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37.誕生日(中編)


その後あらゆる店を回り、なんやかんやあった四人はアクセサリーショップへと足を運んだ。

高価なものではなく、手頃な価格のものを取り扱っている店内は若い女性客で賑わっている。

入口前で立ち止まったミヤトは目だけで中を見回すと、合点がいった様子で小さくうなずいた。


「(やっぱ女の子に贈るならアクセサリーだよな……!)」


色々な店舗を見て回ったが、プレゼント候補として自分の中で最優先にあげていたアクセサリーが頭にちらつき、他のプレゼントを吟味するのもそこそことなっていた。

今まではそわそわとしつつも、それをおくびにも出さないように平静を装っていたが、ついに本命の店舗を前に、ミヤトは静かに意気込んだ。

その隣でラースが店舗の入り口上部に掲げられている看板を見上げつつ、独り言のように呟く。


「アクセサリーは贈り物として、よく難しい物だと取り上げられている。あまり高価な物だと重いと思われるらしいし、相手の趣味に合っていないと贈る側のセンスを問われる……難易度のSの代物だ、と雑誌に書かれていた」

「だ、そうだ。せいぜい頑張れよ、ミヤト」

「ど、どうして俺がアクセサリーを選ぶってわかったんだ……?」


明らかにミヤトに向けられているラースとヴィンセントの言葉にどぎまぎとしながら問う。

ヴィンセントはへっ、と呆れたように笑ってから返事を返した。


「何を見ても上の空だったのに、ここについた途端、目の色が変われば誰でも気が付く」

「ぐ……」

「あら。ミヤトくんはアクセサリーを贈るつもりだったの? それなら早く言ってくれればよかったのに」


誰でもと指摘されたが、どうやらアサカは気が付いていなかったらしい。

ミヤトは心の中を曝け出したようで気恥ずかしかったが、取り繕っても意味はないので、口を噤みながら無言でコクコクと頷いて気持ちを表明した。


店内には女性客が多かったため、邪魔にならないように周りに気を配るつもりであったが、ヴィンセントとラースのただらない気高さに自然と女性たちが身を引いていくため、とても回りやすくなった。

