6夜
次の日、朝の学校で。
ジュンがドタバタと慌ただしくA組の入り口をバンッ!と開けて叫ぶ「おいイツキ!!タケルが入院した!!」それを聞いて飛び起きるイツキ。
昨日の夜、この学校の1年がヤマダタロウで買い物をしているとバイクの轟音に目をやって現場を目撃、その後救急車を呼んで病院まで付き添ったらしい、すぐさまその1年の教室へ。
【高校1年生・佐藤コウタ】
オタク。丸々と太ったメガネ。バンダナ。復刻版ガラケーの画面フィルムを剥がさない。
【高校1年生・斎藤マナブ】
厨二病。痩せ型。2重のウォレットチェーン。右手に包帯。前髪が長い。
コウタが「いやぁ〜!さすがに肝が冷えましたぞ!アレは我々が、ちょうどファミ通を立ち読みしていた時にござる!」と言うと
マナブが「先輩達…いや!堕天使のお2人…同じ堕天使として…この俺が情報を提供しようじゃあないか!」とイカしたポーズを決め、前髪の隙間からこちらを見ている。
マナブが言うには『青いGSX400E』に乗っていたと言う。
イツキが「青いザリ?悪樓の頭か…俺等のせいだな」と言いながら顔色が曇る。ジュンは今すぐにでもハマコーに乗り込む気らしいが、イツキがまずはタケルの見舞いに病院へ行こうと言う。
そのままZⅡに跨り病院へ向かう2人、しばらくすると1台のバイクが後をつけてくる、フルフェイスのヘルメットをかぶった男がウインカーを出しながら追ってくる。
イツキがそれに気付くとジュンの肩を叩き、ジュンもそれに気付いてバイクを停める。するとそのフルフェイスの男も停めて歩いて近づいてくる、ポケットから手紙を取り出し黙ってジュンに渡した。
ジュンはその男の胸ぐらを掴み脅してみたが、フルフェイスを取ると普通の高校生でガクガクと震えていた。話を聞いてみると「悪樓のヤツらに頼まれた」のだそうだ。
その手紙を読んでみると、可愛い字で「夜9時にポートタワーの駐車場に来い」とだけ書いてあり、ボロボロのプリクラが貼ってあった。そのプリクラのタケルの顔にはバツ印。
それを見てブチギレ寸前の2人、手紙を握りしめて破いて捨てた。そしてタケルの居る病院へと足を運んだ。
タケルは顔中を包帯でグルグル巻きにしていた。心配そうにしている2人に、タケルは「大丈夫だよ複雑骨折だったけど、明日には退院出来るって、1週間もすれば治るから、心配しないで」と笑顔で答えた。
イツキとジュンは深々と謝って、すぐにいつも通り話をすることが出来た、退院したらサトミとプリクラを交換するだろうとジュンが言い、プリ帳なる物をタケルに渡した、プリクラを交換して貼る手帳なのだとか。タケルは照れながら喜んでいた。
一通り話を済ませて2人は病院内を歩く、周りの者が目を合わせないように俯いている、いつしか2人は鬼の形相で歩いていた。
2人は家に帰り勝負支度をする、純白の特攻服に身を包み黒い襷を結び、ワックスで髪をかき上げる、
『銚子ポートタワー』駐車場。
17台のバイクが円を囲ってライトを照らす、その中心には灰原タツヤが額に血管を浮かべ舌を出して笑っている。
そこにやって来る2人、復刻版ZⅡに乗って『堕天使』がブチ切れ寸前の形相で周囲をビリビリと威嚇する。
バイクを停めて、イツキはMDウォークマンのリモコンを弄り「サン=サーンスなら…何が良い…?」そう言うと。
ジュンは目を血走らせ「んなの決まってる…死の舞踏だ…!!」と爆発寸前、イツキは「だよなあ」とスイッチを入れる。
イヤホンとBluetoothスピーカーから流れる曲は…
『カミーユ・サン=サーンス 死の舞踏』
曲が始まり、ジュンが静かに歩き出す、一歩一歩踏みしめて、タツヤの前へ、そして激しいヴァイオリンの音色と共に2人も激しく殴り合う。
そのうち手首が裂けて血を噴き出しジュンはメリケン、タツヤは長パイプ、互いに打ち合い血だらけになりながらも止まる事なく、目を大きく開いて吠える ジュンは怒りタツヤは笑う不協和音。
イツキはサプリを口に入れてリズム良く噛みながら、先割れスプーンを作り出す、そしてギャラリー共に下からすくうように手招きすると、20人の悪樓達が一斉に走り出した。
激しく、重苦しく、悲しみが滲み出るような戦に、ジュンは殴るのを止めず、イツキは流れるように次々と敵の武装を解除解除し先割れスプーンを突き立てる まるでピアノとヴァイオリン。
いったいどれだけの時間が流れただろうか、そろそろ死の舞踏が終わろうとしている。
すると…月明かりに照らされ…そこにナニカがやって来た…。
曲が静になったかと思えば優雅で重苦しい音色と共に登場。
ガシャガシャガツガツと地面を突き刺しながら歩くロボット、その場の全員が手を止めざるを得ないその姿、所々が歪に凹み火花を散らす。
純銀の装甲が鈍く輝く謎の機械、足が8本生え、真ん中にある円柱型の本体、その本体に付いている8段の赤いカメラレンズがそれぞれ周囲をぐるぐるっと一周する、足先が刃物のように尖ったその機体。
その機体がガタガタプスプスと震え出し、激しい火花を撒き散らしながらガシャガシャガッタンガッタンと向かってくる。
そして次第に動きがゆっくりとなり、ついには煙を出して爆散、カラカラと散らばる破片が悪ガキ共のやる気を削いだ。
駐車場の火災探知機が警告を発しスプリンクラーが作動、その場に居る者の頭を冷やす。
唖然とする両者、聴こえる消防車の音、タツヤが血の混じった唾を地面に飛ばし「興醒めだあ”…クソペコパがあ”…」と言うとバイクに向かって歩き。
ジュンはそれに気付いて「待て!逃げんなゴラ”!」と後を追い吠える。
タツヤはバイクに跨り走り出す、それを追うように他のメンバーも急いでバイクに乗って走り出した。
その場に残されたのはイツキとジュン…そして壊れたナニカと止まる曲。
イツキが「どうする…」と濡れた髪をかき上げる、「クソあッ!!」と吠えるジュン、そしてすぐに我に返り「帰ろ…」と冷静になった。
2人は変な機械よりも、喧嘩が台無しになったことの方が大問題で、タケルに顔向け出来ないとボヤいた。
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そんなあなたの今日の運勢は小吉です( *・ω・)