1夜
西暦3025年春、千葉県銚子の灯台−−
ベンチに腰を掛け、復刻版MDウォークマンで落語を聴きながら夜空の星を眺め、物思いにふけっている純白の特攻服を着た少年。右腕の真紅の腕章に『堕天使』という文字が見える。
【高校2年生・進藤イツキ】
黒髪で目つきが悪い、背中には銀で縁取られた神々しくも美しい3枚の黒い左翼が刺繍されている。左腕には『暴食之悪魔』の刺繍。
突然イツキの頬に冷たい感触、イツキはビックリして「う〜わっ!」と声を挙げた、振り返るとそこにはイツキの幼馴染である少年ジュンが、赤い液体の入った透明なスパウトパウチを持って立って居た。
ジュンは悪びれる様子もなく「ブラピの新商品、マンゴー味だって」と言い、それをイツキに渡した。
【高校2年生・木島ジュン】
金髪で穏やかな表情、純白の特攻服ロングの背中には銀で縁取られた神々しくも美しい3枚の黒い右翼が刺繍されている。右腕には『魔界之君主』の刺繍。左腕には真紅の腕章に『堕天使』の文字。
そのスパウトパウチには『ブラッド・ピース』と書かれている、良く冷えたパウチが結露して中の赤い液体が揺れている。
イツキはそれを受け取りキャップを開けて飲んだ、ジュンに「牛乳が良かったなぁ…コレ、人工って噂だぞ」と言うと、ジュンは「マジで?俺そういうの気にしな〜い」と美味しそうに飲んだ。
「なあイツキ、それ何聞いてんの?」
「んん?志ん生の火焔太鼓」
2人が夜空の星を眺めていると、一筋の光が流れた、その光が消えると次々と流れ始め流星群となり夜空を賑わす。
イツキが「先週も見たな、流星群」と言うとジュンは「そだっけ?」と言いながらブラッドピースを握り潰し一気飲みする。
近くを通りかかったゴミ収集ロボットの『ペコパ503』がジュンを見つめている。
6本の車輪付きの足が関節をウィーンと伸ばして、円筒型のボディをペコッと傾け、上部にあるゴミの入り口をジュンに見せつけると、ジュンはブラッドピースのゴミをそこへ入れた。
ジュンが「したっけ行くか?」と言うとイツキがため息を吐いて立ち上がる、ベンチにはイツキが飲み残したブラピが置かれたまま寂しく星が瞬く。
ジュンが自慢のバイク、純正復刻版ZⅡ(750RS)に跨りイツキに半帽ヘルメットを投げ渡す。
イツキは取り損ねて、あたふたしながら慌ててキャッチ、2人は夜の街で風になる、イツキはバイクのケツで天を仰ぎ全身で風を感じる。
船が並ぶ港町、古い家屋が立ち並び、風力発電の風車が回る、田舎特有のノスタルジアな風景、風に揺られて山の木々が和音を奏で、古い街灯がリズムを刻む、田んぼのカエルが輪唱を始め、近所の飼い犬の遠吠えが盛り上げる。
春と夏の匂いが混ざり、透き通った青い香りが鼻腔をくすぐる、灯台の灯りがぐるりと微笑みながら指揮棒を振って、夜空の星々がスイングする。
しばらくすると銚子マリーナの広場に到着、9つのライトが2人を照らす、そこには不良9人が円になり、バイクのライトを当てていた その中で大きな旗がパタパタと1つ揺れている。
その旗には『大王怒』と書いてある。
イツキとジュンはバイクから降りてヘルメットを外し、バイクのハンドルに引っ掛けた。
2人が並ぶと、背中の左右の翼が合わさり、今にもバサバサと羽ばたいてしまいそうな、躍動感あふれる6枚の翼となった。
イツキが静かに「ん〜、ヴィヴァルディかな…」と言うとジュンは笑顔で「冬が良いな」と言う、イツキはイヤホンのコードに付いているリモコンを弄って曲を変えた、MDウォークマンが「カタカタ…ウィーン…」と静かに鳴る。
