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CHAPTER21『動き出す因果の街〜ボグ・ドンベルの記録〜』

カルヴォフ中将の口から放たれた

「トラガロに関われば、ギルド・リトルリバーの存在は抹消される」

という言葉は、静かに場を支配した。


ボグ・ドンベルとギルド・リトルリバーの仲間たちの前に広がるのは、単なる盗賊退治でも、些細な抗争でもない。


都市の地下に渦巻く巨大な闇――その波に、ついに足が触れ始めようとしていた。







俺は目を細め、低く唸るように言った。

「……リトルリバーの存在が抹消だと……!?……そりゃあ、つまり暗部が動くってこったな?」



カルヴォフは深く頷いた。

「その通りだ」



俺は眉をひそめ、拳を握りしめる。

「なんでだ? ギャングと関わるくらいで、軍の暗殺部隊が動くなんておかしいだろ」




カルヴォフは静かに目を細め、低い声を落とした。

「……ヴァルゴ・トラガロ。奴は元・陸軍暗殺部隊の特務参謀だった男だ」



俺は思わず椅子を軋ませて前のめりになった。

「……何だと!? トラガロの野郎、暗部にいやがったのか!?」



カルヴォフは、ゆっくりと腕を組み替える。

「だが――身内に対する度を超えた暴力で、軍を辞めさせられた……とされている」



暗部の連中は、“消す”ためなら仲間だろうが一般市民だろうが関係ない。

そんな奴が、今は裏社会のトップに座っている――ぞっとするほど最悪の組み合わせだ。



その時、地上からわずかに号令の声が響き、地下室の壁が低く震えた。

ダンは腕を組んだまま、その音に眉をひそめつつ、黙ってカルヴォフの言葉を待っている。



カルヴォフはゆっくりと視線を上げる。

「……表向きは“暴力沙汰での懲戒退役”だがな……本当に追放されたなら――暗部が奴を放っておくはずがない」



カルヴォフの分厚い毛並みが、ふっと揺れた。

「……実際、トラガロファミリーは暗部の“外部協力組織”として機能している」



俺は鼻を鳴らし、腕を組み直した。

「……なるほどな。トラガロと関わるってのは、まさに虎の尾を踏むようなもんか――なら、ザルモンド商会の護衛の話なんざ、断りゃいいだけの話だろ?」



カルヴォフはわずかに目を伏せ、低く唸るように応じる。

「……いや、それで済めばいいが……おそらく断ったところで、暗部は別の手段でお前らを葬りにかかる可能性が高い」



俺は眉を寄せ、低い声で問いただした。

「……は? 何で奴らはそこまでして、俺らを潰すことに拘る必要があるんだ?」




カルヴォフはゆっくりと視線を上げ、低く呟いた。

「……シーブリーズ襲撃事件を覚えているか?」



俺は奥歯を噛みしめ、椅子の背にもたれた。

「……ああ、忘れるわけがねぇ。

ブラッドリバー時代、政府のお偉いさんを護衛する任務で、仲間が五人も死んじまったんだ……忘れろって方が無理だろ」



カルヴォフの瞳が、冷たく細くなる。

「……当時、“ラーム・ジェリオス議員を襲ったのは街道の盗賊団・潮風団の仕業だ”とされ、事件は決着した」



地下室に、ランタンの火の揺れる音が響く。



「――死者は八名。ブラッドリバーの護衛五名、議員側の護衛と秘書合わせて三名……生き残ったのは、ジェリオス議員、そしてお前とグリムだけだ」



胸の奥で古傷がじくりと疼いた。



カルヴォフはゆっくりと息を吐き、分厚い胸板がかすかに上下した。

「その後、“襲撃犯”は軍の手によって壊滅させられた……表向きは、な」



俺の背筋がわずかに凍る。



カルヴォフはさらに声を落とした。

「……だが実際に作戦を立案したのは 陸軍暗部……そして実行したのは……トラガロファミリーだ」



「……ッ!?」

思わず喉が鳴った。


「な、何だと……!?」



胸の奥で、あの潮風のざわめきが蘇った。

仲間が倒れたあの瞬間の“空気”を、身体が勝手に思い出す。



俺は奥歯をきしませ、拳を握った。

「……クッ、あの時の盗賊の中に、二人――化け物みてぇな野郎がいやがった!……そのうち一人がトラガロの野郎だったってわけか……!?」



カルヴォフは重く頷き、視線を細めた。

「――ああ。もう一人は、おそらくドラヴォスという、トラガロファミリーの幹部だろう」



俺の胸の奥に、言いようのない熱が込み上げてきた。冷たく澱んだ怒りが、どんどん輪郭を帯びていくのが分かる。



「……だが、お前とグリムがジェリオス議員を守りきったことで、奴らの作戦は失敗に終わった」


