CHAPTER26『集結、ギルド・リトルリバー』
朝の光が差し込むギルド・リトルリバーは、いつも通りほどよい慌ただしさに包まれていた。
グリムは資料を積み上げて作戦会議の準備を進め、ミロはワクワクした様子でその周りを手伝い、メイベルはテーブルに肘をついて退屈そうに欠伸をしていた。
一方でドロガンはというと、昨日のうちに地下牢に降りて、前日の出来事を手下たちに伝えていた。
――ついでに赤猫亭で暴れた話も盛って喋っていたが、たぶん誰も信じていない。
ギルド全体は、いつものようにバタバタしつつも落ち着いた空気で。
俺もそんなに心配してるわけじゃないけど……
ボグさん、今日こそは帰ってきますよね!?
ひんやりした朝の空気がギルドに流れ込む中、カウンターでは、ズールさんとゲインさんがすっかり意気投合したのか、武勇伝だか昔話だか分からない話で盛り上がっている。
ズールが腕を組みながら、興味深そうに眉を上げる。
「……へぇ、アンタ、元・陸軍の少将様かよ?」
ゲインは肩をすくめ、大げさでない調子で返した。
「ああ。まあ、たいしたもんじゃねえがな」
ズールが身を乗り出す。
「……で、なんで陸軍を辞めたんだ?」
ゲインは苦笑して、指でこめかみをポンと叩いた。
「上官にムカつくクソ野郎がいてな。軽くぶっ飛ばしたら――懲戒免職だ」
ほんの少しだけ目を伏せ、吐き捨てるように続ける。
「……場所が最悪だった。式典の壇上でやっちまってな。軍の面子が吹っ飛んだってわけだ」
ズールは腹の底から笑い、バンッとゲインの肩を叩く。
「ハハハハハッ!やるじゃねえか、アンタ!」
ゲインも肩を回しつつ笑った。
「お前は……赤猫組の若頭だったか。赤猫組ってのはギャング団か?」
ズールはニヤッと口の端をつり上げ、指を一本立てる。
「いや、ギャングなんぞとは違ぇよ――ヤクザさ。
俺たちは“極道”だ。奴らみたいな無法者集団とは住む世界が違う」
鋭い話題と軽い笑い声が交互に響き、ギルド内には妙な緊張と打ち解けた空気が同居していた。
そんな中、ミロが部屋を見回しながら手をパン、と合わせて言った。
「では、会議しやすいように机、動かしますね!」
俺は「あ、手伝うっす!」と腰を上げ、ミロと一緒に部屋の中央へ向かった。
木製の机をガタッと持ち上げて移動させるたびに、脚が床に擦れてコトンと小さな音を立てる。
ミロは手際よく配置のバランスを見ながら、あっちへこっちへ小走りで動き回っていた。
「チャロ君、その机ちょっと横に! そうです、そのまま……はい!はい!そこでストップ!」
まるで職人の指示だ。
俺は振り返って苦笑しながら机の位置を微調整する。
椅子も並べ終える頃には、広間の真ん中にそれなりの“軍議テーブル”が完成していた。
そこへ――
グリムが書類の束を片手に奥の席へ腰を下ろし、重たい空気をひとつまとわせる。
続いてゲインとズールが、同時にドカッと座り込んだ。
メイベルはというと、適当に空いてる席へ座り、椅子の背もたれに腕を引っかけながら「ふあぁ〜……」と欠伸をする。
俺も座ろうかと思った、その時――
「チャロ君! お茶出し手伝ってください!」
ミロが盆を抱えながら慌て気味に呼ぶ。
俺は「はいよ……!」と返して急いでキッチンに向かった。
湯飲みを並べていると、地下への階段からドスドスと上がってくる足音が響いた。
ドロガンだった。
眉をひそめながら広間を見回し、最後にグリムに目を向ける。
「……子分たちは、もう牢から出してもいいだろう?」
グリムは書類を静かに閉じ、短く頷いた。
「そうだな――作戦会議にも参加してもらおうか。ただし、椅子は足りん。そこらに腰を下ろして聞いてくれればいい」
「おうよ!」
ドロガンは、鼻を鳴らし階段の方へ向き直った。
準備のざわめきの中、いよいよ本格的な“作戦会議”の空気が漂ってきた。
そして、ほどなくして地下へ降りていたドロガンが、十五人の子分たちをずらりと引き連れて階段を上がってきた。
先日の宴会で打ち解けたのか、子分たちは妙に落ち着いた様子で、ギルドの壁際や床に自然と腰を下ろし始める。
大所帯の登場に、ミロは思わず目を丸くした。
ミロが俺の肩を軽く叩く。
「……チャロ君、人数が一気に増えましたね! お茶の準備、急ぎますよ!」