軽い営業妨害となりそうだが、店員さえも彼らに見惚れているため迷惑ではないようだ。

とはいえ、出来るだけ早く選んだ方がよさそうだとミヤトは商品を次から次へと眺めていく。


どのアクセサリーを選ぶかは自分の中で既に決まっており、白いレースのテーブルクロスが敷かれている机に木箱で展示されているバレッタをまじまじと見つめる。

遊園地に行ったときにユイカは髪を結ってバレッタで留めていたので、もしかしたら使ってくれるだろうという考えに至り、バレッタを最優先候補にしていたのだ。

それとは別に――


「(次デートするときは、これつけてきてくれたら嬉しいなー……なんて)」


という下心があったりもする。

ミヤトはその場面を想像して自ずと口元が緩む。

しかし、はっとして首を横に振った。

慎重に、しかし迅速に決めなければと再びバレッタと向き合う。

順番に眺めていれば、葉っぱのついた赤いリンゴのバレッタが目についた。


リンゴは平らで樹脂加工されているのか艶があり、それを抱えるように両隣に小さなリスの飾りが施されている。

ミヤトはそれをしばし見つめてから、うんと頷いた。


モチーフがユイカの好きな食べ物ということもあり、気に入るのではないかとの考えに至って、ミヤトはそのバレッタをプレゼントとして購入することに決めた。


レジに向かう途中に、アサカが視界に入り足を止める。

彼女は机に並べられている商品を腰を屈ませて魅入ったように見つめている。

視線の先を追えば、丸っこいクマが赤いハートの石を抱き込んでいるキーホルダーがあった。

よくよく見ればハートの形はユイカの魔具の装飾によく似ている。


「ユイカの魔具の装飾に似てるな」


そう声を掛けるとアサカはゆっくりとミヤトに顔を向けた後、ふと笑いながら再び顔をキーホルダーへと戻す。


「そうね。とっても可愛いわよね」

「ユイカにプレゼントするのか?」

「――いいえ。ただ見ていただけなの。それに、私からは贈らないつもりよ」

「贈らないって……ユイカが一番プレゼントを貰いたい相手はアサカだろ」


そんなことアサカのほうが理解しているだろうとミヤトは暗に窘める。

色んな店を回ったが、確かにアサカは積極的にプレゼントを選ぼうとせず、ただただミヤトたちの様子を眺めているだけであった。

既にプレゼントを用意しているだけだと思っていたが、その理由が贈らないからだとは。

アサカはキーホルダーから目を離さずに、穏やかに笑みを浮かべている。


「……ミヤトくんたちからのプレゼントが、私からユイカへのプレゼントなのよ」

「それは随分と他力本願なプレゼントだな」


アサカの冗談にミヤトは苦笑する。

彼女は特に反論しない。

本当にそれがプレゼントだと思っているのだろう。


「私はね、皆がユイカのために一所懸命考えてくれているのが嬉しいの。その気持ちがあの子にも伝わってくれればいいと思っているわ」


言葉を発したアサカの声は軽やかに弾んでいて、温かな感情が心にふわりと伝わってくるようだった。

そんな思いを聞いてしまっては、それ以上何かを言うのは野暮だと察したミヤトは口を噤んだ。

アサカは体勢を正すとミヤトへと向き合った。


「で、ミヤトくんはユイカへのプレゼント、決めてくれたの?」

「ああ。これを買おうと思って」

「すごく可愛いわね。ユイカ、喜んでくれるといいわね」

「そうだといいんだけどな。じゃあ、買ってくるよ」

「ええ」


ミヤトは再びレジに向かうためにアサカの横を通り過ぎる。

しかし、数歩過ぎたところで、ふと浮かんだ疑問を口にする。


「そういえば、アサカの誕生日はいつなんだ?」


言って振り返ると、アサカが驚いた表情で瞠目していた。

ミヤトは何かまずいことを聞いてしまったのかと内心焦る。

そんなミヤトを余所に、アサカは茫然とした態度のままポツリと言葉をこぼした。


「大変……」

「な、何が大変なんだ?」

「入口の方」

「へ?」


アサカの視線はミヤトではなく、その背後にと注がれていることに気づきぱっと振り返る。

出入り口の方を見れば、ヴィンセントとラースを遠目から見ていた客の異変に気がついたであろう、通りかかった客が有名人でも来ているのかと集まり始めた結果、人だかりができていた。

事態の緊急性にミヤトも口が引きつる。


「確かに……これはまずい……!」


慌ててレジに向かい会計を済ますと、アサカに声をかけ、ラースとヴィンセントを探し出し、二人の腕を鷲掴むと入り口の人混みを掻き分け、店から逃げるように退店した。


店から離れた場所までくるとミヤトは二人の腕を離しほっと息をつく。

何かを察したのか、ラースが曇り顔でミヤトに頭を下げる。


「すまないミヤトくん。俺のせいでゆっくり選べなかったんじゃないのか? ――気をつけていたつもりだったのだが……何か不快感を与えてしまったらしい」


ラースは恐らく女性が避けている理由を違う意味で捉えているのだろう。

ミヤトは「ちゃんと選べたし、ラースのせいでもないからな」とフォローした。


逆にヴィンセントは異変に気づいていないのか、それとも気にもとめていないのか涼し気な表情でミヤトを見ている。

人の気も知らないで、とミヤトは咎める瞳をヴィンセントに向けるが、彼が手のひらサイズのラッピングされた袋を手にしていることに気づいた。

視線に気づいたヴィンセントは、袋を自身の顔の横まで掲げて意地悪く鼻で笑う。


「フッ。あまり期待せずにいたのだが、まさかあんなところであいつの趣味にピッタリな産物を見つけることができるとはな。あのアホの喜ぶ姿が目に浮かぶようだ」


そう言ってやれやれと肩を竦ませる。

相当自信があるようで鼻を高くしている様がひしひしと伝わってくる。

一抹の不安が過ったミヤトは、ないとは思うが無意識にそれを吐露する。


「ま、まさか俺と被ってんじゃないだろうな……」

「被っていたとしたらミヤト、貴様が諦めろ。僕はこれ以上自分の貴重な時間をあのアホのために費やしたくない」

「そこは俺に譲ってやるのが男の友情ってもんだろ!」

「誰が貴様と友人だ! 勝手に友達認定するな!」

「男の友情……ミヤトくん、俺は譲るよ」

「ほら、ラースもこう言っている」

「だからなんだ!? 僕には関係ない!」


騒がしい男同士のやりとりを横目にアサカはクスリと笑った。



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