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12.デザイン


それからミヤトたちは自分たちの席へと戻る。

皆がそれぞれの時間を過ごしている間、ユイカは一心不乱に机に向かい、紙にペンを走らせる。

しばらくすると書き終えたのかペンを置く。

紙を両手に取り、顔の前に掲げ全体に目を通すと「できた」と小さく嬉しそうに呟いた。


「ねえねえ、見てみてアサカちゃん! 今の私が考えた魔具だよ!」


ユイカが差し出した紙をアサカは受け取る。

紙に描かれたものに目を通すとアサカの口元がふっと綻んだ。


「あら。ユイカの好きなものばかりでいいわね」


アサカが、紙を返すとユイカははにかんだ。


「えへへ〜。でしょ〜? 上手く描けたから部屋に飾ろうかなぁ」


ユイカの頬がピンク色に染まり表情が喜びでとろけている。

一連のやりとりを前の席のシャーネは聞き耳を立てていた。

振り返りユイカに声をかける。


「どんなデザインになったのか、あたしにも見せてごらんなさい」

「シャーネちゃん! ……えー、なんだか緊張するなぁ」


と言っている割には見てもらいたいのか、へへへとユイカが照れくさそうに笑う。


「シャーネちゃんからインスピレーションを受けたからちょっと似てるところがあるかもしれないけど」


シャーネは感心したように「へぇ」と発し、まんざらではない表情を浮かべる。


「いい心がけじゃない。センスのある者は真似されるのが世の理。そう畏まることはないのよ」


シャーネは言いながらユイカの差し出された紙を手に取り、目を落とす。

瞬間、顔面が歪みわなわなと体が震えだす。「こ……」と小さく発言し、ユイカが聞き返す。


「こ?」

「これのどこが、私からの影響だって言うのよー!?」


シャーネは叫ぶと立ち上がりユイカの胸ぐらをつかんで高速で揺らす。

ユイカの体は抵抗することなく前後へと揺れている。

シャーネの怒声で異変に気づいたミヤトはぎょっとして慌てて二人の間に割って入る。


「どうしたんだシャーネ!?」

「どうしたもこうしたもないわよ! 見なさいよこれを!」


ユイカから手を離すとシャーネは怒りが収まらぬ形相で、ミヤトに紙を突き出した。

ミヤトは不思議に思いながらもそれを手に取り、その内容に目を――見張った。


「こ、これは」


全体的に黒くおどろおどろしい用紙であった。

剣?をモチーフに、切っ先にはドラゴンのような禍々しい顔がついており、刀身には管のようなものが螺旋状に巻きつき所々から蛇の頭のようなものが口を開けて突き出ている。

周りには汚い字で何かを沢山書き記されているが、ミヤトはデザインの方に意識がいき、呆気にとられた。

そんなミヤトを目にしたシャーネが口を曲げフンッと鼻を鳴らす。


「それが私から受けたインスピレーションって言うのよ、その子」


そりゃあ怒る、とミヤトはシャーネに同情する。


「どうかなミヤトくん!?」


というのに、ユイカは感想を聞きたそうにしている。

シャーネに今しがた胸ぐらを掴まれた意味を分かっていない。

ミヤトは言うべきか言わないべきか迷い、嘘を吐くのはユイカのためにならないよなぁと正直な思いを口にする。


「すまん。さすがにこれはないと思う」

「え!?」


ガーンとショックを受けるユイカ。

その横でシャーネが「当然よ」と頷く。

ユイカはミヤトから返された紙を両手で受け取ると落ち込み「やっぱり幼いのかなぁ」と呟く。


「ユイカ」

「アサカちゃん……」


優しい声音で声をかけられ、ユイカは隣のアサカに顔を向ける。


「たった二人に感想を聞いただけじゃない。もしかしたら、他の人はそうじゃないかもしれないわよ?」

「……」

「諦めちゃう?」

「……うん。そうだよね。ここで諦めたらそれでおしまいだもんね」

「それでこそユイカよ」


