CHAPTER29『牙と拳と腹下し親分が揃う卓』
さぁ、いよいよ作戦会議も大詰めだ。
頭がついていくかどうかは怪しいけど……ここまで来たら腹くくるしかねぇ!
ドロガンさんの“腹の大噴火”もあったし、もう俺の中では今日の会議、何が起きても不思議じゃない。
よし……とりあえず、ちゃんと話についていく努力はするぞ……たぶん!
ミロが帳面をまとめたメモを軽く持ち上げ、場を見渡した。
「えー……では、ゲインさん達にも全面的に協力いただけるということで……ここで一度、こちら側の勢力を確認しておきましょうか」
グリムが小さくうなずき、静かな声で応じる。
「……そうだな」
ミロが軽く一つ息を整え、口を開いた。
「まず……僕たちリトルリバーが五人。それから、ドロガンさん率いる元バースト団が十六人。
ゲインさんのギルド、デッドリーフワークスは……?」
ゲインは短くうなずき、低く答える。
「……二十だ」
「はい、二十ですね。では……赤猫組さんは?」
ズールがギロリと鋭い目つきでこちらを見据え、短く吐き出す。
「うちは全員かき集めりゃ三十くれえはいるが……ただ、ヨボヨボのジジイなんかも混じってっからよ。
戦闘できるのはうちも二十くれえだな」
ミロはその数字を即座に頭でまとめ、明るい声で締めた。
「……なるほど!では、僕たちの勢力は――全部で六十ちょっと!思ったより集まりましたね!」
――六十ちょっと。
数字だけ聞いても十分頼もしいが……実際に顔を並べてみると、まぁ見事にクセ者ぞろいだろう。
……よし。
これだけの仲間が集まったんなら――きっと、勝機はあるはずだ!
ミロが勢力一覧を頭の中でまとめ、目を輝かせながら言った。
「これだけいれば……軍の一個中隊にも匹敵しますね!」
グリムは腕を組み、少しだけ顎を引いて応じる。
「……ああ。作戦次第では、中隊くらいなら撃破できる規模だ」
メイベルは獣骨刀を掲げ、口の端を吊り上げて不敵に笑った。
「へっへっへ……腕がなるぜ!トラガロとサブリーナの野郎に――泣きを入れさせてやろうじゃねぇか……!」
ミロが一歩前に出る。
「それで……ここからは具体的な作戦に入るんですが、情報屋のチュービンさんに仮の作戦案を立ててもらいまして……」
グリムがわずかに眉を上げる。
「……ほう」
ミロはうなずき、続けた。
「まずは、ザルモンド商会をトラガロファミリーから引き離す策です。
これは――チュービンさんが、ザルモンド商会の軍や政府への賄賂や不正の“証”をいくつも押さえているそうなので……それを使って、商会側に“揺さぶり”をかけます」
その説明を聞いたメイベルが、鼻で笑いながら腕を組んだ。
「フン……まったく、あのネズミは小賢しいことを考えやがるぜ!」
ミロは軽く姿勢を正し、続けて説明を始めた。
「そして……次に、トラガロファミリー内部で内輪もめを起こします。幹部のドラヴォスと、同じく幹部のサブリーナは犬猿の仲だそうで……そこを突く“火種”を――チュービンさんがすでに握っているそうです」
ゲインが目を細め、口角をわずかに吊り上げた。
「……なるほどねぇ」
ミロは軽く咳払いし、次の項目へと話を進めた。
「そして……トドメの極めつけは、カイラム裏社会のもう一つの巨頭――“バルバス解放戦線”をトラガロファミリーにぶつける策です」
その言葉に、ズールがギロリと目を細めた。
「……ほう。そんな裏の手まで考えてやがんのか、そのネズミとやらは……?」
ミロは深くうなずき、少し声を潜めた。
「はい。どうやらチュービンさんの話によれば……ザルモンド商会は夜な夜な陸軍駐屯地に寄り、冷凍漬けの“何か” を受け取っているようなんです。
その運搬には必ずトラガロファミリーの護衛がつき、最終的にトラガロのアジトに運び込まれるらしいのですが……その“何か”が何なのかまでは、まだわかっていません」
場の空気がわずかに張りつめる。
ミロは続けた。
「そこで……その“何か”が、バルバス解放戦線にとって“価値ある物”であるかのように嘘の情報を流します。
すると、バルバス解放戦線はザルモンド商会の輸送を襲撃してそれを奪う……結果として――」
ミロは指を二本立て、静かに言い切った。
「ザルモンド商会は陸軍の信用を失い、トラガロファミリーは激怒し、バルバス解放戦線と大激突する、という筋書きです」
しばし沈黙が落ちる。
ボグが眉をひそめ、ゆっくりと場を見回した。
「……ちょっと待てよ……そのザルモンド商会が運ぶ何かってのは――カルヴォフが言ってた“魚人兵器”ってやつかもしれねえぞ!?」
グリムが鋭く反応する。
「魚人兵器……?」
「ああ」
ボグは重々しくうなずいた。
「どうやら“死んだ魚人を、感覚も痛みもねえ最強の兵士に改造する”――そんな悪趣味な技術らしい」
メイベルが顔をしかめ、椅子から身を乗り出す。
「なんだそりゃ!? 死んだやつが生き返るってのかよ!?」
ボグは腕を組み、遠い目をした。
「生き返るかどうかまでは知らねえ……。だが、俺もそうとは知らずに魚人兵器らしき野郎と昨日、一戦交えたんだが……」
低く息を吐き、拳を軽く握りしめる。
「本気で殴り飛ばしたんだけどよ……まったく効いてるようには、見えなかったな……」
部屋の空気が一瞬、冷たくなる。
――魚人兵器……。
言葉を聞いただけで、背中がゾクリとした。殴っても効かず、痛みも感じず、死んだ魚人を兵士にする技術……?
