CHAPTER25『ギルドへの帰還と新たなる盟約』
山風が草を揺らし、木々の隙間から差す光が足元にまだら模様を落としていた。
港町カイラム中心街を離れてしばらく――俺たち五人は旅人が行き交う山道を抜け、ギルド・リトルリバーへと続く細い山裾の道を進んでいた。
坂道に差す西陽が木の枝葉を揺らす。
俺は軽く伸びをしながら、苔むした石段を登った。
「ふぇ〜、ギルドまであと少しですね〜」と、俺は思わず声に出した。
横を歩くミロが、背負い袋を揺らしながら頷く。
「はい、あと一息、頑張りましょう!」
少し後ろでは、赤猫組組長代行として同行しているズールさんが肩を回しながらぼやいていた。
「……結局、山賊なんざ出なかったじゃねえか。どんなモンか楽しみにしてたのによ」
さらに後方、カイラム中心街から十分に距離を取り、“さすがにトラガロファミリーの連中もここまでは来てねぇだろ” と計算したのか――布袋をズボッと脱ぎ捨てたドロガンが低く笑った。
「クックックッ、たぶんメイベルの姿を見て逃げだしたんだろうよ――」
その瞬間、メイベルの拳がドロガンの後頭部に叩き込まれた。
「うるせぇ!!」
ドガン!!
「いってぇっなぁ、テメェ!?」
頭を押さえて腰が引けたまま、必死に強がった目でメイベルを睨むドロガン。
メイベルが獣骨刀を軽く回しながら笑う。
「フンッ、せっかくコイツの切れ味を試してみたかったんだがなあ!」
――ドロガンさん、この旅で完全に“殴られ担当”になってきたなぁ……。
木々の間を抜ける風が、山の湿った匂いを運んでくる。
ギルド・リトルリバーまでは、もうほんのわずかだ。
ズールがミロへと顔を向け、片眉を吊り上げた。
「……ところでよ。ギルド・リトルリバーってのは、おめぇら以外に何人いんだ?」
ミロが素直に指を折りながら答える。
「はい、僕たち以外には、ギルドマスターのグリムさんと、カバ獣人のボグさんがいます」
ズールは目を丸くした。
「は……? たった六人か?」
ミロは胸を張り、力強く続けた。
「はい、ですがみんな伝説の武神、ヘラクレス級の強さですよ! ……まぁ、僕とチャロ君は全然ですがね」
ズールが鼻を鳴らしつつ、ミロへと顎を向けた。
「そうかよ……まぁ、おめぇらは あの親父 が認めたんだ。俺たちはいつでも力になるからよ!」
ミロはぱっと明るい声で返す。
「はい、ありがとうございます!」
そうこうしていると、俺の目の前に、木々の隙間から見慣れた建物の影がのぞいた。
ギルド・リトルリバーだ。
思わず肩の力が抜けて、口から声が漏れた。
「ふぇ〜……やっと着いた〜……」
山道を歩き続けた足が、ほんの少しだけ軽くなった気がした。
俺は勢いよくギルドの扉を押し開け、胸いっぱいに空気を吸い込みながら声を張った。
「ただいま帰りました〜!」
奥のテーブルで帳簿を広げていたグリムが顔を上げ、わずかに目尻を緩めた。
「……おかえり。無事に帰ったようだな」
その隣――
分厚い胸板と毛並みを持つ、ボグさんに匹敵するほど巨大なモフモフ獣人がどっしりと椅子に腰を下ろし、こちらを鋭く睨みつけていた。
テーブルに置かれた拳は丸太のように太く、鼻息ひとつで空気が揺れるほどの存在感。
俺は思わず足を止め、喉がひゅっと鳴った。
(……だ、誰だこのゴツいの!?)
ミロがぱっと顔を明るくし扉をくぐる。
「ただいま戻りました!あっ……ゲインさん! お久しぶりです!」
メイベルも獣骨刀をくるりと回し、ニヤリと笑う。
「おお、アンタが来てたのか。相変わらず図体だけデケぇな」
その横で、ミロが俺たちに向き直って小さく咳払いした。
「えっと……みなさん、この方はジャコウウシ獣人のブリッツ・ゲインさんです。
元ブラッドリバーの幹部で、今は隣町モルデンフォールのギルド〈デッドリーフワークス〉のマスターをされています!」
ギルドの椅子に腰かけていた巨大なジャコウウシ獣人――ブリッツ・ゲインが、太い腕を組んだまま俺たちをじろりと睨みつける。
厚い毛並みがわずかに揺れ、重低音のような声が落ちてきた。
「……なるほど、これが新しい“リトルリバー”の面子というわけか」
その眼光は鋼みたいに冷たく、同時にどこか“味方として頼りになる山脈のような重み”があった。
グリムはゲインの大柄な影をちらりと見やり、ほんのわずか目を細めた。
そして俺たちの方へ視線を戻し、低く言葉を続けた。
「……ザルモンド商会とトラガロファミリーの件をな、ゲインにも相談していたんだ――ん?」
視線が後方のズールへと向く。
ミロは前に出て、丁寧に紹介する。
「こちらは赤猫組のアオダイショウ獣人・ズールさんです!赤猫組の皆さんが僕たちリトルリバーに協力してくれることになりまして」
ズールはゆっくりと一歩前に出て、胸の前で拳を軽く合わせ、深く頭を下げる。
その所作には、極道らしい礼節と蛇獣人特有の圧が同居していた。
「……お初にお目にかかります。カイラム異人街、赤猫組にて若頭を務めております――ズールと申します。
本日は、組長・虎鉄の代行として挨拶に伺いました」
一瞬だけ空気が張りつめる。
――組長さんの名前、虎鉄って言うんすね!見た目も強そうだったけど……名前からしてゴツい!
