迎えに来ました。
「私は死神です。」
ランドセルを背負って、1人で学校からの帰り道を歩いていると、私の隣にはフードの付いたマントを羽織った、大きな鎌を持っている細身の男の人が立っていた。いや、浮いていた。
私の横を通る犬の散歩をしたおばさんはこの人?に気づいていないみたいで通り過ぎていく。こんな不審者が目の前にいるというのに…まぁ犬が吠えまくってて進めていないんだけど。
「迎えに来ました。」
急に死神が現れて死ぬなんて言われたらもっと驚いたりするのかと思っていたけれど、私はあんまり驚いていない。現実味が無さすぎるのかもしれない。
「そうなんだ、わかった。わざわざ死にたいとは思わないけど、生きていたいとも思わないし。もう死んでいるの?」
「いえ、、、次の交差点で死ぬ予定です。」
次の交差点は、家の2階のベランダから見えるぐらいに私の家と近いところにある。家に帰るあと少しで死ぬことになるのだ。このまま歩いていくと5分はかかるだろう。
「あなたにとって人生は楽しかったですか?」
死神って死ぬ前の人と会話なんてするんだ、素早く魂を刈り取るみたいなイメージを持っていたんだけど実際は違うみたいだ。普通こんな質問したら泣きわめく人もいるんじゃ無いだろうか、なんて考えながら答える。最後に誰かと会話というものをしてみたくなったのだ。私と死神さんが歩き始める。
「分かりません。小さい頃には楽しいなって感じることがあったのに、今は全然楽しいと感じることが無くなっていて。
でも、両親には恵まれていていい人生だったんだと思います。」
両親はとてもいい人たちだと思う。このまま私が死んでしまったら悲しんで泣いてしまうだろうなと簡単に想像出来る人達だ。だってこんな私を学校に行かせて部屋もご飯も与えてくれたんだもの。死ぬのは良いけれど、2人が悲しむのは嫌だ。
「何か後悔はありますか?」
「両親を悲しませてしまうことと、、、会いたい人がいるような気がしていて、それが気がかりです。」
「あなたは友達というものがいませんね。どう思っていますか?」
死神ってそんなこと知ってるんだ、と少し驚いたが納得する。彼は人では無いのだ。
それにしてもいちいち質問がカウンセリングみたい。
「話しかけても凄く怯えられるし、誰も私と会話をしてくれないの。無理に友達を作ろうとは思わなかったけれど、どうしたらいいのかわからなくて。」
それからしばらく死神は話しかけてこなかったし、私も話しかけようとはしなかった。
それでも、歩みは止めていないから交差点が近づいていく。
もう目の前に見えてきた
「私が死ぬ交差点ですね。このまま歩いていけばいいんですか?」
「あなたはここで命を落としてもいい思っていますね?」
質問に質問に返すなよ、と思ったがしっかり答えておく。
「はい。生きている理由がないですから。」
「わかりました。このまま歩いていけばいいですよ。」
死神の黄色い目が光ったように見えたが気にせず進んでいく。
次の瞬間、私すぐ横にはトラックが来ていて、私の意識は途切れた。
視界が明るくなる。ここは死んだ人の世界なのかもしれない。世界が黒と白でできていて、建物が建物がひっくり返っていたり、太陽と月が出ていたり、どこか世界が歪んでいる。
場所は変わったが、先ほどまでと同じように死神と歩いていく。すぐに橋が見えてきた。
「私はここを通るんですね。死神さん、ここまでありがとう。」
この世界に来てから私はこの橋を目指していたのだ。元から知っていたかのように目指すべき場所が頭の中に入っていたから。
「違いますよ。君の帰り道はこっちです。」
「でも私はここを渡らなければ行けない。どうしても会わなければいけない人がいた気がするの。ここを渡って生まれ変わってあの人に会いたい。」
彼は一瞬で私に近づき、
「あなたはきっと忘れてしまったのだろうけど、これから築いてゆけばいいのです。」
彼は怪しく黄色に光った瞳で見つめながら、私に唇を落とす。私は動かず、抵抗することなくそれを受けた。彼の瞳を見て思い出したのだ。私の会いたかった人はこの人だと。
「人間なんかに生まれてしまって、可哀想に。あなたの死神としての性質を抑えるのは辛かったでしょう。これからは私がずっと一緒にいますからね。」
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「迎えに来ましたよ、あなた」
愛しい人がそう声をかけてくる。口づけを交わしたあの日彼女はすべてを思い出し、私と共に暮らしている。自分の意思で死を選び、死神とキスをするとその人も死神へとなれるのだ。だが、死神になっても人を死に導くことしかできない。例えば、あの日彼女にしたように飲酒運転をするトラックを呼び寄せるとか。物理的に鎌で殺すことはできないのだ。
私と彼女は前世で夫婦だった。二人とも死神で、ともに多くの人を死に導いてきた。
死神は死ぬ予定の人を導くのではなく、ただ殺したいから殺し、その命を間引く。その行為が上の立場の奴らの役に立っているのだ。
しかし、彼女は当時間引きすぎて、上のやつらに罰せられたのだ。それで人間に生まれ変わった。
彼女は記憶は覚えていなくても、その性質はそのままなのだ。死神である彼女が人に生まれかわり、人に受け入れられず死ぬことが罰だと考えたのだとか。
私たちはただ本能のままに殺していただけだというのに奴らは妻を殺した。そんなことされて許すわけがない。
上のやつらを殺すためには時間がかかり10年も無駄にしてしまったがようやく彼女と私を邪魔する奴らはいなくなった。
2人の死神は家まで帰る。
「手を繋いで帰りましょう。」
彼女はそう言って血濡れた私にそっと手を差し出す。
2人の手は固く結ばれている。
死神の瞳は黄色く光っっていた。
初めて書いた作品です。
こういうのが書きたい!と思って設定を考えても思い通りに書くのは難しいものですね…
これからもっといろいろ書いていきたいと考えているので、また読んでくださると嬉しいです!
よろしくお願いいたします!