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8夜


 ある日の昼休み、イツキとジュンは同級生の橘サトルと最上階の扉の前へと来ていた。階段には『立ち入り禁止』の立て看板。


 3人は屋上の入り口の扉の前でしゃがみ込み、サトルの手首が裂けて血を噴き出し何やらドアノブをカチャカチャと弄っている。


 【高校2年生・橘サトル(通称:マスター・キー)】

 不良。鍵屋の息子。サングラス。リーゼント。


 イツキが疑うように「本当に開くのか?」と言うと、サトルは自慢げに「俺に開けられねえ学校の鍵はねぇよ、それよりブツは持ってきたんだろうな?」と鋭い眼光をジュンに向けた。


 ジュンが「ああ、極上のを用意したぜ」とニヤリとする、そうこうしている内に鍵がガチャリと鳴ってドアが開いた。


 学校の屋上、そこは誰も立ち寄らない秘密の広場。3人はそこで昼食を食べようとしていた。


 屋上へ出てグ〜っと背伸びをして深呼吸する、青い空、コンクリートの床、いつもと違う景色の中で風を感じる爽快感。


 3人は屋上のど真ん中であぐらをかき、青空の下で昼食を始めた。


 ジュンが「約束のブツだ」そう言って、サトルにカニパンと牛乳を渡した「やったぜカニパンだ!うっひょ~い!」と喜んでカニパンを頬張るサトル。


 イツキはカレーパン、ジュンはカツサンドを頬張り、満面の笑み。


 サトルは「お前ら悪樓アクルと揉めて引き分けたんだって?噂になってんぞ?」とカニパンを頬張りながら教えた。ジュンが「引き分けたんじゃねえ、邪魔が入らなきゃ勝ってた」と不機嫌そうに答えた。


 「いや勝つなよ、相手20人くらい居ただろ」とサトルは引いている。


 イツキはカレーパンを食べ終え、牛乳を飲み、MDウォークマンで『お化け長屋』を聴きながら、大の字で空を仰いだ。


 サトルが思い出したかのように「あっ!お前ら知ってるか?最近ここいらでヤクザが刺されたんだと、気を付けろよ〜」と言ってきた。


 ジュンは「へぇ~、物騒な話だなそりゃ…通り魔か?」と聞き返す、サトルは「わかんねぇけど銀で刺されたって話だ、こえ〜」と身震いさせた。ヴァンパイアにとって銀は劇物、それはとてつもない脅威である。


 しかしジュンはヤクザ同士のいざこざだろうと意に関せずにいた。


 その日の夜、2人は特攻服を着て銚子駅前に。


 GOING STEADYのコピーバンドが『BABY BABY』を演奏していたので、2人はそのバンドの目の前であぐらをかいて聴き入っていた。


 ジュンが「やっぱゴイステはいいなあ」としみじみと言うので、イツキは「まあ…否定はしねぇなぁ」とリズムを取りながら答えた。


 コピーバンドの少年達が「お客さんの中で何かリクエストとかありますか?」と聞いて来たので。

2人は「「銀河鉄道の夜」」と声を揃えてリクエストした。


 駅前の明かりで、いつもより星空がくすんで見える、電車から降りた人々が流れるように駅から出て来て、各々の行きたい場所へと歩きだす。ざわざわとした話し声、道をゆく車の音、はしゃぐクソガキの奇声、飲み屋から漂って来る焼き鳥の匂い、それらが混ざり合い独特な世界観を生み出していた。


 静かに始まる『銀河鉄道の夜』のギターとベース、突如としてドラムが加わり勢いを増す演奏が、その景色全体に星空を映し出す。


 まるでフィンセント・ファン・ゴッホの『星月夜』のような景色が全面に弾けて広がり、ガイコツが屋根の上で踊りだす。


 その勢いのまま、背中に翼が生えて、大きく羽ばたいて飛べるような気すらしてくる高揚感。


 線路がガタンゴトンと産声を挙げ、地面に振動が伝って来る、座っている尻や、地面を触れている手からそれらを感じ取り、まるで銀河鉄道に2人で乗り込み、飛んで行くかのよう。


 いつしか2人は空を見上げ微笑んで、目を閉じる。


 演奏が終わると、2人は拍手してギターケースに小銭を投げ入れた。


 そして、しばし休憩を取ると言うバンドに、ジュンは駅前のコンビニで水とブラッドピースのコーヒー味を買って与えた。


 ジュンが「いやぁ良かったよ、久しぶりに良い演奏聴いた」と言うと、そのバンドマン達は「いやこっちこそ、久々にちゃんと聴いてくれるお客さんで感謝してます、良かったら今度ライブやるんで来てください」とライブハウスのチラシをジュンに渡した。


 ジュンが「ライブハウス『ストロベリー・ロワイヤル』か…近いな?イツキ、行ってみるか?」と聞いて来たので、イツキは折角なので行ってみようとその提案に乗った。


 「良かったぁ、あっ俺、雷堂カゲトラって言います、よろしく」と自己紹介されたので、こちらも喜んで自己紹介をした。


 そしてカゲトラが笑顔で「んじゃやりますか〜、リクエストはありますか?」と言うので。


 2人は声を合わせ、笑顔で「「東京少年」」とリクエストした。


 静かに囁くような歌声が耳を癒す、他のメンバーが「良かったらご一緒に」と言うので、イツキとジュンは顔を見合わせニカッと笑い、ボーカルが叫び出すタイミングで豪快に歌いだした。


 星月夜が弾け、星屑が舞い、渦となって回りだす。



読んで頂き感謝です( *・ω・)

そんなあなたの今日の運勢は末吉です( *・ω・)


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