CHAPTER13『策士チュービン、ネズミが描く戦略図』
――チュービンさんの情報で、ザルモンド商会とトラガロファミリーが繋がってるってのがわかった。
俺たちに持ちかけられた護衛の任務は、どうやら“おびき寄せるためのエサ”らしい。
ギルド・リトルリバー、初大仕事にして早くも地雷原コースっす!
メイベルは肩に力を入れて言い放つ。
「……まぁ、とにかく罠と分かった以上、どう動くかが問題だな」
ドロガンは眉を寄せ、拳を握りしめる。
「俺の子分どもを、そんなヤバい連中の下に送り込むわけにはいかねえぜ!」
メイベルは刃物でも掲げるように片手を振り上げ、血の気の多い笑みを見せる。
「よし、ならばてめぇの子分も解放して、全員でトラガロのアジトへ殴り込むか!? 先手必勝ってやつだ!」
暗がりでチュービンが肩をすくめ、冷静に口を挟む。
「……待て。それをやるなら考えを改めたほうがいいぜ?奴らの頭数は、傘下組織も含めりゃ五百は下らねえ」
ドロガンは一瞬黙ってから、俯き気味に答えた。
「……確かに厳しいな。こっちは子分を解放しても二十足らずだ……勝負にならねえよ……」
ミロは瞬きを一つして、落ち着いた声で返す。
「……そうですね。ボグさんが持ち帰る情報と突き合わせて、最終的な方針はグリムさんに判断を仰ぎましょう」
メイベルは舌打ちをひとつ、チュービンに身を乗り出す。
「ちっ……おい、チュービン! ほかに何か引っかかることはねぇのか?」
暗がりでチュービンが薄く笑い、鼻をヒクヒクさせる。
「フフフ……ここまでは“無料”の範囲さ。だが、ここから先の情報は“有料級”だぜ?」
チュービンは指先で額の横を軽く弾きながら続けた。
「払う覚悟があるなら、もっと突っ込んだ話をしてやろう」
ミロが財布を開き、札束を取り出してチュービンの前へ差し出した。
「……これでお願いします。10万ゼリオンあります」
チュービンは片眉を上げ、にやりと笑った。
メイベルが椅子を蹴るように立ち上がった。
「おい!ミロ!そりゃあ渡しすぎだろ!?」
ミロは落ち着いた声で首を振る。
「いえ、メイベルさん。ここからの戦いは情報が命です。――グリムさんからも了承を頂いています」
「チッ……」
メイベルは舌打ちし、腕を組んで黙り込む。
チュービンは札束を懐にしまいながら、満足そうに頷いた。
「さすがはミロだ。よくわかっている……これでお前たちは“有利”になる」
メイベルが苛立ちを隠さず問いただす。
「そんで、その“有料級情報”ってのは、何なんだよ!」
チュービンの口元がゆっくりと歪んだ。
「フフフ……簡単に言うと、ザルモンド商会が政府高官や陸軍将官に資金を提供している――賄賂の証拠だよ。もしこいつが公になったら、奴らはもうアクア・ドミナじゃ商売できねぇだろうさ」
空気が一瞬だけ張りつめ、ミロの喉がごくりと鳴る音だけが響いた。
政府高官? 賄賂?
……いきなり話が難しくなってきたな。
えーっと、つまり……俺たち、すんごいヤバいことに首突っ込んでるってこと、ですよね?
