表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/37

CHAPTER32『ロカ山の静寂と不穏な気配』

――ロカ山の麓に建つ、ひときわ古びた木の小屋。

昼前の柔らかな陽光を浴びて、屋根の苔はしっとりと輝く。残雪もほとんど溶けて小さな水筋となって流れていた。

周囲には薪割り場と小さな畑。

人の気配はあるのに、不思議と静けさが漂っていた。

風の音がやけに遠く感じる中、俺とハクは、軋む小屋の扉の前で足を止めた。


――ここが、ノースロッド木こり組合の長、ブルソン爺さんの家。

さて……どんな仕事が待ってるのやら。






俺は小屋の扉を軽く叩いた。


ドンドンッ。


「こんにちは〜、リトルリバーから来ました〜」



中で何かがガサガサと動く気配がする。



やがて――ギィ……と扉が開き、アライグマ獣人の老人が顔をのぞかせた。


挿絵(By みてみん)


丸い目がこちらを見てほころぶ。

「おお〜……もう来てくれたか、若いの。まあまあ、中へ入ってくれ」



ブルソン爺さんは腰をかがめつつも器用な身のこなしで、

俺たちを木椅子の並ぶ卓へ案内した。


俺とハクは「お邪魔しま〜す」と声をそろえて小屋へ足を踏み入れた。




ブルソンは、湯気をほわりと立ちのぼらせる木のコップを三つ卓へ並べた。

中身は、山で採れた薬草を煮出した麦湯だ。


「……ちょうどこの麦湯を飲んどったところでな」



その声に、俺とハクは同時に頭を下げた。

「ありがとうございます!」



ブルソンは目尻を細めてうなずく。

「グリム殿からは“ひとり来る”と聞いとったが……二人も来てくれたんじゃのう」



俺は隣のハクを親指で示しながら言った。

「はい! こちらのハクさん、一人での仕事が初めてでして」



「はい、よろしくお願いします!」

ハクは背筋を伸ばし、軽く頭を下げた。



「そうじゃったか……よろしく頼むぞ」

ブルソンの穏やかな声が、小屋の中にやさしく溶けていった。



俺は麦湯をひと口すすると、ほっと胸の奥がゆるむ。

「いや〜、あったまりますねぇ……」



向かいでハクも頷いている。



ブルソン爺さんは椅子に腰かけ、ふう、と白い息を吐いた。

「だいぶ寒うなったからのう。ほれ、遠慮せんと飲みんさい」



俺とハクは麦湯で体を温めながら、ようやく本題を切り出した。

「ところで、今回の依頼なんですが……」



「ああ、そうじゃったのう」

ブルソン爺さんはひげを撫で、ゆっくりと語り始める。


「この小屋の裏からロカ山の中腹へ続く山道があるんじゃが、先日の大雪でのう。

木が何本も倒れて、すっかり塞がってしもうたんじゃ」



「なるほど……」とハクが背筋を伸ばす。



「ちょっと前までなら、わしも力自慢じゃ。自分でどかせたが……最近はさっぱり腰が言うことを聞かんでなぁ」



「わかりました!」

俺は勢いよく立ち上がる。


「中腹までの山道の、倒木の除去ですね! では、行って参ります!」



「はい、ご馳走さまでした!」

ハクも深く頭を下げて立ち上がる。



ブルソン爺さんも立ち上がり、俺たちを見送ろうと戸口へ向かった。

「頼むよ……おお、そうじゃそうじゃ」



爺さんの顔がぐっと引き締まる。

「最近は熊なんかの獣がよく出るでな。

罠もいくつか仕掛けとる。踏まんよう気ぃつけるんじゃぞ?」



「了解です!」

俺は手を挙げて答え、ハクと一緒に小屋をあとにする。



扉が閉まると、冷たい山の空気が頬を刺したが、不思議と足取りは軽かった。





……と、俺たちが山へ向かって汗を流そうとしていたその頃――リトルリバーでは再び騒がしい声が上がっていた。


結局、ピザを追加注文したんだって……羨ましい……。




ボグが、巨大な口にピザを“箱ごと”放り込む。


バクンッ……バクバクッ!


