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52.銃使いの女


クロドと別れたミヤトは再び、魔物がいないかを建物の上を跳んで渡り見て回った。

すると、高架道路の下で二メートル越えの魔物と、緑髪のセミロングで軍服を身に纏った女性が対峙している現場が視界に入り、足を止めた。


女性は両足に携えているレッグホルスターから拳銃を二丁抜きとると、銃口を魔物へと向けた、と思えば拳銃を交互に発砲していく。

発砲時に発せられる重い音が、離れた場所にいるにも関わらずミヤトの耳をつんざくので咄嗟に手で覆う。


銃弾は魔物の身体には命中しているものの肉体はすぐに再生し、一瞬怯むだけに留まっている。

捉えた現実を受け入れた女性は忌々しく舌打ちをする。


「どうせなら銃で倒したかったけど、無理そうだねぇ」


独り言のように呟くと、彼女は銃をレッグホルスターに仕舞い、間を置かずに自由になった左掌をかざす。

指を閉じて握り込めると、何もないところから赤い魔力で覆われた剣を取り出した。

ミヤトは目を見張る。


「(魔具! この人魔法使いなのか!)」


魔物との戦闘で銃を使用したため、ただの軍の戦闘員だと思っていたのでミヤトは意表を突かれた。

女性は剣を構えると魔物を見据え、地面を蹴る。

間合いを詰めると魔物に反撃の隙を与えず、四肢を切り離す。


切られた箇所は重力に従っては、音を立てて地面へと落ちていく。

そして女性は、地面に転がった魔物の腹に留まっている蝶の周りを剣で慎重に斬り込みをいれる。

開いた傷口から魔物の心臓の核が姿をあらわし、それを視認した女性はかがんで、迷うことなく手で引き抜いた。

ミヤトは我に返ったように地面に飛び降り、女性に忠告する。


「壊さないと魔物が再生しますよ!」


ミヤトの言葉に女性は顔を上げる。

そして困ったようにため息をついた。


「まあ、そうなんだけどさぁ。魔物の核が欲しいっていう奇特な奴がいてねぇ。持ち帰らなきゃならないんだ。魔物の方は再生しないように見張ってるから、安心していいよ」


言いながら女性は、再生し始めた魔物の肉体を剣で裂いた。

ミヤトはその返しが受け入れがたく感じ、愚痴のような言葉をこぼす。


「なんのために魔物の核がほしいなんて言うんだ……」


女性はミヤトを怪訝な表情で見つめていたが、彼女の中で合点がいったのか明るく笑う。


「――ああ。知らないのかい? 六年前のあの日、魔物の肉体が残っていたことを」

「え?」


唐突な情報はミヤトの中の常識に引っ掛かりを残した。

魔物の肉体が残っていた?

そんなまさかと、ミヤトは半信半疑に思いながらも女性に言葉を返す。


「で、でも報道では、あの日の魔物は全部死んでいたって――」

「そう断言するってことは、証拠があったってことだろう? もし、核の破壊で魔物の肉体が消滅していたなら、証拠不十分で様々な憶測が飛び交っているはずだよ」


そうか、と。

違和感の正体は、魔物が死んでいるのならば肉体が残っているのはおかしいということだ。


核を破壊しないと魔物は倒せない。

倒すには核を破壊する。

そして核を破壊すれば肉体は消滅する。


その決まりごとが存在していない、事例があるというのか。

新たな情報にミヤトはそれが何を意味するのか思考している間にも、女性はべらべらと喋り続ける。


「まあ、肉体が残っていたって言っても、全て原形がないほどにバラバラだったようだけどねぇ。そして共通することはそれだけじゃなく、魔物の心臓となる核が一つ残らずなかった、ってのも不可解な点なんだよ」

「核がなくなる理由って――?」

「さあ? よく分からないが、魔法が使えない人の仕業じゃないかとも謂われているよ。核は魔法じゃなくちゃ壊せないからねぇ。だから、これを頼んだそいつはこれが欲しいってわけさ」