ズールは視線を落としつつも、静かに言葉を締めた。
「以後、お見知りおきのほど……よろしくお願い致しやす」
柔らかくも低く響く声は、ギルドの空気を一瞬で締めるほどの迫力を帯びていた。
ゲインは「ほぉ」と低く呟いた。
どうやら――ズールの礼節と腹の据わった物言いに、一本筋の通った男だと感じているようだ。
グリムは落ち着いた様子で立ち上がり、胸に手を添え、丁寧な会釈を返した。
「……遠路はるばる、ようこそ。ギルド・リトルリバーのマスター、グリムだ。こちらこそ、よろしく頼むよ」
メイベルが獣骨刀の柄を腰に押し戻しながら、ズールへと顎をしゃくった。
「ハハッ、こいつらとは最初ちょいと揉めたんだけどよ、気づきゃ意気投合しててな!」
メイベルは続けて胸を張った。
「どうやら俺のかぁちゃんが昔、赤猫組の先代組長を助けたらしくてよ。その縁で、今の組長さんが“全面協力してくれる”って話になったんだ!」
その言葉に、ズールは深く頷いた。
ズールは穏やかな声音のまま、言葉を締めた。
「……メイベルさんの言う通りです。それに俺ら赤猫組も、トラガロファミリーの勢いにはお手上げ状態でしてね……そこで、赤猫組とリトルリバーで手を組もうって話になりやして――本日、組長代行としてあたしがご挨拶に上がった次第です」
その口調は静かだが、腹の底に芯の通った“覚悟”の響きが確かに滲んでいた。
グリムは軽く腕を組み直し、ゆっくりと頷いた。
「……なるほど。それは、こちらとしても心強い。
あなた方のような強力な勢力が味方につくとなれば――これほど頼もしい話はない」
ズールは背筋を伸ばし、静かに問いかけた。
「……では、同盟成立ということでよろしいかな?」
グリムはわずかに顎を上げ、堂々とした声音で応じた。
「もちろんだ。――こちらこそ頼りにさせてもらう」
その瞬間、ギルドの空気がわずかに震えた。
互いの覚悟が真正面から噛み合い、“リトルリバーと赤猫組”の同盟が正式に結ばれたのだった。
メイベルがニヤリと笑い、腰に手を当てた。
「へっへっへ、面白くなってきやがったな!」
ミロは胸の前で拳を握りしめ、ぱっと顔を明るくする。
「はい! これで、僕たちの持ち帰った情報と……ボグさんの持ち帰る情報を合わせて、作戦を立てましょう!」
俺はギルドの扉の方をちらりと見た。
「ボグさん、まだ帰って来ないのかなぁ?」
その言葉に、グリムが腕を組み直しながら静かに答えた。
「……何もなければ、今日中には戻って来るはずだが……」
ゲインが鼻を鳴らして呟く。
「ボグのことだ、寄り道している可能性もあるぞ」
メイベルは肩を揺らしながら、豪快に笑った。
「ハハッ、あのカバは一度眠るとなかなか起きねえからな! 熊のねぐらにでも入り込んで、冬眠してんじゃねえか?」
ドロガンも思わず吹き出し、
「そりゃ、あり得るな……!」
ミロが「そんなわけないですよ〜!」と笑いながら突っ込み、ギルドの中には自然と柔らかい笑い声が広がった。
その光景を見ながら、俺は胸の奥が少し温かくなるのを感じた。
――なんだかんだで、こうして笑って話してる時間が、一番好きなんだよな。
結局、みんな雑談しながらボグさんの帰りを待ってたけど――その夜は、とうとう姿を見せなかった。
心配ってほどじゃないけど、あの巨体が山道で寝落ちして麓まで転げ落ちてたらどうしよう、なんてちょっとだけ思う。
そんな中、ズールさんはというと、「同盟を組んだ以上、作戦会議にも顔を出したい」と言って、そのままギルドに泊まっていくことになった。
ゲインさんはというと、「まぁそういう日もある」と言って、同じくギルドに泊まることとなった。
ギルドの空気もなんとなく賑やかになって、明日に向けての“戦いの前夜”って感じが、じわりと胸に灯り始めていた。
……とりあえず、明日こそは全員そろって作戦会議しなきゃ間に合わないですよ!ボグさん、寝坊厳禁で頼むぜ、ほんとに。
《リトルリバー》より感謝を込めて!
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