「おい! てめぇは学習しねえな! 箱ごと食うなっつってんだ!!」

メイベルが怒鳴る。



その横では、寝起きのドロガンが負けじとピザを口へ次々と流し込んでいた。

「カバの兄貴よ! 下品な食い方してんじゃねぇぞ!」



しかし、そのドロガンの口の周りには――トマトソースとマスタードが派手なグラデーションを描いていた。



「テメェら二人とも十分下品だ!!」


ポコンッ! ポコンッ!


メイベルの目の前の木皿が二枚、綺麗な軌道を描いて二人の額に命中する。



ドロガンは頬いっぱいにピザを詰め込んだまま、口をもごもご動かす。

「……もぐもぐ……そういやよ、チャロとハクの野郎がいねえな。どっか行ってんのか? ……もぐもぐ」



メイベルが眉をひそめ、ピザの欠片を払う。

「はぁ? あいつらなら、てめぇが豚みてぇに寝転がってる間に仕事に出てったよ。

ハクなんかはなぁ!もっと働きてぇ!って自分から言ってたぜ……お前も、見習えよ!イボイノシシ!」



ドロガンはベシッと卓を叩く。

「だからイボは余計だって言ってんだろ!!

もぐもぐ……くそっ! この俺様にも仕事を寄越せ! どんな案件でもこなしてみせるぜ!」



メイベルは鼻で笑った。

「へっ、バカが。テメェに仕事を任せたら、常識じゃ説明つかねぇトンチンカンを確実にぶちかますんだよ!」



ドロガンの眉間に青筋が浮かぶ。

「なにおう!!」



二人の言い争いに割って入るように、ミロが手を軽く挙げた。

「まあまあ……ドロガンさん。昨日みんなで頑張って依頼を全部こなしちゃったんで、今日はもうチャロ君とハクさんが行った“崩れた山道の整備”くらいしか仕事は残ってないんですよ」



「崩れた山道の整備だ?……どこの山だ?」

ドロガンの咀嚼音が止まる。



「えっと……たしか、ロカ山でしたか」



その瞬間、ドロガンの顔色がさっと変わった。

「……ロカ山だと!?……あの山から連なる一帯の山岳地帯は、クリーバーズのシマだぞ!」



メイベルが眉をひそめる。

「クリーバーズ? なんだそりゃ?」



ドロガンは小さく舌打ちし、腕を組む。

「……この辺の山々じゃあ唯一、トラガロファミリーに屈してねぇ盗賊団だ。

サブリーナの部隊に包囲されたこともあったらしいが、逆に弾き返しやがったって話だ。

筋金入りの奴らだぜ……。

まぁ、ロカ山なら奴らのシマの手前ぐれえだから、 滅多にかち合うことはねえとは思うが……」



メイベルは椅子の背にもたれ、ニヤリと牙を見せて笑い、顎をクイッと上げ、挑発的な目つきで言い放つ。

「ほぅ……じゃあ、そのクリーバーズって奴らも味方に引き入れりゃあいいんじゃねえのか?」




「いや……頭領のワニ獣人、ジャンクロット・ザガンは頭のネジがぶっ飛んだ野郎だ……どう転んでも仲間になるような野郎じゃねえぞ」

ドロガンは拳を握りしめた。



メイベルが鼻で笑い、ドロガンを指差す。

「へっ、頭のネジならテメェも全部外れてんだろ?……で、おめえらバースト団は、そのクリーバーズとは揉めたことはあんのか?」



ドロガンは腕を組み、どこか誇らしげに鼻を鳴らした。

「……ああ。俺らがトラガロファミリーの傘下に下る前の話だ。

俺らは縄張りを広げるつもりで、どこか良さげな根城がねぇかと周辺の山を偵察してたんだが……その時、たまたまロカ山の奥まで足を踏み入れたらよ……一瞬でクリーバーズの連中に囲まれてな」



ドロガンの顔が引きつる。

「気づきゃ互いに一歩も引かねぇ睨み合いが始まって、空気がビリビリに張りつめてたんだ……あと一歩で全面衝突ってところで――ザガンの野郎がズドンッと踏み込んできやがった。

地面がバキバキに割れるほどの一歩でよ……!

