0030 - 事後処理
重厚な鉄扉が閉まる音が、第二訓練区画に残った。
その奥へ消えていく二つの背中を、南雲は立ったまま見送った。数秒。足音が完全に遠ざかったのを確認してから、南雲は首元に手をやった。
「やれやれ……」
ネクタイを引き抜く。それを迷いなく太腿に巻き付ける。
弾丸が穿った箇所に、点ではなく面で圧迫を掛け、結び目を締める。僅かに血の流れが鈍るのを確認してから、重心を調整した。
腹部には手をやらなかった。
弾道は浅く、内臓を掠めていない。出血量も限定的。処置の優先度は低い。南雲は床に視線を落とし、散った血痕の位置と量を確認する。
弾丸の入射角。反動。立ち位置。
宮原瑞希が取った間合いと、発砲までの時間。
すべて、合理的だった。
「……流石は、私の教え子、と言ったところかな」
声は低く、区画内に静かに落ちた。
「冷静で、無駄がない。決断も速い」
南雲は胸ポケットから煙草を取り出し、口端に咥えた。
先に火種を灯し、深く息を吸い込む。扉の方を見て薄く目を細めた。
「けどね。宮原くん――その選択は、甘いね」
胸元に手を滑らせる。
煙を避けるように首を傾け、片目を瞑る。
「逃げるなら徹底的にやらないと駄目だよ。無駄なく、致命傷にならない傷を負わせてもね――私は、動けちゃうからねぇ」
乾いた金属音。接合部が軋む音。
南雲は、拳銃を握り、ゆらりと微笑んだ。足音が反響する。静かに、しかし確実に追跡は始まっていた。




