CHAPTER11『鋼の契約、骨に宿りし焔』
――そうして街道は、だんだんと人通りが多くなり、ついにカイラムの中心街へと辿り着いた。
人のざわめき、露店の声、香辛料の匂い――活気が一気に押し寄せてくる。
そんな喧騒の中、マントで顔を隠したドロガンさんが一番怪しい。
あれ、不審者と間違われて治安警備隊に捕まるパターン、全然ありそうなんすけど!?
俺は人混みに目を白黒させながら、息を呑んだ。
「ふぇ〜、人が多いっすね……!」
メイベルが人波をかき分けながら顎をしゃくる。
「慣れろ。そこの角を曲がってすぐに武器屋がある」
通りを行く人々の視線が、すれ違いざまに一斉にドロガンへと注がれた。
フードを目深にかぶった大男――どう見ても“怪しい”のひとことだ。
ドロガンが小声でぼやく。
「……おい、これ、逆に目立ってねえか?」
ミロが苦笑いを浮かべて、早口で言った。
「……ですね。とにかく、武器屋さんに入りましょう!」
俺たちは視線を感じながら、そそくさと足を速め、人混みを抜けて武器屋の扉を押し開けた。
ギィィ……。
武器屋の扉を開けると、鉄と油の匂いがむわっと立ちこめた。
カウンターの奥で刀を研いでいた親父が顔を上げ、目を細める。
「いらっしゃい……おや? メイベルじゃないか、久しぶりだねぇ!」
メイベルは大股で近づき、豪快に笑った。
「おう! おっさん! 生きてたか?」
――――ほんとこの人、誰に対しても豪快だな……。
白髪混じりタヌキ獣人の親父は苦笑いを浮かべながら腕を組む。
「ははっ、相変わらずだな。で、今日は何を探しに来たんだい?」
メイベルが腕を組み、ニヤリと笑った。
「なあ、親父――あれがあんだろ? グラディウスを改良したやつが!」
武器屋の親父は目を細めて、ニヤッと口角を上げた。
「おお〜、さすがにいい所に目をつけてるな、メイベル。
まだ売れ残ってるよ、なかなかお目にかかれない代物だぜ。
“獣骨刀” つって、刃の背に獣骨を埋め込んで補強してある――今うちにあるのは、この一本だけだ」
そう言うと、親父はカウンターの下に身をかがめ、
埃をかぶった木箱の中をガサゴソと探り始めた。
やがて、軋む音とともに現れたのは、赤黒く脈打つような刀身の剣だった。
――なんて恐ろしそうな剣なんだ……。
近くにいるだけで、背骨の奥がチリチリする。
持ってるだけで呪われたりしないっすよね!?
メイベルが目を輝かせて身を乗り出す。
「おお、コレだよコレ! 何の骨だ?」
武器屋の親父が誇らしげに鼻を鳴らす。
「ヴォルカノサーベルタイガーの背骨だよ。火山地帯に棲む化け物でな――こいつの骨は、炉にくべても燃えねぇ」
メイベルが口の端を吊り上げ、獰猛な笑みを浮かべる。
「サーベルタイガーか……そいつぁ丁度いい。サブリーナ(ユキヒョウ獣人)と、トラガロ(アムールトラ獣人)の野郎をやるのには、まさにうってつけだ」
カウンターの灯りが刀身に反射し、メイベルの笑みが、まるで火花のように赤く揺れた。
武器屋の親父はカウンターから身を乗り出し、眉間に皺を寄せた。
「ん……? 今、トラガロと言ったかね?」
メイベルは獣骨刀の柄を握りしめ、刀身の重みを確かめるようにゆっくりと頷いた。
「お……ああ」
親父は小さくため息をつき、目の奥に疲れを滲ませる。
「……あの連中には、ほとほと困ってるんだ。毎月のように“みかじめ料”を要求してきてな。金を払い渋ると、夜のうちに店に泥棒が入ったり、店内が壊されたりする。奴らがやったという証拠は残らんから表には出せねえが、どう考えても連中の仕業だよ」