分厚い毛並みがわずかに揺れ、地下室の薄闇にその眼光だけが鋭く光る。



「……そして、あの襲撃の失敗で、上から厳しく詰められ――結果として地位を落とした男がいる」



俺は拳を握り、身を乗り出した。

「……誰だ?」



カルヴォフはゆっくりと腕を組み直し、その毛並みに陰影が落ちた。

「……元陸軍暗部総監、ドラゴヴィッチだ」


思わず俺は眉をひそめる。

「……何だそいつは……初めて聞いた名だが……?」



カルヴォフの瞳が、わずかに細くなる。

「当然だ。表に出るはずがない……だが、グリムならその男を知っているだろう」



カルヴォフはそこでわずかに顎を引き、声を一段低くした。

「……今の奴は“暗部副総監”に格を落としている。だが力と執念は健在だ。そして――今回の一件を裏で動かしている黒幕でもある」



俺はゆっくりと立ち上がり、拳を握った。

古傷がわずかに軋む――あの時の痛みと怒りを、まだ身体が忘れちゃいねぇ。


「なるほどな。ドラゴヴィッチにトラガロ……シーブリーズの時の恨みで、今さら俺たちを潰そうって腹か」


俺は拳を軽く打ち鳴らし、口の端をつり上げた。

「――だったら丁度いいじゃねぇか。あの時の“借り”は、まだ俺の拳がしっかり覚えてるんだよ」



分厚い肩をぐるりと回す。

「まとめて返してやるさ。

フェッフェッフェッ!」



カルヴォフは片手を上げて俺を制した。

「……待て、ボグ。それを止める為に俺は“あの手紙”を出した。

今、我々は奴らが密かに行っている“兵器の横流し”の実態を掴みつつある。

証拠が揃えば、上層部に“正式な報告”として突きつけられる……奴らを失脚させるには、それが一番確実だ。

だから――今はまだ動くな」



カルヴォフの言葉に、ダンの耳がピクリと動いた。


ダンは大きな胸を叩きながら言い放つ。

「俺たちが動いてるんだ、すぐに結果を出してやるさ!」



俺は鼻で笑い、ダンの角を指差した。

「フェッフェッフェッ……お前が動いたら、そのデカい角が目立って、こっちの作戦が秒でバレるんじゃねぇか?」



「ふざけんなッ!」


ダンは顔を真っ赤にして怒鳴る。

「とにかく今は動くなっつってんだ!」



俺は肩をすくめ、あくまで平然と返す。

「そうは言ってもよ……向こうから仕掛けてくるもんは、どうにもならねぇだろ?」



カルヴォフは短く息を吐き、腕を組み替えた。

「……わかっている。だが今、奴らは“生物兵器”をザルモンド商会を介して、反政府組織や他国の軍に横流ししている。

俺たちはその流通の証拠線を押さえている最中だ。ここでお前らが動けば証拠は焼かれ、捜査は振り出しに戻る――だから今は“迎撃だけ”に徹しろ。仕掛けるのは、こちらが奴らの首を取るのと同時だ」



俺は思わず眉をひそめた。胸の奥がざらつく。

「生物兵器? 何だそりゃ?」



カルヴォフは声を落とし、背筋を伸ばして言った。

「……“魚人兵器”と呼ばれている。政府が極秘で開発した代物だ」



カルヴォフは低く続ける。

「要するに、死んだ魚人の遺体を改造して意のままに動かす“兵士”に仕立て上げる――感覚も痛みもない、命令だけに従う最強の戦力だ。危険性も倫理も丸ごと投げ捨てた代物だよ」



俺は低く鼻を鳴らした。

「ほぉ……そんなやべぇモンができたのか。そりゃあ、悪趣味にも程があるな」



俺は箱のリンゴを丸ごと口に放り込み、噛まずにゴクリと飲み下した。


カルヴォフはゆっくり息を吐き、視線をさらに重くする。

「奴らは、この濁流にお前たちをも引きずり込もうとしている。だからこそ、今は慎重に動くんだ」



濁流だの最強兵器だの……

どいつもこいつも物騒なもんばっか作りやがる。

まぁいい、面倒なら叩き壊すだけだ。俺の得意分野だ。



豪放な笑みを浮かべたボグの影は、薄暗い灯りの中で歪んで揺れた。

だが実際には、笑って済む状況ではない。

陸軍暗部、トラガロファミリー、ザルモンド商会――

複数の思惑が絡み、均衡は今にも崩れようとしていた。

地下で交わされたこの会談が、

後に大きな渦へ繋がる“起点”となる。


《リトルリバー》より感謝を込めて!

お読みいただきありがとうございます。


面白かったら、ギルドの活動資金(=★評価&ブクマ)をいただけると嬉しいです!


【作者Xはこちら】

https://x.com/00aomiray00?s=21

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