バイクのシートに小型のBluetoothスピーカーを置くと、静かに演奏が始まった。そしてそれは徐々に緊張感を生み出していく。
すると前の方から、逆光を背に浴びて大きな男がニヤつきながら歩いて来た。
【高校3年生・本郷マサミ】
身体と声がデカい、大王怒の頭でありイツキ達が通う学校の番長。
「逃げずに来たかあ!!蝿共お!!」と大きな声で言い放ち、イツキとジュンが両手で耳をふさぐ。
ジュンは苛立ちながら「うっせぇな!音量調節バグってんのか!気違が!」と吠える。
マサミの「果し状は届いたようだな!」という言葉にキレながら「果し状ならそれっぽい手紙よこせや!なんでマイメロの封筒なんだよ!」と返すジュン。
激しさを増す「冬」のメロディ。
ジュンとその男は激しく罵り合うが、大音量で流れるヴィヴァルディの「四季」より「冬」が、優雅に会話を邪魔をして聞こえない。
たちまちジュンとその男が殴り合いの喧嘩となった、男がジュンの腹に拳で重い一撃を放つがジュンは平気で笑っている。
今度はこちらの番だとジュンが拳で男の腹を殴った、拳がめり込み男が浮き上がって膝から崩れ落ちる。ジュンは仁王立ち、その男は小刻みに震えて蹲っている。
それを見た9人の不良共がジュンに向かって歩き出し、手を広げると手首が裂けて血が噴き出しウネウネと形を変えて銀色の『バット』となった、またある者は銀色の『木刀』、またある者は銀色の『鎖』となりジュンを囲った。
ジュンは手首が裂け、そこから血を噴き出し銀色の『メリケンサック』を2つ作り出した。その4つ穴の開いたメリケンを第二関節の位置で中指と薬指、小指と1つズラしてハメる。
イツキはため息を吐いて同じように手首から血を流し『先割れスプーン』を作り出した。少し貧血気味でフラついていたが、すぐに走り出し、不良共の持っている武器を外しまくる。
右手で先割れスプーンを握り込み、相手の手首に引っ掛け、左手で武器を持ち捻って外す。
優雅な「冬」のメロディに合わせイツキが流れるように滑らかに動き出す。
相手がバットを振りかざすと、スッと相手の懐に入り込み相手の腕を小脇に挟んで身体を回転させてバットを吹き飛ばす。
そこにチェーンが飛んで来て、イツキはそれを腕に絡ませる。相手のチェーンを掴んで大きく振って、チェーンの輪を作り、相手の首にチェーンを巻き付ける、それを上から波を起こして引っ張って転倒させだ。
向かってくる相手の木刀を屈んで躱し、相手の股に両腕を入れて抱え、持ち上げて地面に叩きつける。
ジュンはイツキが武装解除した不良共の首を、左拳の小指側からはみ出たメリケンで引っ掛け、右拳を浴びせる、相手の肘を狙ってメリケンの小指側で殴ってそれを破壊する。
まるで演奏をするように不良9人をバタバタと倒し撃退してみせた。
そしてウォークマンの曲を変えて落語の『猫の皿』を流す。
血液で作り出したそのメリケンと先割れスプーンをそこらにポイッと投げて、蹲った不良共を見下ろす。
ジュンが何か言っているようだ、イヤホンを外すと「警察が来っから帰っぺ」と言う、イツキは頷いてバイクのケツに乗る。
蹲る不良共を横目にエンジンを吹かす、イツキは「これで明日っから番長だな、ジュン」と言うと、ジュンは「ジャンケンで決めたんだから文句言うなよぉ?」と困り顔で笑って答えた。
イツキは、どちらが番長でも良かったのだが、ジュンがそんな事を気にしていたとは知らず、面白がって「ははっ ゆるさね〜」と言って背中を叩いた、そして2人は街へと向かって走り出す。
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