「……」


女性は手に握っている核を見せびらかすように掲げる。

そんな彼女に相槌を打つことなくミヤトは核を見つめる。


ミヤトは魔法使いであっても、壊せない属性があることを知っている。

しかし、それを口にすることなく無言を貫く。

そうしなければ、自分の中で疑惑が生まれそうであったからだ。


女性はトランシーバーを取り出すと誰かに連絡し、迎えの要求を頼むとトランシーバーを収納する。

そして黙ったままのミヤトを見ると、女性は急に思い出したかのように「ああ」と小さく声をあげる。


「そう言えば闇属性だけは壊せないんだったねぇ」


ミヤトは小さく息を呑む。

動揺を表に出さないよう努める。


そう。魔物と近い魔力を持つ闇属性だけは核を破壊することはできない。

そしてあの日、その闇属性を持つ者が居合わせているのをミヤトは知っている。

ミヤトは女性に何も返事をせずにいたが、彼女は気にすることなく話を続ける。


「まあ、そういうこともあって、その奇特な奴は核は魔法での破壊だけじゃなくて、何らかの形で、魔物を消滅させることなく殺すことができると考えているんだ。変わったやつだろう? 魔物の肉体なんて残ったところで処分が面倒なだけなのにねぇ」

「魔物の肉体を残して何か意味があるんでしょうか?」

「兵器の、銃の威力をあげることに役立つ」


女性は自信満々に言い切った。

その瞳は希望に満ち溢れ、輝いていた。


「今は一時的に足止めする程度の威力しかないが、研究が進めば魔物の肉体を破壊できるどころか、核だって壊せるかもしれないんだ。そうしたら、魔法を使えなず逃げ惑うしか出来なかった人たちも安心できるだろう?」


女性の説明に、ミヤトは目から鱗が落ちる。

先ほどクロドが言っていたこととは真逆の、人を傷つけることない守るための科学。

それこそが、真にあるべき姿だろうと、ミヤトは大きく頷いた。


「そうですね。助けを持つことしか出来ない人たちにとっては、少しでも抗うことができれば安心も出来るし、助かる人が増える」

「そうそう! 一部の人達は銃は怖いものだと言っているがそんなことはないんだよ! 寧ろ、撃った時に感じる痺れが堪らなく癖になる! まるで魔法のようなんだ!」


ミヤトが同意してくれたことに女性は気を良くしたのかハイテンションでまくし立てる。

女性はどうやら銃に心酔しているようだ。

しかし、魔力がない人々のための熱量なのだとも思うと好感をもてる。

恐らく、先ほどの魔力至上主義の話しの反動もあるのだろう。


「でも、お姉さんは魔法使いなのに、科学に対して好意的なんですね」

「――魔法じゃ出来ないことがあるからねぇ。私はこう見えて信心深いんだよ」

「魔法じゃ出来ないこと?」

「お! 迎えが来たね」


問いかけを遮るように、女性はミヤトの背後に意識が向いて大きく手を振っている。

ミヤトも振り返れば、軍の護送車がこちらに近づいてきていた。

車両はミヤトたちの傍で止まり、軍服を着た隊員が降りてくる。


女性は降りてきた隊員に核を見せては急かすように「早くこいつを届けないと私が徹夜続きになっちまうよ」と同情を誘う言い方をして訴えている。

どうやら彼女は研究の間、魔物の肉体再生を防ぐ役割も担っているらしい。


隊員たちが手際よく、車両の扉が付いた荷台に魔物の肉体を運び込むと女性も同じように乗り込もうとしたが、ミヤトのことを思い出したのか振り返る。


「それじゃあね、青年。魔物退治頑張りなよ!」

「あ、お姉さん名前……」

「私? ベルベニッチだよ! じゃあねぇー!」


女性は明るくミヤトに手を振ると、車両に乗り込んでいった。





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