CHAPTER3『猪突猛進とスコップの珍劇』
廃屋の奥――
ギシリと板がきしむ音を踏みしめながら、ひときわ大きな影が姿を現した。
分厚い扉を蹴破り、荒れ果てた空気を一変させる獣の気配。
月明かりに照らされたその姿は、鋭い牙をのぞかせたイノシシ獣人――バースト団の首領、ドロガンだった。
「……何者だテメェらは? たった数人で俺らを襲撃に来たのか?」
ドロガンの声は、まるで地の底から響く雷鳴みたいに重く、部屋の空気を震わせた。
その迫力に思わず足がすくみそうになる。
けれど、メイベルは怯むどころか一歩前へ出る。
剣を肩に担ぎ、鋭い目で睨み返した。
「俺たちはリトルリバーだよ! おめえらごとき、数人で充分さ!」
……やっぱり、この人は怖すぎる。俺が口を開いたら、びびってるのがすぐにバレるに決まってる。
メイベルが一歩踏み込み、閃光のように剣を振るった。
速い、鋭い、止まらない。まるで狂獣の怒涛の連撃だ。
「ッりゃあぁー!!」
だが――ドロガンは片手斧を軽々と操り、その全てを受け止めていく。
カン!カン!カンッ!……ギィィンッ!!
金属の火花が散り、衝撃音が廃屋に響き渡った。
「へっへっへ……なかなかいい筋だが、俺には届かねえぜ!」
ニヤリと牙を見せた次の瞬間、ドロガンの分厚い頭が突き出された。
「ぐっ……!」
メイベルの体が宙を舞い、背中から壁に叩きつけられる。木の板がバキバキと割れ、埃が舞い上がった。
「……クソッタレ! 切り刻んで猪鍋にしてやるよ!」
血走った目で立ち上がるメイベルの姿に、俺は思わず息を呑んだ。
そして、壊れた扉の隙間から、さらに二人の盗賊が姿を現した。
「なっ……!? また二人も出てきた!」
思わず声が裏返る。
「お頭〜、陸軍かと思ってヒヤヒヤしましたけど……」
「ちっぽけなギルドの女子供じゃねえですか〜」
余裕の笑みを浮かべる二人の盗賊。
その態度が、かえって背筋を冷たくする。
俺は慌ててスコップを構えたが……震える腕では、どう見ても武器というより農具にしか見えなかった。
「おう!──向こうはもう終わってる頃だろう。さっさとこいつらも潰して、朝まで宴といこうぜ!」
ドロガンが豪快に笑いながら唾を吐き捨てる。
「お頭〜、女子供は奴隷市場で売れますかね〜?」
手下の一人が薄ら笑いを浮かべながら囁く。残忍さが軽口のように混じっている。
ドロガンは肩をすくめ、ガッハッハと大きく笑った。
「この女は相当な跳ねっ返りだからな……売り物にゃならねえよ!」
その言葉に、盗賊どもの笑い声が廃屋の中で弾ける。
俺は思わず、背筋がぞくりとするのを感じた。メイベルは目をカッと見開き、唇を噛みしめている――怒りを抑えたその表情が、逆に恐ろしさを増していた。
震えが止まらない。でも……ここでビビって突っ立ってたら、本当に足手まといだ。
だったら―― 俺は一歩だけ前に出た。
……うーん、でもドロガンは――堅そうすぎて絶対ムリだな。
でも、あの後ろでヘラヘラ笑ってるアナグマかカワウソ獣人ぽい二人なら――まだ、マシだ。
スコップの柄を握りしめると、少しだけ手の震えがおさまった。
……これでやるしかない!
「どりゃあああーっ!!ヤブイヌ魂だ〜っ!!」
ブォン!
「うおっ!?」
奴らは軽く身をかわした――
「ははっ、どこ狙ってんだ、バカが!」
――その瞬間。
俺は、床を見た。
さっきから軋んでいた場所。
板の色が違う、腐った部分。
――ここだ!
――バキィィンッ!!
スコップの刃が、床板を叩き割る。
「なっ――!?」
次の瞬間、床が崩れ落ちた。
「うわああっ!!」
「ぎゃあっ!!」
盗賊二人は、悲鳴を上げながら下の空洞へ落ちていく。
深さは分からない。だが、すぐには戻れない。
俺は、呆然と息を吐いた。
「……今の、狙ったってことで……いいよな?」
「何だと!?地下があっただと!?」
ドロガンの目がギラリと光った。
その横で、メイベルが鋭い目を細める。
(……あいつ、意外と勘がいいな)
「よくやった、チャロ!」
その声と同時に、メイベルはドロガンの隙を突いて一気に踏み込み、逆袈裟斬りを放った。
ギャァンッ!!
斬撃は確かにドロガンの肩口をとらえ、皮膚を裂いた。
だが、返ってきたのは生臭い鉄の匂いと、わずかに滲む血だけだった。
ドロガンはニヤリと口角を上げる。
「ガッハッハ……悪くねぇ。だが、俺を斬るにはまだ足りねぇな!」
メイベルが舌打ちし、目を細める。
「……チッ、こうなったら本気を出すしかねえな」
腰に忍ばせていた細身の刃――ショートソードを、ギラリと抜き放った。
刃先からは、どろりとした茶色い液体がトクトクと滴り落ちていく。
床板に落ちたそれは、じゅう……と煙を上げ、黒く焦げ跡を残した。
「えっ……メ、メイベルさん、それって……もしかして……」
思わず声が裏返る俺。
「……毒!?」
背筋がゾクリと震えた。
なんて恐ろしいお方だ……!
メイベルは毒の滴るショートソードを逆手に構え直し、口の端をつり上げた。
「……これでもう、猪鍋にして喰えねえなぁ」
ぞっとするような声音に、俺の喉がカラカラに渇いた。
冗談めかしているようで、本気にしか聞こえない……。
毒をまとった刃が月光を受けて妖しく光る。
ドロガンの鼻息が荒くなるのと、俺の心臓が高鳴るのは同時だった。
――次の一撃が、俺たちの運命を決める。
……って、できれば俺に当たらない方向でお願いしたいんですけど!?
――ギルド・リトルリバーと盗賊・バースト団。
廃屋を揺るがす戦いは、ついに終幕へと向かおうとしていた。
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