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51.帝国


ミヤトは収まることのない怒りを抱えながらも、落ち着くために深呼吸してから理事長のクロドに問いかける。


「あの人たちが言ってたことって、どういう意味なんですか?」

「さあ? 私の口からは何とも言えないな」


クロドは躊躇うことなくさらりと答えるが、誤魔化している口ぶりであった。

しかし、ここで感情のままに問い詰めたとしても彼は答えてはくれないだろう。

ミヤトは静かに思考し、これまでで唯一知っている情報を口にする。


「緘口令、ですか?」

「……正解、とだけ答えておこうか。私は女王陛下に忠誠を誓っている身なのでね。君との関係値ならここまでが限度だ。すまないね」

「いえ、十分です。ありがとうございます」


ミヤトはそれさえ分かれば取り敢えず良いと思った。

気になりはするが、ミヤトの問いかけにクロドは立場上黙秘することも出来たというのに、譲歩してくれたその心意気が嬉かった。


新しい情報源をもとにミヤトは関連付けるように考える。

魔力至上主義者たちの信条に当て嵌めて考えれば、リアナ女王が魔力を持っていない、ということになるのだが、彼女が魔力持ちであることは成人の儀式の際に魔力を披露していて、その上テレビで流れていたので考えにくい。


ただ、ミヤトも魔力についてそこまで詳しくないので、魔力なしを隠す方法があるとすれば、その考えも覆ってしまう。

それに、もしもリアナ女王が魔力持ちでないならば、緘口令も納得のいく話ではある。


「(でも、魔力がなかっただけで大袈裟すぎるだろ……)」


神の子であるリアナ女王が魔力を持たずに生まれてきたとなれば、神から見放されたという考えになるかもしれないが、魔力持ち自体の数も少なくなってきている時代であるならば、それも仕方がないのではないか。


女王は三十歳になると自然と神の子を宿すとなっており、神様自体には会うことはないから、そういうことも起きると、融通を利かせてもいいと思うが――貴族は頭が固すぎる節がある。


頭が固すぎる、で脳裏によみがえってくるのは、先ほどの老齢の男性だ。

あの老齢の男性ならば、今回の魔物の再出現とリアナが女王に就任する時期が被っただけで、目くじらを立てるのは、少し会話を交わしただけでも想像がついた。


改めて、あの態度の悪さを思い出して、ミヤトは再び腹が立ってきた。


「それにしてもクラスメイトから聞いていましたが、魔力至上主義の人たちがあんなに酷いとは思いませんでしたよ。人をなんだと思ってるんだ……」


ミヤトがぼやくように言葉を吐けば、クロドは同意するように深いため息をついた。


「本当に。彼らには困ったものだ。神の考えを自分勝手に偏向して、それを真実だと疑いもしない。――帝国では魔王を崇拝する異教徒まで出来る始末だ。まったく、救いようがないとは思わんかね?」

「魔王を崇拝、ですか?」


耳を疑う言葉だったが、クロドは心底呆れている表情を浮かべているので冗談を言っているようには見えない。


帝国は科学の宝庫といわれており、魔力がない者たちが築いた国だ。

彼らは神と魔王の力を暗に否定し、人至上主義を掲げているので、ミヤトは首を傾げる。


「科学主義の人たちが魔王を崇拝することなんてあるんですか?」

「――帝国は国境に検問を敷き、首都となる街は鉄壁で囲まれ、閉鎖的であるがためにあまり知られていないが、最近は化学兵器を扱う軍事国家へと毛色が代わってきていてね。力こそが正義――と権力を振りかざしているんだよ。……まあ、簡単に言ってしまえば強者が弱者を虐げている、というところか。それこそ科学の力を使って、肉体的にも精神的にもね」


