表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしかして俺って、もつれた状態? ~現実と異世界に別れた場合、上手くリンクできるのかな?~  作者: イニシ原
第3章 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

第3章 第二話 違和感が芽吹いた第十一話: 恐怖を感じない理由はわからないまま、それでも「この俺のまま進む」と決めた瞬間。

「きゅう……っ、吸血鬼ぃ!?」


 その叫びは、現実の六畳間と、抜けるような青空が広がる異世界の空に、同時に響き渡った。


 俺は混乱し、視線を激しく往復させる。

 現実の部屋では、美月の姿をした「それ」が、俺の至近距離でクスクスと喉を鳴らしている。


 一方、ゲームの異世界。


「本当なんだってば! リク、信じてよ!」


 本来なら顔が真っ赤になるほどだ。

 必死に、形相を変えて叫ぶミヅキ――いや、美月。


 すると、彼女の頭上に――「!」という真っ赤なビックリマーク。

 鮮やかに浮かび上がった。


「え……?」


 唐突なゲーム特有のエフェクト。

 いや、考えてみれば、彼女もゲームの異世界の住人だ。

 そう思うと、混乱はしたが、すぐに納得できた。


 それよりも。

 入れ替わってしまった美月のことが、心配でたまらなくなった。

 俺は吸い寄せられるように手を伸ばす。

 ミヅキの細く白い手をぎゅっと握りしめた。


「大丈夫だよ、美月。俺がどうにかするから。……絶対に元に戻してやるから。でも、吸血鬼っていうのは……一体どういうことなんだ?」


「私……、体が入れ替わって驚いたの。でもそれとは違うの……。わかったの彼女のことが」


 彼女は、なるべく落ち着こうとゆっくり喋る。

 俺の目を見ているのはミヅキだ。

 でも、その瞳の奥には、俺を頼りにしている美月の確かな視線を感じた。


「この体に入った瞬間……断片的だけど、視えたの。それはたくさんのグラスに入れられた赤い血。周りには顔のない大勢の人。それを美味しそうに飲む、彼女――だけど、でも、そのグラスが、どんどん消えていったの」


 彼女は、あ……と、少し驚いたように言葉を切った。

 何か、もっと深い絶望に触れたような、そんな顔だ。


「これはたぶん……放り出されたのね。家から……居場所そのものからだと思う」


 美月の話を聞きながら、俺の背筋に冷たい汗が流れた。

 グラスを捧げられていた彼女が、それを失い、居場所を追われた。

 その話が、間違いないとすると、すごくかわいそうだと思う。


「そうやって、人の心を覗くのは止めなさい。人間がそんなことをすると頭がおかしくなるわ」


 美月の姿をしたミヅキが、座り込む俺の隣にしゃがみ込む。

 耳に吐息が掛かるほどの距離で話を続けた。


「あなた達は知らないようだけど、これはれっきとした魔法の扉なのよ」


 ……魔法。

 そういえば、このゲームのキャラメイクで最初に選べた職業には『魔法使い』があった。

 俺は戦士を選んだから――

 魔法に関わる仕組みなんて、これっぽっちも理解していなかったけれど……。


「元に戻るから、ちゃんと見てなさい」


 美月の顔からは、先ほどまでの自信は消えていた。

 何かを迷っているような――

 あるいは、ひどく疲れ切った子供のようにも見えた。


 彼女は、モニターの中にいるミヅキに向けて、すっと白い人差し指を突き出したようだ。

 何かを呟いている。

 けれど、言葉はまるで聞き取れない。

 ……それは、柔らかく語りかけるような仕草だった。


 それも、あっという間に聞こえなくなった。

 次の瞬間、モニターの画面が部屋の中へ向かって、ぐにゃりと歪みながら飛んできた。


 よく見れば、あの入れ替わりの時と同じだった。

 水面の一点が指先に吸い寄せられるような。


 だが、その頂点が俺たちに触れることはなかった。

 一点に凝縮された歪みは、一瞬にしてモニターの中へと戻っていく。

 いや、戻るだけじゃない。

 今度は弾かれたような勢いで、ゲームの異世界。

 ミヅキの立っている場所へと真っ直ぐに飛んでいった。


 ミヅキの体に触れるか、触れないか。

 そのギリギリの距離まで飛んだ歪みの点は、役目を終えたようにふっと消えた。

 元の平らなモニターの表面へと戻った。


 魔法のことは全くわからなかった。

 だけど、二人の入れ替えが戻ったことはわかる。

 それもただの感覚だけど……。


「……美月」


 俺が名前を呼ぶと、美月は今にも泣き出しそうな、ひどく怯えた顔で俺を見返した。

 その瞳には、さっきまでの冷徹なミヅキの影はない。

 けれど、彼女は自分の肩を抱くようにして震えている。


「私……。私じゃなかったのかも……」


 それだけ言うと、美月は俺を見つめたまま、思考が止まったように固まってしまった。


 ミヅキの頭上にあった赤いビックリマークは消えている。

 表情からは、美月の張り詰めた必死さも消えていた。


 ミヅキは、少しだるそうに、さっきまで自分が入っていた美月の体――

 現実の彼女を眺めていたが、やがてその視線を俺の方へと寄こした。


「驚かしたわごめんね。リクには言ってもわからないと思うけど――私も、こんな楽しい思いをしたのは、初めてなのよ」


 どうする……?俺。


 このゲームでは、初めてのことばかりだ。

 けれど、今さらながら、自分の中に拭いきれない違和感がある。


 なぜ俺は、この異世界に対して「不安」や「恐怖」を抱いていないんだ?

 目の前で、人格が入れ替わるようなことが起きているのに。


 美月は、あんなに震えて、怯えている。

 それが「正常」な人間の反応のはずだ。


 ……きっと。

 美月が正常で、俺の方が、どこかおかしい。


 でも、わからないことを考えても、しょうがない。


 美月には、帰ってもらう。

 ミヅキとは、話せばわかる。


 今はただそうやって進むしかない。

 この「俺」という存在のまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