そんで次の瞬間、あいつの尻尾が風を裂いて俺の喉元すれすれで止まったんだ……正直、一瞬で全身が固まったぜ」



そして胸を張り、鼻を全開に広げ強がるように続ける。

「だがよ、俺の漢気がザガンの野郎に通じたのか、ギリギリで矛を収めやがったんだ!」



ドロガンはふっと視線を遠くへ投げ、どこか懐かしむように目を細めた。

「……まあ、強者同士、言葉にしなくても通じる空気ってもんがあったのかもしれねえな……」



そう呟くと、彼は満足げに鼻を鳴らし、ゆっくりと腕を組む。

その姿は、まるで“過去の名勝負”を脳内で再上映している英雄そのものだ。



その横で、ドロガンの子分がそっとメイベルに近づき、口元を手で隠しながら耳打ちする。

「……親分、ああ言ってますけど……実際はその場で突然、“我々はゴロバ山から来た親善大使です”とか言い出して……お近付きの印にって強引に酒を渡して、そのまま空気ごまかして帰ってきただけなんすよ」



子分のヒソヒソ話を聞いたメイベルは、ゆっくりとドロガンを見やり――口の端をぐいっと吊り上げ、ニヤァ……と意地の悪い笑みを浮かべる。

「へぇ~……漢気ねぇ……?世渡りだけは妙に上手ぇじゃねぇか」



唐突に向けられた鋭い視線に、ドロガンがビクリと肩を震わせる。

「な、何がだよ……!」



メイベルは鼻で笑い、椅子から立ち上がる。

「……だが、確かにちっと気になるな。ミロ、グリムに話を通しとけよ」



「はい、呼んできます!」

ミロはすぐに立ち上がり、トントンと軽い足取りで奥の扉へ向かった。


ギィ……と扉を開け、「グリムさーん!」と呼びかけながら姿を消す。



ボグはピザを食い尽くした後、今度は残りの黒パンをもぐもぐしながら肩を揺らして笑った。

「フェッフェッフェッ、だが、チャロだけじゃあ心配だが――ハクがいりゃあそいつらが現れても大丈夫だろう?」



ドロガンは渋い顔で腕を組み、低く唸った。

「……確かに喧嘩になりゃ、ハクも強えが……ザガンの野郎は桁違いだ。

あいつの“力”と“容赦のなさ”は――ここらの盗賊仲間の間じゃ、有名な話だ。

まともにぶつかったら、生きて帰れねぇって噂だ」



口の端をぎゅっと噛みしめ、低く唸る。

「……正直、アンタでも勝てるかどうか分からねぇぜ?」



その言葉に――


ボグの耳がピクンと動き、目をギラリと輝かせた。

口いっぱいに黒パンを詰め込んだまま、喉の奥で笑い声を転がす。

「なに……? そりゃあ面白そうじゃねえか、フェッフェッフェッ!」




ボグの笑い声がギルドに響き渡る中――

場面はロカ山へと移る。


――そんな不穏な噂が飛び交っていたことなど露知らず、俺とハクさんはというと……


「……チャロ、そっち、倒れねぇように支えててくれ!」


「はいはい!さすがハクさん、すごいパワーだなぁ……!」


――俺たちは、力任せにバキバキ木をどかしながら、いい汗をかいていた。

……まさか、この山の中腹で“とんでもねぇ連中”が目を光らせてたなんて、この時は微塵も思わなかった。


《リトルリバー》より感謝を込めて!

お読みいただきありがとうございます。


面白かったら、ギルドの活動資金(=★評価&ブクマ)をいただけると嬉しいです!


【作者Xはこちら】

https://x.com/00aomiray00?s=21

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作品の更新情報やキャラクター設定などを発信しています。 フォローしていただけると励みになります! https://x.com/00aomiray00?s=21
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