メイベルは眉間にシワを寄せ、腕を組んで詰め寄った。
「……で、その賄賂の証拠とやらをお前は持ってんのか?」
チュービンは薄く笑い、尻尾をゆらりと揺らした。
「もちろんだ。手に入れるのには、かなり苦労をしたがな」
メイベルの目が鋭く光る。
「じゃあその証拠とやらを渡せよ!」
「さらに十万だ!」と、チュービンは指を立ててにやりと笑う。
「それと……この作戦が上手くいったら成功報酬として、追加で百万ゼリオン頂こうか」
「なんだと!」
メイベルの額に青筋が浮かぶ。
「こっちが下手に出てりゃあ、調子に乗りやがって!」
右腕をすっと上げ、ミロが静かに制した。
「メイベルさん!」
その声には、いつになく力がこもっていた。
「……追加の十万ゼリオンです。成功した暁には、さらに百万ゼリオンをお約束しましょう。
これは――ギルド・リトルリバーの命運がかかっています。出し惜しみは出来ません」
ミロの瞳に宿る強い光に、俺もドロガンも、そしてメイベルさんでさえ息を呑んだ。
――あの温厚なミロが、ここまで真剣な顔をするなんて……。
この瞬間、場の空気が一気に張り詰めた。
チュービンはにやりと口角を上げ、鼻先をぴくりと動かした。
「いい決断だ、ミロ!」
両手を広げ、さっきまでの軽口とは違う、どこか誇らしげな笑みを浮かべる。
「これで俺はお前たち――ギルド・リトルリバーの成功を全面的にサポートしよう!」
メイベルが半眼で睨みながら腕を組む。
「……ったく、最初からそう言えってんだよ」
チュービンは肩をすくめ、鼻で笑った。
「ハハハ、商売ってのはタイミングが命でね。タダで転がってくる情報なんて、何の価値もねぇのさ」
俺は心の中でそっと呟いた。
――このネズミ獣人、やっぱり一筋縄じゃいかねぇ……けど、頼りになりそうなのは確かだ。
メイベルが机をバンと叩き、怒声を飛ばす。
「……なら、チャッチャと情報を出しやがれ!」
チュービンはニヤリと笑い、身を乗り出して言った。
「よしっ!じゃあ俺が情報を元に作戦を立案してやろう!」
チュービンは一呼吸置いて、穏やかに言葉を継ぐ。
「俺の掴んだ話だと――来週、ザルモンド商会のスカルジがギルドに来るらしいな?」
ミロはすぐに前のめりになって答えた。
「はい。スカルジさんが来られて、トラガロファミリーとの交渉の際の護衛の件で、最終打ち合わせをされると……」
チュービンは目を細め、拳を軽く机に突く。
「その場で、俺の持ってる“賄賂の証拠”をスカルジに突きつける。奴らに『公に出れば商売も地位も終わる』と迫れば、ザルモンドはトラガロと即時、手を切るか――あるいは、表向きは取り繕いながらも裏では手を切る算段を立てるだろう」
ドロガンは眉を寄せ、疑いの声音で言う。
「……そんなにうまく行くのかよ?」
チュービンは肩をすくめ、次の手を示した。
「まぁ、聞け。その一発で終わるほど甘くはねぇ。だから同時にもう一手を打つ——トラガロファミリー内部に小さな不和を生ませるんだ」
ミロがキョロリと首を傾げる。
「内部不和、ですか?」
チュービンは地図の脇を指して低く説明する。
「ああ。奴らは一枚岩じゃねえ。幹部のドラヴォスとサブリーナは、実は犬猿の仲だ。俺はそこの火種を煽る材料をいくつか掴んでいる。揉め事が表沙汰になれば、組織の結束は揺らぐ」
ドロガンが思い出したように頷く。
「……確かに、ドラヴォスとサブリーナはよく揉めてるって話は聞いたことあるぜ」
チュービンは更に声を低めた。
「そしてトドメの一手だ。トラガロファミリーを“ギャング抗争”に巻き込む。内部が揺れ、外部とぶつかれば、トラガロ側もこちらに構っている余裕なんざなくなる」
メイベルは鋭く目を細め、短く吐息を漏らす。
「……ギャング抗争だと……?」
チュービンが身を乗り出し、声を潜める。
「……ああ、このカイラムで、ドン・トラガロファミリーと並び、裏町を牛耳ってる奴らを知っているだろう?」
ミロが眼鏡の奥で小さく頷く。
「バルバス解放戦線……ですね」
チュービンが指を鳴らし、ニヤリと笑った。
「その通りだ! 奴らは裏町の東西の境界線付近で、日頃から衝突を繰り返している。
そこに――大きな火種を焚べてやったら、どうなると思う?」
ドロガンが口をへの字に曲げる。
「……そりゃあ、本格的な抗争に発展するだろうな」
チュービンが不敵に笑う。
「ハハハ……そうだ。トラガロとバルバス解放戦線のボス、ネモラ・ドレイン……どっちが先に本気で牙を剥くかは分からねぇが……少なくとも、カイラムの裏町は一夜で“血の海”に沈むだろうよ」
メイベルが腕を組み、険しい表情で唸る。
「チュービン……お前、俺より悪党だな?」
チュービンが肩をすくめて笑った。
「悪党でも聖人でもねぇさ。ただの商売人だよ。情報ってのは、使い方ひとつで世界を燃やせるんだ」
――このネズミ、怖えぇ……!
まさか、こんなネズミが権力者を巻き込んだ抗争のシナリオを描いてるなんて、
誰も思わないよね!?
……ていうか、俺、ほんとにこんな話に混ざってて大丈夫なんすかね!?
……いや、もう引き返せないんですけど……。
《リトルリバー》より感謝を込めて!
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