メイベルは獣骨刀を軽く振り、刃先の反射を確かめるように目を細める。
「へぇ……セコいことしてやがるな。そりゃあ世直しってやつで、叩き潰しても誰も文句言わねえだろうな」
親父は俯きかけていた顔を上げ、真剣な表情でメイベルを見据えた。
「俺たち商売人にとっちゃ、文句言わねえどころか、拍手喝采だよ……だが、お前さんたち、あの連中と関わるんじゃねえぞ。ただの盗賊とはわけが違う。命がいくつあっても足りねえ」
メイベルは口角をぐっと上げ、親指でドロガンを指さした。
「こいつは、あのトラガロの部下の盗賊だぜ」
武器屋の親父の目が大きく見開かれカウンター下にある護身用の棍棒を手に取る。
ドロガンは慌てて顔を上げ、胸を張って叫んだ。
「バカ! 俺はもう足を洗ったんだよ!」
メイベルが胸を張って親指をぐっと下に突き出す。
「俺たちリトルリバーがトラガロファミリー傘下のこいつら、パンスト団を潰したんだ!」
ドロガンは声を荒げた。
「バースト団だ!」
親父は眉を寄せながら言った。
「傘下を潰したって……お前らがか? あいつら、報復は容赦ねぇぞ。本当に大丈夫か?」
メイベルは肩をすくめてニヤリと口角を上げる。
「知ってるよ。だが、来りゃ来たで返り討ちにしてやるさ……で、こいつは、結局いくらするんだ?」
親父が重々しく言葉を落とした。
「……100万ゼリオンだ」
ミロが目を見開いて固まる。
「100万!? いきなり予算オーバーですね……」
メイベルが腕を組んでにらみつける。
「100万なんて高すぎんだろ。なんとか10万くらいまで下げてくんねぇか?」
――いきなり90パーセントオフの在庫処分価格!
腐りかけのバナナのたたき売りじゃないんすから!!
親父は苦笑いを浮かべ、手を広げた。
「そりゃあ大赤字だよ!なんせこいつは――獣骨刀ランクA級の代物だからな!」
メイベルが片眉を上げる。
「A級? なんだそりゃ?」
親父は胸を張って説明する。
「素材が希少最強種と認定されりゃ、A級だ」
「ほう、そいつが最上級か?」とメイベルが興味深そうに尋ねると、親父は首を横に振った。
「いや、S級というのがあるらしい」
メイベルの目がわずかに光る。
「……そりゃあ何の骨だ?」
親父は声を落とし、静かに呟いた。
「……“龍”だ」
俺は思わず身を乗り出した。
「り、龍っ!?」
隣でミロが目を丸くし、思わず声を漏らす。
「……空想上の生き物じゃないんですか!?」
親父は豪快に笑い声をあげ、肩をすくめて言った。
「ハッハッハ、確かにアクア・ドミナにゃそんな化け物はいねぇよ。だが、うわさじゃ大陸の奥、山岳地帯のもっと奥にいるらしいがな──」
メイベルは親父の言葉を聞き流すように早口で畳みかけた。
「そりゃ聞くだけでゾクゾクするような話だが……それはいいからよ、こいつの金額をどうにかしてくれよ!」
親父は顎に手を当ててしばし考え込む素振りを見せ、やがて真面目な顔で切り出した。
「よし、こうしよう。こいつはお前に貸してやる、レンタルだ」
ミロが驚いて身を乗り出す。
「レンタル、ですか!?」
親父は頷き、続けざまに口を開いた。
「ただし条件がある。お前らが、もしも本当にトラガロファミリーをぶっ潰してくれたら──その時は正式にメイベル、お前に譲ろう。いいな?」
「そうだな、期限は……」と言いかけたところに、メイベルが口を挟んで言い放つ。
「一週間とちょっとだ。一週間後に事態は動く。その時に片はつくだろう」
