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CHAPTER6『裏社会への招待状』

鉄格子の前に立った瞬間、空気がずしりと重くなった。

盗賊どもの視線が、一斉に突き刺さってくる。

それでもスカルジは涼しい顔のまま歩みを進める。

スカルジの視線が動くたび、地下牢の空気が一段、沈み込んでいく。


――俺はただ、安全な高台で黒パンでもかじりながら見物してたいっす……!

この緊張感、完全に胃に悪いっす!!





その時――スカルジが静かに前へと歩み出た。

ジャッカル獣人の鋭い瞳が、牢の中に押し込められたバースト団の面々を一人ひとり射抜く。


「……貴様ら、よくも我らの貴重な商材を奪ってくれたな」



皮の手袋を外した爪が、何のためらいもなく鉄格子へ突き立てられる。



ギィィンッ!



甲高い音が地下牢に響きわたり、俺の背筋がビクリと跳ねた。



「……悪かったな」

ドロガンは縛られた肩を小さくすくめ、諦めたように吐き捨てた。



「貴様がボスのドロガンか……フッ、無様な格好だな」

スカルジは口元に薄笑いを浮かべ、鉄格子の中に座り込むドロガンをあざ笑った。

挿絵(By みてみん)


そして彼は、鉄格子に爪を立て、冷ややかな声を落とした。

「……貴様ら全員、八つ裂きにしてやろうか」


爪がわずかに蠢き、鈍い光を返す。



――やばい……この人も、ただ者じゃない……。

ドロガンよりも、もっと底知れない怖さを感じる。



俺が息をのむ中、グリムが一歩前へ出る。

「……まぁ、こいつらも殺人を犯したわけではないですからな」


スカルジは口元に冷たい笑みを浮かべた。

「……あなたも随分と丸くなられましたな、グリム殿。ブラッドリバーのグリムと聞けば、このカイラムの犯罪者どもは背筋を正したものですが」


グリムは淡々と、わずかに口角を上げて答える。

「まぁ……昔のことです」



――ああ……やっぱりグリムも昔は修羅場の住人だったんすね……いや、待てよ。もしかして今だって、ただ爪を隠してるだけなんじゃ……?

そう思ったら、急に背中がゾワッとした。



スカルジは爪先で床をコツコツ鳴らしながら、薄く笑った。

「――さて。では、こやつらをどういたしますかな。治安警備隊に突き出すのが筋ではありますが……」



わざと間を取り、鉄格子の中を見渡す。

「もっとも、“捕らえた小物”の扱いは、依頼を果たしたギルドに裁量権がある……報告さえ上げてもらえれば、その程度の融通は我らも黙認しておきましょう」



俺は思わず目をパチクリさせた。

……え、なにそれ?ギルドってそんな権限あったんすか?初耳なんですけど!?



グリムは腕を組み、低く「……ふむ」と短く漏らした。



その視線を正面から受けたドロガンは、縄に縛られたまま必死に顔を上げる。

「……頼む!俺たちを許してくれ! こいつらはもう、カタギに戻す……!ちゃんと働かせて、これまで奪った金品も必ず弁済する! だから……だからもう一度だけ、チャンスをくれ!」



必死の声が牢内に響く。しかし――


スカルジは鼻で笑い、爪先で軽く鉄格子をコツンと叩いた。

「フン……そんな寝言を誰が信じる? 盗賊が真っ当に働く?冗談も大概にしてほしいものだ」


――正直、俺も信じられないっす!盗賊が堅気に戻るとか、魚が空を飛ぶぐらい現実味ないっす!




スカルジはしばし沈黙し、冷ややかな声で告げた。

「……ふん。では、こういうのどうだ?……お前らはザルモンド商会の輸送隊として駆け回ってもらう。逃げることは許さん。一人でも逃げれば――首領であるドロガンの命で償ってもらおう」



ドロガンは縄に縛られたまま、顔をしかめる。

「……わかったよ、こいつらは全員同郷の幼なじみだ。俺が保証する、絶対に裏切らせねえ!」


スカルジは鼻で笑い、薄い笑みを浮かべる。

「言葉だけでは信用には値せんがな……」



その時、グリムが腕を組み、低い声で割って入った。

「――ならばドロガンは、我々リトルリバーで預かる。裏切れば、その時は私が始末する。責任は私が引き受けよう」



スカルジの目が細くなり、ジャッカル獣人特有の鋭さが増す。

「……グリム殿がそう仰るのならば、そういたしましょう。ただし――この約定の責はすべてあなたに帰することになりますぞ」


グリムは微かにうなずき、落ち着いた声で答えた。

「承知している」



ドロガンは顔を上げ、唇を噛みしめながら呟く。

「……助かったよ、借りは必ず返す」



――ちょ、ちょっと待って!?

これって「ギルドに盗賊のボスが新加入しました」って話だよな!?

俺の平穏、どんどん遠ざかってない!?



ミロは小さくうなずき、淡々と口を開いた。

「……これでリトルリバーの戦力は、さらに盤石になりますね」



スカルジがふと振り返り、後ろに控える二人の護衛を見やった。

「……どうやら、お前たちの出番はなかったようだな」


護衛たちは無言のまま、腰のサーベルの柄に軽く手を触れ――それから静かに頷いた。



俺は心の中で叫んだ。

――え、ちょ、マジでこいつら、本気で八つ裂きにするつもりだったのねーーッ!!