「はいはい!」
とは言ったものの――ボグさんがまだ来ていないんだから、そんな焦らなくてもいいのに……と心の中でぼそっと思ったのは内緒だ。
茶器を並べて急ぎ足で注ぎ、子分たちを含めた全員に配り終えた頃には、部屋の空気はすっかり“作戦会議”の顔つきになっていた。
最後にミロと俺も席へ滑り込む。
これで、あとはボグさんを待つだけだ。
グリムは積み上げた資料にざっと目を通し、静かに立ち上がった。
「……ボグがまだ帰って来てないが、今ある情報を整理しつつ会議を始める――ミロ」
呼ばれたミロがビシッと姿勢を正し、
「はい!」
と張りのある声を返す。
ミロは勢いよく椅子から立ち上がり、ギルドの壁際に据え付けられていた古い石板の前へ歩み出た。
白い石筆をつまむと、こちらを振り返って小さく息を吸う。
「では――これまでに集めた情報をまとめます!」
ギルドの空気が少しだけ引き締まる。
メイベルが片眉を上げ、ズールとゲインも腕を組んだまま視線を向ける。
ミロは石板の前でチョークを握り直し、一度ゲインとズールに視線を向けて、静かに深呼吸した。
「では……ここにいるお二人にも分かるよう、最初から順を追って説明しますね。
事の発端は――ザルモンド商会のスカルジさんが、僕たちギルド・リトルリバーに依頼を持ち込んだところからです。
その依頼とは、そちらにいらっしゃるドロガンさん率いる盗賊“バースト団”の討伐依頼です」
ドロガンの子分たちは、一様に苦笑い。
当のドロガンはというと、なぜか鼻の穴を全開にして偉そうに胸を張っていた。
――いや、討伐された側なんだけどな。
ミロは特に気にした様子もなく、区切りよく次へ移る。
「そして僕たちはドロガンさん達を捕え、この地下牢へ収容しました。
翌日、ザルモンド商会のスカルジさんがギルドに現れ、バースト団壊滅を確認。依頼達成の報酬として僕たちは――100万ゼリオンを受け取ります」
ミロは石板に視線を戻し、軽くチョークを鳴らして話を続けた。
「――そしてその時に、街道に出没していた盗賊たちの“黒幕”がドン・トラガロファミリーだとドロガンさんの証言で判明した、その事実をスカルジさんに伝えると、ザルモンド商会は“トラガロファミリーとは一部取引があるから、自分たちで直接交渉する”と言い出しまして……。
さらに、その交渉の場に同行する護衛を、僕たちギルド・リトルリバーに依頼してきたんです。
報酬は――1000万ゼリオン」
ズールの眉が跳ね上がり、思わず声が漏れた。
「1000万だと!? ただの護衛にしちゃ、高すぎるな……!?」
ミロは手にしたチョークをコツッと石板に当て、流れを書き足しながら振り返った。
「――つまりここまでが、今回の“大枠”です。
依頼はバースト団討伐から始まり、そこからトラガロファミリーが裏にいると判明し、さらにザルモンド商会から破格の護衛依頼を受けた……というわけですね」
ミロは石板に書き足そうとチョークを持ち直し、こちらを向いた。
「そして――ここからは、僕とメイベルさん、ドロガンさん、それからチャロ君の四人でカイラム中心街で集めてきた情報になります。まず──」
ドスン、ドスン……!
突然、ギルド全体が揺れるほどの地響きがして、全員がそちらを向いた。
ギィィ……
ギルドの扉がゆっくりと押し開かれる。
「よう! みんな集まって何してんだ?」
堂々とした声と共に、あの巨体がぬっと姿を現した。
――ボグさんだ!
やっと帰ってきた!
ほんの少しだけ心配したぞ、コノヤロー!
ボグさんの豪快な声がギルド中に響いた瞬間――ようやく全員がそろった。
机の上には書類や茶器が並び、ギルド・リトルリバーはさらに“戦い前の空気”に包まれていく。
俺は湯気の立つ茶碗を手に取りながら、小さく息をついた。
これでようやく、本格的に作戦会議が始まるんだな……。
――ズズズ。
お茶をすすりつつ、ほんのちょっとだけ思う。
……とりあえず全員そろったし――そろそろミロさん、お菓子でも持ってきてくれないですか?
《リトルリバー》より感謝を込めて!
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