……おそろしや〜。そんなものが、街をうろつくなんて。
ミロは思わず息を飲み、声を低くした。
「……政府はそんな恐ろしい技術を研究開発していたのですね……」
ボグは腕を組んだまま、重くうなずく。
「ああ。しかも――政府高官の誰かが、陸軍暗部を使ってその魚人兵器を反政府組織や他国の軍に横流ししているらしい」
ミロの表情がさらに険しくなる。
「……なるほど。つまり陸軍暗部は、ザルモンド商会とトラガロファミリーを“経由して”その魚人兵器をばらまいている――そういう構図になるわけですね」
ボグは短くうなずき、低く吐き出すように言った。
「その通りだ」
――話が難しすぎて、もはや謎解き大会に参加してる気分になってきたぞ……!
ボグは腕を組んだまま、低く言葉を続けた。
「……カルヴォフたちは、今その流通経路を押さえてる最中らしい。
その証拠を上層部に突きつけて、ドラゴヴィッチたちを一気に失脚させようとしてるんだとよ。
だから――今ここで、バルバスにザルモンド商会を襲撃させるってのは……まだやめておけ」
ミロが頷き、静かにまとめる。
「なるほど……では、その策を実行するのは、今はやめておいたほうが良さそうですね」
メイベルは椅子の背にもたれ、鼻で笑った。
「……そんなめんどくせえことしなくてもよ。
こんだけ味方がいるんだ、正面から堂々とトラガロファミリーのアジトに乗り込めば何とかなるんじゃねぇか?」
しかしミロは穏やかな口調のまま、きっぱり首を横に振る。
「……いえ、それでもトラガロファミリーは本隊だけで三百。傘下組織まで含めれば五百は動員できます。
さすがに、兵力差が開きすぎています」
グリムが静かにうなずき、低く言った。
「……うむ」
ボグも腕を組みながら続ける。
「まあな、カルヴォフたちも“証拠はもうすぐ揃う”って言ってた。少し待てば、事態は大きく動くはずだぜ」
そこで、ゲインが穏やかだが鋭い声で問いかけた。
「……ところでボグ、その“魚人兵器”との戦闘はどうなったんだ?」
ボグは短く息を吐き、思い返すように語り出す。
「……ああ。ドラケンフォートからの帰りに、陸軍暗部の小隊に尾けられててな。十人ほどいたんだが、八人はぶっ倒した。
だが……例の魚人兵器と、そいつを操ってるらしき隊長みてえな野郎――あいつらには逃げられちまったよ」
ボグは不機嫌そうに舌打ちする。
「殴り飛ばしても効きやしねぇし……あの魚人兵器らしき野郎は――血を見たら妙に反応してやがったな」
ゲインは腕を組んだまま、興味深そうに片眉を上げた。
「ほう……ボグ、てめぇの拳が届かねぇとはな。
本当に“不死身”なのかもしれねぇな」
ボグは肩をすくめ、苦々しい顔で答える。
「……ああ。あれは不気味な野郎だったぜ」
突如、ドロガンが会話の隙間へズカッと割り込んできた。
胸を張り、鼻息を荒くしながら声を張り上げる。
「まぁ、何にしてもよ!トラガロとザルモンド商会には、このドロガン様を舐めた報いは、きっちり受けてもらわなきゃなんねぇ!」
その横で、ズールがギロリと冷たい視線を向けた。
「……威勢だけは一人前だな、“親分”さんよ」
ドロガンが勢いよく立ち上がり、ズールを指さした。
「なにぃ!ズール!今のは聞き捨てならねぇぞ!」
ズールは一歩も動かず、ただ鋭い眼光だけを向けた。
ドロガンは、ズールの冷たい視線を受けて びくっと肩を震わせ、思わず一歩たじろぎ、そのまま慌てて懐からボロい布切れを取り出し、額の汗を拭いながら、
「……ま、まあ……き、今日のところは大目に見てやろうか……!」
と、必死に体裁を保つように声を絞り出した。
――あ〜あ……ドロガンさん、また調子に乗るからこうなるんだよ。
でも、変な根性はあるんだよな……あの人。
――こうして、怒号あり、暴露あり、腹痛あり、の作戦会議は、ひとまず幕を閉じた。
チュービンさんを三日後にギルドへ呼ぶことになり、ゲインさんとズールさんも「続きは三日後だ」と言って帰っていった。
なんだかんだで、次の局面もドタバタになりそうな予感しかしねぇ。
ま、なるようになるさ!
リトルリバーってのは、名前の通り――静かに流れる川じゃねぇ。たぶんこれからもっと荒れるだろうなぁ……!
《リトルリバー》より感謝を込めて!
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