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CHAPTER35『亀裂の礼拝堂』

薄暗い礼拝堂跡には、まだ何人もの盗賊たちが残っていた。

壁際に腰を下ろす者、武器を抱えたまま立ち話をする者――だが幸いなことに、今この場で俺たちに真正面から視線を向けているのは、目の前のヤマアラシ獣人とあのマウンテンゴリラ獣人だけだった。


……というか、あれ?

マウンテンゴリラ獣人は腕を組んだまま、微動だにしない。

いや、よく見ると……寝てない?

巨体の胸が、ゆっくり上下している。


――よし、今だ。

俺はそっと息を整えながら、心の中で叫ぶ。

ハクさん、頼みますからそのヤマアラシをぶっ飛ばして、この異様なアジトからとっととおさらばしましょうよ!





次の瞬間、ハクの巨体から縄がばさりと床に落ちた。


ハクはゆっくりと拳を握りしめ、大きく振りかぶる。



ガルドの目が見開かれる。

「!?……縄が、解けただと――!?」



慌ててサーベルを振り上げるが、一歩遅い。

ハクの拳は、すでに迫っていた。



剛腕から放たれた拳が、一直線にガルドの顔面を捉える。



バギィィッ!!



鈍く、骨に響くような衝撃音が礼拝堂に反響する。

ヤマアラシ獣人の顔が、殴り飛ばされるように右へ弾けた。



――だが



ガルドは、倒れなかった。

大きく首は傾いたものの、両足は石床に深く根を張ったまま動かない。


針だらけの体が、ギシリと音を立てて元の正面へ戻っていく。



ガルドは、口の端から垂れた血を親指で拭い、ゆっくりと笑った。

「……へぇ。白熊のパンチってのは、想像以上だな」



その低い声に、周囲の盗賊たちがざわりと息を呑む。

空気が、一段重く沈んだ。



――やばい。

……今の、決まったと思ったんだけど!?



ガルドは肩を回し、全身の針をさらに逆立てる。

サーベルを握る手に、ぐっと力がこもった。



首を鳴らしながら、ガルドがゆっくりと正面を向き直る。

「……次は、俺の番だな」



その低い声を合図にしたかのように、周囲がざわりと動いた。


壁際や石柱の影にたむろしていた盗賊たちが、一人、また一人と集まってくる。


刃物、棍棒、素手――どいつもこいつも目つきが悪く、血の匂いを楽しむような連中だ。


――うわ……ヤバい……同じ盗賊でも、バースト団とはまるで違う。

冗談も通じなさそうな、本物の危険な匂いがする。



「ハハハ、何やってんだよ、ガルド」


「俺らも混ぜてくれよ?」


「おお……でけぇ白熊じゃねえか。俺にもやらせろよ!」



下卑た笑い声が広がり、円を描くように距離が詰まっていく。



――ヤバいヤバいヤバい!!

これ、完全に囲まれてる。

逃げ道ゼロ!?



ガルドが吠えるように言い放った。

「おい!こいつぁ俺の獲物だぜ!テメェら、手ぇ出すなよ!

逃げねえように、周りを固めてろ!」



盗賊たちは不満そうに舌打ちしながらも、じりじりと距離を取り、円を描くように広がる。


「なんだよ……」


「チッ、つまらねえな」


「まぁしゃあねえか。きっちり白熊を潰せよ、ガルド!」



――その時だ。


人垣の中から、すっと一人の男が前に出てきた。

茶色がかった毛並みに黒の斑紋、細長い体躯。頭頂には荒々しく立てたモヒカン。


鋭い眼光を宿した――リカオン獣人だ。


挿絵(By みてみん)


口の端を吊り上げ、俺を見下ろす。

「……じゃあ俺は、そっちのチビをもらおうか」



――どひゃ〜!?

や、やばい!

明らかに「場数踏んでます」って顔のおじさんに、完全ロックオンされちまったよ〜!



両腕をだらりと広げ、リカオン獣人が一歩前に出た。

戦場慣れした気配をさらに際立たせている。


足の運びに、一切の無駄がない。“殺し慣れている”動きだった。



「……さぁ、かかって来い、チビ」

余裕たっぷりの声音。



その様子を見ていたガルドが、口の端を歪めて笑う。

「リッパー、手加減してやれよ。クックック」



名を呼ばれたリカオン獣人は、肩をすくめるようにして頷く。

そして、腰に下げていた武器には手を伸ばさず、あえて両手を広げる。



「ああ。今日は素手でいい。

――武器は使わねえぜ」

挑発するように、口角がつり上がる。



――こ、こ、こ、怖い……!

心臓がバクバクうるさい。

正直、まともにやり合っても一瞬で終わる気しかしない。



……でも。



――これ、完全に舐められてるよね!?

武器を使わない。

真正面から来いって言ってる。

しかも、俺を「チビ」扱い。



――よし……だったら



思わず歯を食いしばる。



――だったら、俺の持ってる“全部”を叩き込んでやりますよ!

力じゃ勝てない。

でも、油断してる今しかない。




次の一瞬で――


俺は、床を蹴った。



俺は盗賊たちの足元を、するりとすり抜けた。


――すばしっこさなら負けないぜ!



そのまま転がり込むように、礼拝堂を支える石柱の根元へ。

腰の工具袋からトンカチを引き抜き、思いきり振り下ろす。



ガンッ!ガンッ!



