表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

2夜


 イツキとジュンは、大王怒クラーケンを潰した余韻に浸りながら夜道を走る。復刻版ZⅡの振動と、カーブした道路での遠心力を全身で感じ、その心地良さを楽しんだ。


 その心地良さを再び感じたいと思い、蛇行しながら道を行く。


 すると、商店街の電気屋の前で、悠々と歩いている幼馴染のタケルを発見した。


 【高校2年生・音無おとなしタケル】

 背が低くくて真面目で大人しそう。


 ジュンが「タケル〜」と声をかけてバイクを止めた。タケルは塾の帰り道で、手にはマンゴー味のブラッドピースを持って、それを飲んでいる。


 ジュンが「それ人工らしいよ?」と言うとタケルは「うん知ってる、2人はまた喧嘩?物好きだね」と微笑む。


 ジュンとタケルの会話に耳を貸しながら、イツキは電気屋のショーケースに置いてある数台の復刻版ブラウン管テレビから、ニュースをボーッと眺めていた。


《先週、謎の飛来物が流星群となり…》《専門家はコレを…》


《明日の平均気温は42度と比較的快適な…》


《飛来物の残骸から『VAMPIRE・HUNTER』という文字が…》


《これは旧人類の…》《続いて次のニュース…》


《養サピ場の見学に訪れた来客が…》


 タケルの「イツキ?」と言う声でイツキは我に返り「え、どうした?」とタケルを見た。


 タケルは「また貧血?サプリあげようか?鉄分の噛むヤツ」と筒型のプラスチック容器をイツキに見せた。イツキは何粒か貰って口に入れカリッと噛む。


 思いの外美味しいので驚いているとタケルが「ブルーベリー味だよ、美味しいでしょこれ、そこの薬局で買ったんだ」それを聞いてイツキは、これなら食べれそうだなと思い、買って帰ろうとタケルを連れて薬局『ヤマダタロウ』へ。


 ペコパ503が通りかかり、タケルにペコっとお辞儀をする、タケルはペコパにゴミを入れて微笑んだ。


 バイクをヤマダタロウの駐車場に停めて、ジュンとタケルを先頭に店の中へと入っていく。タケルが「あった、これこれ」とイツキにサプリを渡し、イツキはそれを2つ購入して店を出た。


 店を出ると、3人の不良がジュンのバイクを見て目を輝かせている。


 「復刻版ZⅡだ!渋いな!」「やっぱカッケーな」「でも純正だなこれ」とはしゃいでいる。


 ジュンが「俺の単車になんか用かよ」と言うと、不良達は咄嗟に振り向きながら「ああん!?」とガンを飛ばす。


 たちまち喧嘩となり不良共を返り討ちにして正座させるジュン、ボコボコになった不良共が「ま…まさか堕天使バアル・ゼブルの木島さんと進藤さんの単車だったとは知らず…すいません…」と怯えながら目を逸らす。


 ジュンは「もう良いよ別に、今度からガン飛ばすなよ?」と言ってバイクに跨る、不良達は「は、はい!…失礼します!」とホッとしてその場を走り去った。


 イツキはタケルにヘルメットを渡し「俺は歩いて帰るからタケル乗ってけよ」とサプリを2粒ほど口に入れてカリッと噛んだ。


 ジュンはタケルを乗せて「んじゃまたな」と言い、交差点を走り抜けた、イツキはMDウォークマンのイヤホンに付いているリモコンのスイッチを入れて「お気に入り・古今亭志ん朝・子別れ(下)」を聴きながら帰路に着く。


 昼間とは違い夜は涼しく、焼けたアスファルトが冷えて独特な香り、風が雑草を撫でてサラサラと心地よい音色を奏でる、電車のガタンゴトンという音と夜空の星々がゆらゆらと瞬いて宮沢賢治の銀河鉄道の夜を思い出す。


 イツキの家の前では女装家である叔父が家の前を心配そうにうろついている。


 【スナック勤務・進藤カオル38歳】

 イツキの父の弟。女装家。


 イツキは脱走癖のある飼い猫の『ドラパン』を探しているのだと考えた、耳からイヤホンを片方外してカオルに確認する。


「ただいま、また逃げたの?」


 カオルはとても心配そうにキョロキョロと辺りを見ながら「そうなのよ、いつもの事なんだけど…アタシ仕事行くから帰って来たらエサあげてちょうだいね?」と言い植木鉢を持ち上げて下を覗いた。


 ふとイツキは担任の先生がカオルの働くスナックに行くと言っていた事を思い出す「そういや松芝が今日店行くって行ってたぞ、オカマと二人暮らししている俺が食われやしないか心配してだそうだ」と笑って話す。


 カオルはハッとして、慌てた様子で家の方を向く「あらやだ、いっけな〜い、まっちゃんから借りたDVD返さなきゃ 教えてくれてありがとっ ん〜まっ」カオルはルンルンと家の中へ急いで入り、イツキは頬に口紅を付けて苦笑い、ふらふらと家に入った。


 カオルの作ったバターチキンカレーとナンを電子レンジで温めるイツキ。


 カオルの「行ってきま〜す」と言う明るい声に「はいはい、行ってらっしゃい」と返す。


 電子レンジの前で『子別れ』聴きながら、「うなぎでも食わねぇかって言ったら食うっつうもんだから…カカァには内緒だって言ったんだけども、子供ってのぁいけねぇや、すぐに喋っちまう、も〜本当に参っちまうよなぁ…いや…昨日そこで金坊に会ってね、うなぎでも食わねぇかって…おとっつぁんずっと同じ事言ってらぁ」などと口ずさみ「チンっ」という音でハッとする、MDウォークマンのスイッチを弄って落語を止めて食事を運ぶ。


 リビングでテレビを付けて、テーブルにバターチキンカレーとナン、そして牛乳を置いた。ソファーにゆったりと座り、子慣れたように片手でナンをちぎってカレーに浸す。


 そのバターチキンカレーとナンの旨味に思わず「うまっ」と静かに感想をこぼした。


 テレビではニュースが流れている、別に観はしないのだが無音よりは良い。


《変死体が発見されました、人気のない路地で男性の遺体が燃えており、胸には穴が空いているとのことです、警察では捜査を進め…》


 何度かチャンネルを変えるイツキ。


《銀によるアナフィラキシーショックですな、体温上昇による自然発火、心臓に直接銀を…》


《変死体はカナダでも発見され…》


 どこを変えても変死体のニュースで持ちきり、イツキは興味もないのに気にするハメになった。


「ふ~ん…変死体ねぇ、物騒な世の中だな」


 すると背後のキッチンからガシャン!カランカランと何かが落ちて転がる音がした、イツキはビクッとして振り返る。


「おいおい… 冗談なら笑えねえぞ…」


 イツキの手首が裂けて血を流し先割れスプーンが現れる、恐る恐るキッチンへ行き、灯りを点けるとそこには、緑色のリボンを首に着けた黒猫のドラパンが、落ちた鍋の近くで丸くなってこちらを見ていた。


 イツキは胸を撫で下ろしドラパンに忠告する「ふぅ〜、帰って来たらただいまくらい言えよ」とドラパンのエサを面倒くさそうに準備した。


読んで頂き感謝です( *・ω・)

そんなあなたの今日の運勢は小吉です( *・ω・)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