3夜
【スナック・ど根性】
ここは銚子のスナック街、数多くある飲み屋の内の1軒、裏路地にたたずむその花園は、従業員全員がオカマのお店、カオルはそこで働いている。
カオルは出勤するなり「おはよ〜、ま〜たうちのドラパン居なくなっちゃって、もう大変っ」と喋りながら荷物を置く。
すでにお客が何人かカウンターに座って酒を飲んでいた、お客が「カオルちゃん今日も元気だね〜男でも出来た?」と冗談混じりに言うと、カオルは笑いながら手をパタッとさせて「じょーだんっ」と返す。
【スナックど根性のママ・カスミ(本名・飯田カズオ)42歳】筋骨隆々でありながらどこか色気を感じる。
ママが「あら、今日まっちゃん来るのね」と言うと「え?なんでわかったの?来るらしいけど?」と不思議がるカオル。
「見たらわかるわよ」とママが呆れている、「あらっ、なんでかしら…ちょっと恥ずかしいわね」とカオルが照れながら両手で頬を触ると、ママがカオルのバッグを指を差す、そのバッグにはDVDが顔を出していた。
「あらやだっ!ママったら名探偵ね〜、そうなのまっちゃんが来るっていうから返さなきゃって」カオルが感心していると、店の入り口がカランコロンと鈴を鳴らし、お客が1人入って来た。
その客は「カズ、マティーニこさえてくれ」とカウンターに座った。
【地元のヤクザ犬岩組の組長・犬岩セイジ42歳】
ママが「セイジちゃん困るわよ、お店に来られたら、他のお客が萎縮しちゃうじゃない」と眉をひそめる、でも他の客が「別にかまわないよ、祭りじゃ世話になってる」と言うので仕方なしにマティーニを作って出す。
セイジはマティーニをチビチビ飲みながら、ママに「ここいらで変な銀色のロボット見なかったか?ペコパに似たロボットだ、お痛したんでブッ壊したんだが…潰し損ねてどこかに消えた…」と真剣な表情をする。
ママが「なにそれ、物騒な話?見てないけど…なんかあったの?」と尋ねるとセイジは「うちの組員が足を刺されてなあ…銀アレルギーが出て入院中だ…早く見つけねぇと…カタギに手ぇ出してからじゃ遅え」と怖い顔をしていた。
飲み屋街の威勢の良い笑い声と、愉快なカラオケの歌声が混ざって夜空に溶け出し、星が笑っていた。
次の日の学校。
『千葉県立君ヶ浜高校・通称ハマコー』
男子は変形学生服を着用して個性を出す。女子はブレザーをオシャレに着こなし青春を謳歌する。
イツキは短ラン、ジュンは長ランであった。
生徒たちが笑顔で「おはよう」と挨拶を交わし、青春の光がキラキラと輝く学舎、校内にある自動販売機がガコンと飲み物を落とす。
朝から生徒がざわついている、堕天使が大王怒を潰したという噂が広まり、1人で登校してくるイツキにも注目が集まっていた。
ジュンがブラッドピースのグレープ味を飲みながらイツキを発見する、イツキはMDウォークマンで『目黒のさんま』を聴きながら眠たい目をこすっていた。
イツキは自動販売機の方にジュンが居る事に気付いて、ふらふらとジュンの元へと歩いた。
ジュンが「眠そうだな、朝飯食ったか?」と言うと、イツキは「まだ」と素っ気なく返す。
そこへ1年生の黒崎アツコが手を大きく振りながら「センパ〜イ」と小走りでやってくる。
【高校1年生・黒崎アツコ】
ガングロギャル。ミニスカートにダルダルのルーズソックス。復刻版ガラケーに多めのストラップ。紺のカーディガン。
イツキの背中にドドンと大きな胸を押し付け抱きつく、イツキも多感な時期の男子「わ!離れろ!」と目を覚ます。
アツコはそのままジュンに「ウチもブラピ飲みたいっす」と萌え袖をバタバタさせてイツキの背中にウニウニと大きな胸を擦りつける。
ジュンは「わかったから離れてやれ、イツキが恥ずか死ぬ」と自動販売機に100円を入れる「桃がいいっす」と言うので仕方なしにピーチ味を購入、アツコは美味しそうにブラッドピースを飲む。
そこへタケルがやって来て「2人共おはよ、アツコちゃんもおはよ」と笑顔で挨拶した。
アツコが目を輝かせてイツキから離れ「おはようございます!タケル先輩っ!ん~」と嬉しそうにタケルに抱きつき頬擦りするが、タケルは気にしない様子。
「2人も朝ごはん?ブラピだけだと偏るよ?プロテインバーあげようか、アツコちゃんもどうぞ」と笑顔でポケットから細長く包装されたプロテインバーのチョコレート味を取り出した。