「ハッハッハ! 何をやってるんだ、あのチビは!」

ガルドの嘲笑が響く。



一方、リッパーは肩をすくめ、俺のほうへ歩き出した。

「おいおい、いきなり逃げやがって……」



(よし……今のうちだ……!)



その瞬間ハクは――

(……チャロは何をしているのだ……?ともあれ、ヤマアラシは隙だらけだ!)


ハクが大きく踏み込み、拳を振りかぶる。



バギィィン!!



視線を逸らしていたガルドの顔面に、白熊の拳が直撃した。



今度は耐えきれず、巨体が横に吹き飛び、壁に叩きつけられる。

「グッ……! やりやがったな……!」



だが、その間も俺の手は止まらない。


ガン!

ガンガンッ!



石柱に、細かな亀裂が走る。


――よし……!


俺は腰袋からノミを引き抜き、その亀裂へと差し込んだ。


そして――



ガン!

ガンガンッ、ギィンッ!!



乾いた音が礼拝堂に響き、石柱の内部から、嫌な軋みが返ってくる。



礼拝堂の天井から、ぱらぱらと砂埃が落ち始めた。


「お、おい……!」


「冗談だろ……?」


盗賊たちがざわめく。


「……あいつ、このアジトごとぶっ潰す気か!?」



その声に、リッパーが目を剥いた。

「――ッ!? あのガキ……!」



地面を蹴り、こちらへ一直線に駆けてくる。



――やべっ!来る!でも!



柱に刻まれた亀裂を睨み、俺は歯を食いしばった。


――最後だ!



「どおりゃあぁぁぁ!!」



ガギンッ!!



トンカチがノミを叩き込み、

ビシビシビシッ――と、乾いた音が礼拝堂に響き渡る。


石柱に、はっきりとした亀裂が走った。



「おい! ヤバいぞ!」


「柱が……!」



天井から落ちる砂塵が、一気に増える。



その様子を見て、ハクが低く笑った。

「……ははっ。チャロのやつ、なかなかやるじゃないか」




だが次の瞬間――



「舐めたマネしやがって!!」

リッパーが拳を振り上げ、すぐそこまで迫ってきた。



「ひぇっ!? 無理無理無理!!」



俺は叫び、踵を返す。

「逃げろっ!!」



「逃がすか!!」

背後で怒号が弾ける。



「何だってんだ、こりゃあ!!」

ガルドの怒鳴り声が重なり、空気は完全に混乱していた。



砂塵が舞い、視界が白く霞む。



その時――


礼拝堂の壁際にもたれていた、あの巨体が、わずかに顔を上げた。



「……ん?」

低く、腹に響く声。



「何が起きている……?」

マウンテンゴリラ獣人が、ようやく事態を認識し始める。




――完全に、やらかした!

でも今さら止まれない。

もう、後戻りできねぇぇぇ……!!



マウンテンゴリラ獣人が、重たい足音とともに前へ出た。

「……何をやっている、お前ら!」



盗賊たちが一斉に振り返る。

「ゼンガ!柱が……柱が崩れかけてる!」



「……何だと!?」

ゼンガと呼ばれたマウンテンゴリラ獣人は、即座に石柱へ駆け寄った。



亀裂の走る根元を一瞥し、歯を食いしばる。

「チッ……石灰モルタルを持ってこい! 亀裂に詰めて、鎖で締め上げるんだ!」



周囲を見回し、怒鳴る。

「梁を持ってこい!三本だ!柱の根元から斜めに当てて、岩盤を受け止めろ!

お前らは上を見ろ!剥がれかけた岩を支えろ!今すぐだ!

ガルド!鎖を持ってこい!」



盗賊たちは一瞬の躊躇もなく動き出した。



「クソッ……!」

ガルドは悔しげにハクたちを睨みつけながら、鎖を取りに走る。



その隙を突くように――



「てめぇ……!」

リッパーが俺のすぐ背後まで迫っていた。



拳を振りかぶり、獰猛な笑みを浮かべる。

「終わりだ!」



――ひょえ〜!!



次の瞬間。



ドガンッ!



鈍く、重たい衝撃音。



「ふぇっ!?」

視界の端で、リッパーの体が横殴りに吹き飛んだ。


ハクの拳が、背後から完全に顔面を捉えていた。




「チャロ!逃げるぞ!」

低く短い叫び。



「アイアイサー!!」

俺は反射的に頷き、全力で駆け出した。




その光景を一目見たゼンガが、鋭い声を飛ばした。

「……ガルド! リッパー!

あいつらを逃がすな。追え!」



吹き飛ばされて床を転がっていたリッパーが、歯噛みしながら跳ね起きる。



ガルドは舌打ちしながら、手にしていた鎖をゼンガへ投げ渡す。

次の瞬間、全身の針を逆立て、鋭い眼光で逃走する俺たちを睨み据えた。

「行くぞ、リッパー!」



リッパーも口元を歪め、血走った目でこちらを見る。

「逃げ切れると思うなよ、チビ……!」




背後では石が軋み、怒号と悲鳴が入り混じっている。

礼拝堂がどうなろうが、盗賊が何人いようが、知ったこっちゃない!

ハクさんが走る。

俺も走る。

振り返らない。そんな暇ない!

とにかく今は、生きて山を下りる。


話は――それからっす!


《リトルリバー》より感謝を込めて!

お読みいただきありがとうございます。


面白かったら、ギルドの活動資金(=★評価&ブクマ)をいただけると嬉しいです!


【作者Xはこちら】

https://x.com/00aomiray00?s=21

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