瞳が、妙に離れない。


「この辺りの人じゃないよね。全然、見かけないんだけど?」


「え、そうだね? 最近始めたばっかだからさ」


「ふうん……」


 ミヅキは、少しだけ目を細めた。

 もしかして、俺のことを怪しんでいる?


 ジロジロ見てくる。

 どうやらそれ以上は聞いて来なかった。


「な、なんかおかしい?」


「別に……」

「……ただ、あれを見て」

 ミヅキが横に向いた。


 少し遅れて、同じ方を見る。

 遠い靄の中に、白い城が浮かび上がっていた。


「……遠そうだけど、行ってみたいな」


「違うわよ。見るのはあっちよ」


 差された先には、ウリ坊の大群。

 さっきなんて目じゃない程、この山に登って来ていた。


「あれって、僕たちを追いかけて来ているのかな?」


 ミヅキは声には出さない。

 でもまた、当たり前でしょ?と言う顔だった。


 ……そうか、これもイベントなのか、な?

 とりあえず、説明書でも読んでみようかな?


 コントローラーをテーブルに置く。

 ゲームの箱から説明書を取り出して読んでみた。


 ――最初の方に出る、モンスターとかのイラストか……。

 いままで見て来たモンスターと、全然似てないな。

 ウリ坊なんて、立ってないぞ?


 ボスは、っと……。

 やっぱりイラストが違う。

 それに、何が書いてあるんだろう。


 ……字、小さすぎない?

 俺、もうおじいちゃんかな。


 それに、なんだか剣を持つ手が重いような……。


 俺は、画面の中の俺と見つめ合った。

 ……とくに変わった気はしなかった。


 もう一度、説明書を見ると、さっきほど文字は小さく感じなかった。

 気になったのは”負けイベント”の文字。

 ああ、聞いたことはある。

 どんなことをやっても、負けてしまうイベントだ。


 ……じゃあ、何もしなくてもいいのかな?


「何をしているの? もっと頂上に行かなきゃ」


 ミヅキは一人で歩き出す。

 振り返りもしない。

 俺がついて来るって、最初からわかっているみたいだった。


 ……仕方ない。

 俺も、あとを追った。


 ここまで来たんだ。

 やれるところまで、やってみよう。


 この先、何が起きるのか――

 それを考えると、ちょっとワクワクしてきた。


 コントローラーを握り直し、剣は軽やかだ。

 足も速く、ミヅキについて行く。


 そして、頂上でウリ坊たちに囲まれるのには、さほどかからなかった。


「頑張って来るから、見てて欲しい」


 ……負けるにしたってカッコよく負けたいよな。

 そう思ってミヅキに、言ってみた。

 返事は期待もせず、ウリ坊たちに向かって行った――

 そのとき。


「リク頑張ってね」

 今までと違う優し気な声と――

 ハートが飛んでいったような、投げキッスを受け取った。


 軽やかな音楽が聞こえる。


「え? レベルがあがった!」


 嬉しいやらどうなっているやらで、混乱しそうだ。

 落ち着く為に、そのままウリ坊たちに突撃した。

 それが、自分でも何をしているのかわからない。


 だけど、剣を――コントローラーを弄ることだけで楽しかった。


 それに、輪を掛けたことがある。

 真空刃を放つと、今までの倍……

 いや、三倍はありそうな広さで、空気の刃が走った。


 ウリ坊たちは、吹き飛んでいく。

 ……倒しているのか、ただ転がっているだけなのか、よくわからない。


「……なんだこれ、楽しい!」


 でも、わかってきた。

 どれだけ倒しても、麓から……そして森の奥から現れる。


 その群れの中に交ざった、デカいイノシシが中腹まで来ていた。


 ……やっぱり、あいつには勝てないイベントだよな?

 そろそろ、諦めようかな?


 ……そのときだ。


「リク~、頑張って。あいつも倒せ~」


 頂上から届くその声に、考えが百八十度かわった。


 え?倒せ?


 ……倒せるの?

 もしかして、なんとかなるのでは?


 もう、とにかくウリ坊たちは吹っ飛ばして、イノシシまで突っ走った。


 ……もうすぐ、辿り着く。


 そう思った、その瞬間。

 足が、つるりと滑った。


 なんてことはない。

 すぐに立ち上がれば――


 パシャ。


 手を地面についた感触。


 ……ぬるい?


 まさか、スライム?

 そんなことを考えた――


 いや、違う。


 手が、赤い。

 血だらけだ。


 よく見れば、

 手だけじゃない。

 膝も、太ももも、

 下半身が、全部――


 周りを見た。

 半分になったウリ坊たち。

 鉄のような匂いが、あたりに満ちている。


 ……あいつに、勝つの?

 俺が?


 いや――

 負けないと、いけないんだよな?


 ああああぁー!

 これでもくらえ!


 真空刃、真空刃、真空刃ぁ!


 ……あ。


 血の雨だ。


 目の前のイノシシのものじゃない。

 空を舞っているのは――

 さっきまで、俺が吹き飛ばしていたウリ坊たちのだ。


「ごぼほぉぉぉ」


 な、なんだ?

 二本足で仁王立ちしているイノシシが叫んでる?


 俺の体中が震えている。

 そう、思った。

 でも違う。

 手の中のコントローラーが、まるで心臓みたいに脈打っていた。


 イノシシの姿がいくつも見えた。

 震えのせいに違いない……でも違った。


 そこには、複数のイノシシの影があった。

 一匹の肉体に無理やり入り込もうとしているようだった。

 さっきから、ゆらゆらしていたのはそのせいか。


 そう悟った、その瞬間――

 全ての重なるイノシシが――俺を見た。


 俺は、コントローラーを……剣をほっぽり投げた。

 逃げたくなった――このゲームから。


 ……こっちへこい!


 画面へ一緒に近づく。

 自分が自分になっていく感じ……。

 あたりまえだ、俺は一人なんだから。


 お互い、手を伸ばした。

 でも、そこには薄い膜みたいなものがあった。


 邪魔だ――

 そう思った瞬間、視界が歪む。


 手が触れ合う――

 そんな気がした時。


 俺たちの境界が、大きな音を立てて、ガラスのようにバキバキと割れた。

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