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33.遊園地に行こう! 3


射的屋を後にして園内を歩いていれば、ビラ配りのスタッフと遭遇し、ミヤトたちは自ずとそれを受け取った。

ユイカはビラに目を通すと、嬉しそうに声を上げた。


「ミヤトくん! ヒーローショーだって!」


ユイカに言われ、ミヤトもビラに目を向ける。

この遊園地のオリジナルのヒーローショーのようで、開演時間は今から十分後と記載されている。


ユイカが催しに対し興味津々ということもあったが、先ほどヴィンセントから受けたストレスの気分転換になるだろうとの思いもあり、ミヤトは大きく頷いた。


「よし! 行ってみるか!」

「うん!」


二人はパンフレットを頼りに会場へと向かった。


会場は屋外にあり、舞台ステージを観客席のスタンドが半円形状に囲んでいて、席は三分の一ほどが埋まっている。

ミヤトたちは中央の後方席へと腰を掛けた。


開演時間になると、舞台袖からイベント用の帽子とジャケットを身に着け、短パンと黒タイツを履いている眼鏡を掛けた女性が、舞台の中央へと出てきた。

胸が大きいのが印象的だ。


『皆様、御来場頂き、まことにありがとうございます! さて、今回は1日限りの一風変わったヒーロー体験が出来る場となっております! そう! ヒーローは客席の皆様なのです!』


説明を聴けば、ステージ場にあがり自分がヒーローのように悪役たちを倒すという子供が喜びそうな催しをするそうだ。


『それでは、ヒーローになりたい! という人はお姉さんに向かって大きく手を挙げてくださーい!』


その合図を皮切りに、前方席にいる子供たちが奮って手を挙げる。

ユイカが瞳を輝かせながらミヤトの方を向いた。


「私も手を挙げたら選ばれるかな!?」

「うーん。ちびっこ達が主体のイベントのような気もするけど、全員参加型みたいだから選ばれるかもしれないな」

「よし! 挙げてみよう!」


ユイカはステージに顔を向け直すと背筋を伸ばし大きく手を挙げていた。

しかし、選ばれたのは前列席の子供であった。

残念そうに肩を落とすユイカにミヤトは苦笑する。


「まあ、まだ何回かするみたいだし、諦めずに挙げ続けよう。こういうのは熱意をアピールするんだ……!」

「――そうだよね! よし! 次こそは!」


ユイカは両手で拳を作り、意気込んだ。

選ばれた子どものヒーロー役が終わり、再び選考タイムが訪れ、ユイカを含めた子供たちが手を挙げ始める。

ユイカが選ばれることなく、時間は経過していき、いよいよ終わりの時間が近づいた。


『それでは最後のヒーローは……そこの彼女連れのお兄さん! 壇上にお上がりくださーい!』


何故か手を挙げていなかったミヤトが選ばれた。


「わー! ミヤトくん良かったね!」

「あ、いや。でも……俺、手を挙げてないんだけどな……」


ユイカと間違ったのかとステージ場の進行役の女性を見るが、明らかにミヤトを見て手招きしている。

ゴネて進行の妨げになるわけにもいかず、仕方なしにミヤトは壇上へと上がった。


進行役の女性の隣に行き着くとその顔を見て、ミヤトはぎょっとする。

黒縁の眼鏡をかけて帽子の中に収まっているピンク髪、近づいてシャーネだということに気づいた。


ミヤトが言葉を失っていれば、シャーネはマイクの電源をオフにし、ミヤトの抱えているであろう疑問にほくそ笑みながら答える。


「実はこの遊園地うちの傘下なのよね。で、口利きしてもらって、特別に1日限りのアルバイトとして雇ってもらってるのよ」

「こ、コネバイト……。まさか、ヴィンセントがいたのも……?」

「あいつだけじゃなくて、いつものメンバーも一緒に来てるわよ」

「いつものメンバーって……」


つまり、シャーネとヴィンセントの他にエリア、アサカ、ラースがこの遊園地の何処かにいるということになる。

電車内でユイカが言っていた、アサカが先に出かけた理由はこのことだったのかと、合点がいく。

が、その行動の真意がわからない。

ミヤトは声を潜め問いかける。


「どうして皆で来たんだよ?」

「あんたが不安がってたから皆で様子を見に来たのよ! デートを成功させる協力がしたい、ってね!」

「え!?」


明らかにヴィンセントのあれは協力がしたいという想いからではなかったような気がするが、ミヤトが気に病んでいたことを皆が心配してくれたという事実に心が少し温かくなる。