グリムは腕をほどき、静かに告げた。

「……では、続きは上で話し合いましょう」


スカルジも薄く笑みを浮かべてうなずく。

「そうですな。こんな辛気臭い場所に長居は無用だ」



こうして一行は階段を上がり、ギルドの一階へと戻っていった。




一階へ戻って扉を開くと――


挿絵(By みてみん)


グゴーッ!……グゴーッ!


……って、アンタまだ寝てんのかよ! ボグさん!



グリムは苦笑しながら肩をすくめた。

「……騒々しくて、恐縮です」


だがスカルジは涼しい顔で黒いハットをかぶり直す。

「いやいや、夏場の蝉だと思えば――これはこれで風流ですな」



グリムとスカルジはホールの端にある大きな机を挟み、椅子に腰を下ろした。


スカルジの背後には、背筋を伸ばしたまま立つ二人の護衛。


少し離れた場所で、俺とミロも静かに腰を下ろし、会話の行方を見守っていた。



スカルジは懐に手を入れ、厚みのある札束を机の上に静かに置く。

「……約束の百万ゼリオンです。ご確認を」


ミロが前へ出て、器用な指先で札を数えていく。紙の擦れる音が、やけに大きく響いた。



スカルジは腕を組み、薄い笑みを浮かべながら言葉を続けた。

「これで我々も、南方方面への輸送にかかる護衛費を安く抑えられそうです」


グリムはゆっくりと腕をほどき、低い声で口を開く。

「……そのことですが……ドロガンから良からぬ噂を耳にしましてな」


スカルジの目が細くなり、じっとグリムを射抜くように見つめる。

「……フム」



グリムは一拍置き、重々しく告げた。

「どうやら、ゴロバ山だけでなく、このカイラム一帯の盗賊どもには“元締め”がいるようなんです」


スカルジの指先が机をトントンと叩いた。

「……ほう、その元締めとは?」



グリムは低く、その名を吐き出す。

「――ドン・トラガロファミリーです」


スカルジの目が一瞬だけ大きく見開かれたが、次の瞬間には薄笑いを取り戻していた。

「……なるほど。それならば話は早いかもしれませんな」



グリムが眉をひそめる。

「……と言いますと?」


スカルジは指先でハットのつばを整えながら、さらりと告げた。

「我々ザルモンド商会は、一部トラガロファミリーとも取引をしておりますのでな」


俺は思わずスコップを握り直した。

――えぇ!? ギャング団と取引って……この商会、大丈夫なのかよ!?



スカルジは肩をすくめ、涼しい声で続けた。

「まぁ、それならば近いうちに我々からもトラガロファミリーへ交渉を持ちかけてみましょう」


「……充分にお気をつけください」

グリムは眉間に皺を寄せ、腕を組んで低く返す。


「もちろんですとも。あの連中は、取引相手であると同時に脅威でもありますからな」



グリムは眉間に深い皺を寄せた。


その横でミロが札束を整えて言う。

「きっちり、100万ゼリオン確認しました」


グリムは札束を手に取り、その重みを確かめると、短く言葉を落とした。

「……確かに受け取らせてもらいましたぞ」



スカルジはハットのつばを指先で軽く弾き、ふっと笑った。

「ご遠慮なく――それと、今ふと思いついたのですがね……せっかくですし、我々がドン・トラガロファミリーと交渉する際の護衛役として、ギルド・リトルリバーの皆さんを雇わせてもらえませんかな?」



グリムは腕を組み直し、低く返した。

「……しかし、我々だけでは、トラガロファミリーが相手の護衛では……頭数が少ないのではありませんか?」


スカルジは口元に笑みを浮かべ、ゆったりと肩を揺らす。

「もちろん、我々ザルモンド商会の護衛も同席しますとも」


そう言いながら、背後に控える二人の護衛を親指で軽く指し示す。

「その上で、交渉がうまくまとまれば――報酬は1000万ゼリオン。いかがですかな?」



ひ、ひゃ、ひゃく……じゃなくて1000万!? ゼロの数おかしくないっすか!? 俺、びっくりしすぎて、あやうく天井ぶち破るところでしたよ!




グリムは腕を組んだまま、低くうなずいた。

「……わかりました。お引き受けしましょう」



スカルジの口元に、ニヤリと牙がのぞく。

「……トラガロファミリーとの交渉ともなれば、こちらも相応の備えをしておかねば」


ゆっくりと黒いハットを上げ、軽く掲げて礼の代わりとする。

「一週間後、再びここを訪れましょう。その折に最終の打ち合わせを――そして、地下に囚われているバースト団の連中は、その時に一緒に連れ帰るとしましょう。では――」


そう言って、黒いハットをぐっと深くかぶり直すと、護衛二人を従えて静かに踵を返す。


ブーツの足音がホールに残り、重い扉がギィ……と軋みを上げて閉まった瞬間、空気だけが妙に冷え込んだ気がした。



――ジャッカル獣人、スカルジ。

去り際の笑みが、まだ脳裏に焼きついて離れなかった。




――1000万ゼリオンって聞いた瞬間は飛び跳ねそうになったけど……。

ギャング団相手じゃ、その前に俺が天国まで飛んでっちまう気がするんすけど!?



《リトルリバー》より感謝を込めて!

お読みいただきありがとうございます。


面白かったら、ギルドの活動資金(=★評価&ブクマ)をいただけると嬉しいです!


【作者Xはこちら】

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