それを「タケル先輩や〜さ〜し〜い〜」と全て取るアツコに「おい!全部取るなよ!こっちにもよこせ!」とジュンが取り返す。
タケルが笑っていると、同級生の桜木サトミがそこを通りすがる。
【高校2年生・桜木サトミ】
美白派ギャル。ミニスカートにタポっとしたルーズソックス。
タケルが気恥ずかしそうに「あ!サトミちゃん…お、おはよ!」と挨拶をすると、サトミは「朝からお盛んね、ふふっ」と微笑んで通り過ぎる。
タケルが慌てたように「え!?ち、違うよ!誤解だよ!」と釈明しながらアツコを振りほどいて追いかけ、アツコは頬を膨らませて不満げ、イツキとジュンは腹を抱えて笑った。
イツキとジュンは3階へ登る、2年生のクラスがあるのは2階なのだが、行かなきゃならない理由がある。
3階には3年生がいる、廊下でしゃがんでいる者やふざけて遊んでいる者、女子に声をかけている者、様々。
その3年生達が目を逸らしてゆっくりと道を開ける、3年C組の教室の入り口をバァン!っと開けると皆が目を逸らして席を立つが、1人だけ席に座っている者がいる。
そこに居るは本郷マサミである、マサミは俯いて元気の無い声で静かに口を開く「木島、今日からお前が番長だ…」
するとジュンは凄んで「木島さんだろうが…あ?」とマサミを覗き込んでガンを飛ばす、マサミは目を合わせずに「木島さん…」と涙ぐむ。
ジュンはニコニコしながら「おう、んじゃカツサンド買って来う、ダッシュでなあ」と200円を渡して言う、マサミは周りの目を気にしながらお金を受け取り走って教室を出た。
ジュンは周りを見渡して「したっけ俺ら教室に帰っからよ」と他の3年生に言い残し、その教室を出た。
イツキとジュンは顔を合わせてニカッと笑い拳を合わせた、自分達の教室へと帰って行った。
ジュンとタケル、サトミはB組、イツキのクラスは2年A組である。
イツキは自分の席に座り、だるそうにサプリを噛む。
隣の席の女子、佐藤カエデが教室に入ってきて、イツキが居る事を確認すると、腹をくくったように「イツキ君…!お、おはよ!」と挨拶をする。
【高校2年生・佐藤カエデ】
人見知り。普通の女の子。
イツキは「んん…おはよ」と素っ気なく返し、カエデはホッとして笑顔で席に着く。
担任の松芝トオルが二日酔いのまま、面倒くさそうに教室に入って来た。生徒達が朝の挨拶を終わらせ席に着き、松芝が頭をかきながら「あ〜…なんだぁ…まいっか…」と何かを思い出そうとして諦めた。
【担任・松芝トオル38歳】
いつも面倒くさそうにしている男装家。
「あ、思い出した…ちっ!…あ〜、文化祭の出し物が決まってないのはこのクラスだけだ、さっさと決めろ」
生徒達が「でっけえ舌打ちしたな今」と思っていると、転校生の黒人、ダニエル君が手を挙げて「ハイ!『キャバクラ』ガイイト思ウヨ!」と発表した。
それを担任含めて全員が声を合わせ「断る!」とハモって返した。ダニエル君が「……ウ〜ワ…差別カヨ」と引いている、全員で「いやいやいやいや」とツッコんだ。
そして話し合いの結果、文化祭の出し物は『雀荘』に決定し、松芝先生が教頭先生にこっぴどく怒られて振り出しに戻った。結局イツキの提案で『カレー屋』をやる事になった。
1限目の授業が終わり、イツキはサプリを噛みながら教室を出たのだが、廊下では本郷マサミがジュンにメロンパンを渡していた。
ジュンが「俺、カツサンドっつったよな?なんだコレは?」とマサミを睨んでいる。
マサミは「いや、カツサンドが無かったので…」と目を合わせないようにしていた。
ジュンはマサミに「無いなら買ってくんなよ!お前はアレか?カツ丼作る時トンカツ無かったらメロンパン入れるんか!?ああ!?」と吠えると、マサミは「カツ丼は作ったことが無いのでわかりません…」と答えた、周りの2年生達は耳を疑って2度見する。
ジュンの額に血管が浮き出ているが我慢している様子だ、ジュンが「もういいから金返せや」と言うと、マサミは「か、金持ってないです」と言う。
周りの2年生達は「あっちゃー」と片手で額をおさえる、そのままマサミはジュンに引きずられるように校舎の外へ連れて行かれた。
イツキは、あまりのバカさ加減に、関わったら負けだと思い、見なかった事にした。
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そんなあなたの今日の運勢は小吉です( *・ω・)