親父はその言葉を受けて小さく頷いた。
「分かった。メイベル、お前を信用しての話だ。だが、くれぐれも無理はするなよ。命あっての武器だからな」
メイベルは刀身に指を滑らせて口元を緩め、低く答えた。
「恩に着るよ、約束する。楽しみに待ってな」
ドロガンが眉をひそめ、少し身を乗り出す。
「でもよ、もし失敗したり……そもそも戦闘にならなかった場合は、どうすんだよ?」
メイベルは肩をすくめて、面倒くさそうに返す。
「そりゃあもちろん返しに来るに決まってるだろ……って、話がまとまってんのに、いちいち混ぜっ返すな!」
そのまま拳を振り上げ、ゴンッ!とドロガンの頭に一撃。
「いってぇ!! てめぇ、本気で殴っただろ!」
ドロガンが頭を押さえて怒鳴るが、メイベルは鼻で笑うだけだった。
武器屋の親父が苦笑しながら手を振る。
「ハハハ、おいおい、店の中で暴れるな。棚が壊れちまうだろうが……で、そっちのお前さんらは武器はいらんのか?」
「そうですね〜。これにしましょうか」
ミロはそう言って、防具コーナーに並ぶ籠手を手に取る。革の質が良く、手首の金具には細かな刻印が入っていた。
武器屋の親父が感心したように目を細め、鼻を鳴らした。
「お前さんもお目が高いねぇ……そいつはダマスカス鋼だ。並の剣なら刃が欠けるぜ」
ミロは満足げに頷いた。
親父が俺の方を見やり、口の端を上げる。
「坊主は何か買わねぇか?」
俺はあたふたと手を振った。
「い、いや、俺はスコップが武器なんで……!」
親父は目を細め、カウンターの下からごそごそと何かを取り出す。
「スコップだぁ? 珍しいが、ちょうどいいのがあるぜ」
親父がカウンターから黒光りするスコップを取り上げて、どっしりと差し出す。
「軍用スコップだ。めちゃくちゃ頑丈で、そこらの剣なら折っちまえるぜ」
俺は思わず目を輝かせてそっと手に取る。
――おお〜、これいいかも。今のよりズシリと重いけど、不思議と手に馴染むなぁ。
ミロがにっこりと頷いて言う。
「チャロ君、良かったですね」
親父は次に、壁際に立てかけてあった大棍棒を外してドロガンに差し出した。
「こいつはどうだ?力自慢向きだぜ」
ドロガンは棍棒を受け取り、柄を確かめてから呟く。
「お、おお……いいじゃねえか。握り心地も悪くねぇ」
ミロが小さくうなずき、財布を取り出した。
「……お代はいくらになりますか?」
親父が指を折りながら答える。
「そうだな。特別にサービスするよ。お前さんの篭手は五万ゼリオン、スコップは八万ゼリオン、大棍棒は十二万ゼリオンだ」
メイベルが半眼になってドロガンを見やる。
「……てめぇのが一番高ぇな?」
ドロガンは眉をひそめて言い返す。
「いいだろうが! その分、戦闘になったら暴れ回るからよ!」
ミロは苦笑しながら財布の中の札を数えた。
「……丁度あります。ご確認を」
親父が受け取り、指先で枚数を確かめる。
「ああ、……確かに」
メイベルが笑みを浮かべて店の出口を顎でしゃくった。
「じゃあな、おっさん! 一週間経ったらまた来るぜ!」
親父は笑いながら手を振る。
「おお、あんがとよ! メイベル、無理するんじゃねえぞ!」
そうして俺たちは、買ったばかりの新しい武器を背負い、賑やかな通りに向けて武器屋を後にした。
――これで戦う準備は万端……あっ、ボグさんとグリムさんの武器買うの忘れてた!!
《リトルリバー》より感謝を込めて!
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