――しかし、シャーネが協力してくれるというのなら、なぜミヤトがここに立つ必要があるのか。

再び疑問が浮かび上がる。


「それならユイカの方をヒーロー役に指名するべきじゃないのか? どうして俺を選んだんだ?」

「何言ってるのよ! カッコいいところ見せるチャンスじゃない!」

「か、カッコいいところ?」

「そう!」


シャーネがウインクを飛ばす。

確かに。

ミヤトの心境としては少しくらい自分の良いところをユイカに見せたいが、そのカッコいい姿というのがヒーロー役というのは些か恥ずかしい。

しかも確定されている勝利というのが、逆に情けないような気もする。


「いくらユイカがこういうの好きだからって、ヤラセで俺のことカッコいいとは、思ってくれないんじゃないか?」

「そこは安心なさい。ヤラセじゃなくて本気で襲いかかる手筈だから!」

「……え?」

『それではー! 悪役たちの登場でーす!』


ぽかんとしたミヤトを置いて、シャーネはマイクの電源をオンにして元気よく観客席に向かって叫ぶ。

すると先ほどヒーロー役の子どもが相手していた細い靭やかな体格の悪役とは違った、筋肉隆々な悪役が三人舞台袖から登場する。

ミヤトは彼らを目にした途端、顔を引きつらせる。

シャーネがミヤトに囁く。


「言っとくけど彼ら、そこそこ体術出来るから、油断してるとユイカの前で恥かくわよ」

「……一応確認なんだけど……本当に、邪魔しに来たわけじゃないんだよな?」

「当然じゃない。ほら、頑張って成功させなさいよ」


背中をとんと押され、ミヤトは悪役の前に数歩進み出る。

悪役三人が身にまとっている全身黒タイツから浮き出る屈強な肉体に、ミヤトは流石に二の足を踏む。


体術は放課後の特訓時にシャーネに鍛えられていたが、急な実戦となると正直不安がつきまとう。

しかも、明らかにミヤトとは1.5倍ほど体格差が違う。


「(って、考えてもやるしかないんだもんな……)」


ミヤトは客席にいるユイカをちらりと見る。

右手の拳を上げ下げし、口元に左手をそえて何かを叫んでいる。

ミヤトを応援してくれているのだろう。


今まで出ていたちびっこ達は簡単に悪役を倒していたため、自分だけが手こずっていたらカッコ悪いと思われかねない。


深呼吸し、体勢を整え悪役たちを見据える。

相手はミヤトが準備できたことを確認すると飛び掛かるように駆けだした。

ミヤトは落ち着きを払って、相手の動きを見る。


振りかぶって伸びてきた拳の先、手首を掴むと相手の勢いを利用してミヤトの背後へと引っ張った。

悪役はそれでミヤトの後ろへと倒れ込んだ。

ただのショーであるなら追撃はいらない。


他の悪役達も攻撃をいなすだけに留まり、なんとか怪我を負うことなくミヤトはやりきった。

ミヤトが安堵して一息吐くと、会場から拍手があがる。 

ユイカを見ればニコニコ笑いながら同じく拍手していて、ミヤトははにかんだ。


「――ぬるいわね」

「へ?」


ミヤトの間の抜けた声を無視し、シャーネはマイクの電源をオンにして観客席に体を向ける。


「フッフッフ! まさかここまでやれるとは……驚きだわ。――実は! 進行役のお姉さんとは仮の姿! 私こそ彼ら悪役達を束ねている悪の親玉、茨の女王よ!」


シャーネは声を会場中に響き渡らせながら懐から出した目元を隠す仮面を装着する。

ここに来て会場の盛り上がりが最高潮となる。

なんならユイカも瞳を輝かせて、意外な展開に興奮している。


ミヤトだけがついていけなかったが、何故か嫌な予感がしてならない。

今すぐにステージを降りなければならないと脳が警鐘している。

忍び足でミヤトが逃げようとすればシャーネがすかさず「どこに行く気?」と声を掛ける。

ぎくりと肩が跳ね、足が自ずと止まる。


「愛を得たいのなら闘いなさい。カッコいいところ、見せたいんでしょう?」

「いや、趣旨! 趣旨が変わってくる! 絶対手加減してくれないだろ!?」

「当然じゃない。恋は障害があったほうが燃え上がるのよ」

「まだ恋は一方通行なんですが!?」


目の前で体をほぐし始め、やる気満々なシャーネに、ミヤトは実技練習のときの彼女の容赦ない手ほどきがフラッシュバックする。

及び腰になりながら徐々に後退する。


「ってことで、ミヤト覚悟ー!」

「待て待て待て! 今、ミヤト! ミヤトって言ってるぞー!」

「問答無用ー!」


襲いかかってくるシャーネにミヤトは目を白黒させながら、無我夢中で対応する。

会場から歓声が上がったのは、微かに耳に届いていた。







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