ミヤトは懐疑的に話を聴き入れる。

人が科学の力を使って人を傷つける姿がいまいちピンと来ない。

先程の魔力主義の彼らのような感じだろうか。

ミヤトが眉間に皺を寄せて想像を膨らませていれば、クロドは苦笑する。


「この国の日常とは、かけ離れているからね。容易に想像できないのも無理はない。――まったく。気持ちが悪い」

「え?」


嘲るように小さく吐き捨てられた悪態にミヤトは顔を上げる。

ミヤトに対して吐かれた気もするが、クロドの顔を見れば遠くを見ているようで、違う何かに対して言っているようにも見える。


訝し気に見ていれば、視線に気づいたのか「おや。すまない。今のは忘れてくれていい。ただの独り言だ」と肩を竦める。

普段優雅な振る舞いしか見たことがないので、悪態をつくこともあるのだな、と少し驚きながらもミヤトは「わかりました」と頷いた。


「――さてと。私は自分がした後始末をしなければならないな。助けたはずの人たちをこのまま地面に寝かせてしまっては、始末書の量が増えかねない」

「あ、やっぱり自分のせいだとは思ってるんですね……」


冗談っぽく言っているが、始末書を書くほどのことをしてしまったらしい。人助けをしたというのに、世知辛さにミヤトは苦笑いを浮かべた。

ミヤトは手伝いを申し出、二人で手分けをして気絶している人たちを近くの避難所へと運び、中の担当者に任せるとクロドと共に建物を後にする。


「何事もなくて本当に良かった……」


ミヤトは、ほっと安堵の息をこぼす。

前回は死亡者も出ていたので、それと比べれば今回は魔法使いの始動も速く、外出を自粛している人もいるので被害を抑えられているのではないだろうか。

ただの願望のような気もするが、ミヤトはそうであればいいと思った。


「ミヤトくん、君は人が死んだら何処に行くか知っているかな?」

「え? えっと……確か神様のもとに行くんですよね?」


急な問いかけに、ミヤトは咄嗟に常識的な回答をしたが、実際のところどうなのかは確かめようがないので、訊き返すような言い方になってしまう。

クロドは穏やかに頷く。


「そう。神は人を心から愛しているから誰であろうと受け入れる。――それじゃあ逆に、魔物はどこに行くと思う?」

「魔物ですか?」


考えたこともなかった。

神と同じところに行くとするなら、魔物によって命を落とした父親が報われないのでそれは違ってほしい。

それに魔物を倒したことで父親のもとに送られるなど、今後の討伐の際に複雑な気持ちに苛まれそうだ。

ミヤトが答えずにいれば、クロドが口を開く。


「冥府に行くんだ。悪さをしないように檻に収監し、鍵で施錠し、閉じ込める……」

「それなら安心ですね」

「だが、鍵があるなら解錠もできてしまう。そして今回その鍵は解錠され、再び魔物が解き放たれた。――鍵の番人も気が利かないとは思わないかい?」

「それって、魔王もですか?」

「ああ。寧ろ、そのための冥府だ」


クロドはそう言うと、指先を空中に泳がせるように動かした。

指先から魔力の黒い粒子が現れ、指の軌道を追うように現れてはその魔力を空気上に残していく。

複雑な線を描き、徐々に模様が出来ていき、クロドは指を止めた。


「これが鍵の番人が持っている鍵の形だ」

「あれ? その形……」


どこかで身に覚えのある形にミヤトは、首を傾げた。

しかし、どこだったか記憶を辿っても思い出せない。

頭を悩ますミヤトの様子にクロドは可笑しそうに笑みを浮かべる。


「どうやら、気づいてしまったようだね」

「え?」


クロドを見れば、意味深に笑みを浮かべている。

ミヤトが緊張の面持ちで黙ったまま見つめ返して言葉を待っていれば、クロドは勿体ぶるようにたっぷりの間を空けてから口を開いた。


「実はこれは……二年で必ずと言っていいほどテストに出題される模様だ。正確に描くことを求められるから今のうちに覚えておくことをお勧めしよう」

「ゔっ!」


茶目っ気たっぷりに言われた言葉に、テストのことなどすっかり忘れていたミヤトは現実に戻され呻いた。

クロドは悪戯が成功したことに対して上機嫌で笑うので、ミヤトは「(他人事だと思って……)」と心の中で呟き、恨めしそうにジト目を向ける。


そして気が済んだのか、「それでは私は他の見回りに行くとしよう。君は魔物がいないか街の警備にあたってくれ」と指示を出してミヤトに背を向ける。

ミヤトは元気よく返事し、駆けだそうとしたが、クロドが思い出したように「そうそう」と声をあげて振り返る。


「聞き忘れていたが――君はもしも、そんな鍵を管理できるとしたらどうする?」


ミヤトは駆け出しそうになった足を止める。

そして、考えて――導き出した答えに自分自身満足しながら口に出した。


「俺なら――一生出てこられないように見張っておきますね」

「ハッハッハ! ミヤトくんならそう答えると思ったよ。それじゃあ、私は失礼するよ」


クロドは満足そうに笑うと、前を向き再び歩き始めた。

ミヤトはそんな背中を見送りながら、彼に答えた言葉を自分の中で反芻する。

そう。もしもそんな鍵があるならば、だが。





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