アサカがユイカに微笑む。

二人の感動的な雰囲気に、シャーネとミヤトは口を挟めはしなかったが『余計傷口が広くなるだけでは?』と心の中でツッコミを入れる。

そうと決まればユイカは最初に目についた赤髪の女子生徒、エリアへと紙を持って進んでいく。


「エリアちゃん」

「ん? どうした?」

「魔具を考えたんだけど、ちょっと感想を聞かせてほしいなって。いいかな?」


後ろ手に体をもじもじしているユイカに、エリアは距離を感じさせない穏やかな笑みを浮かべて頷いた。


「もちろん。どんなデザインか楽しみだ」


ユイカがぱあっと顔を明るくしてデザイン画を差し出す。

微笑みをたたえたままエリアは紙を受け取る。


「これは……」


エリアは目を瞠目すると言葉を失い……何も応えなかった。

ユイカはそれでも返事を待っていた。

絵画のように動かない二人に時だけが過ぎる。

ユイカの肩に後ろからポンッと手が置かれる。

振り返れば見兼ねたアサカが、ユイカを気遣うように優しい目を向けていた。


「何も言えない。それがエリアの返事なのよ」


ユイカは悲痛な瞳を浮かべ、エリアを見る。

エリアはユイカと目が合うと瞳を閉じて、苦痛に耐えるように「クッ」と喉を鳴らした。


「本当に……すまない」


それが彼女の返事だった。

ユイカは肩を落とすと、とぼとぼとエリアから離れる。

エリアが目を開けると視界に入ったのは悲壮感を漂わせながら去っていくユイカの後ろ姿。

引き留めることすら、エリアには出来なかった。


「申し訳ないことをしただろうか……」

「いいのよ。あの子も誰しもが違う感性を持っていることに気づくことができたはずよ」

「なんか良いこと言ってるみたいだけど、最初からあれが一般的な感性じゃないってちゃんと教えてあげなさいよ」


エリアを慰めるアサカにシャーネが呆れながら咎めた。しかし返事はない。

エリアのもとを去ったユイカは気持ちを切り替える。

まだ三人にしか聞いていないと、希望はまだあると突き進む。

次のターゲットへと狙いを定め徐々に近づく。

金髪の男子ヴィンセントへと声をかける。


「ヴィンセントくん、私が考えた魔具なんだけどどう思う?」


ヴィンセントは面倒くさそうにため息を吐きながら、差し出された紙を受け取ると目を通す。

一瞬で投げ捨てられるかと思えば、彼は隅々まで見ているようだった。

しかし、徐々に眉間に皺が刻まれ始める。


「なんだこの……いかにも頭が悪そうな設定は……」


ヴィンセントが苦々しく呟く。

頭痛でも患っているかのようだ。

彼が時間を要したのは字が汚く、読むのに手間取っていただけだったが、ユイカはそれをヴィンセントが興味があるんだと前向きに捉えた。

人差し指を立てて得意げに語りだす。


「えっとね〜、ヘビの口からは毒臭と毒液を撒き散らすことができて、当たった魔物は絶命するの。それからドラゴンの口からは火と水と雷と土と風が一気に噴き出し、当たったものはやっぱり絶命するの。そして刀にも秘密があって合言葉を唱えるとーー」

「頭の悪さが移る。あっちにいけ」


ヴィンセントは無慈悲に紙をぽいっと投げ放つ。

ユイカはガーンとショックを受けるも、ひらひらと舞う紙をパシッと拾い上げた。

それでもめげないユイカはクラスメイト全員に見せることを決意した。

絶対に、理解者はいると信じて疑わなかった。


「ちょっと、私の好みじゃないかな……」

「ユイカさんにこんな一面があったなんて驚いたよ」

「……ノーコメントで」

「俺、もうそういうの卒業したから」


撃沈である。

肩を落としながら最後に声をかけてない青髪の美青年、ラースに目を向ける。

彼は本を読んでいるが、気にせずユイカは駆け寄る。

ユイカはラースの目の前に立つと紙を彼の目の前に提示し、核心に迫る質問をする。


「ラースくんはいいと思うよね!?」


不意に話を振られたラースは、涼し気な表情を崩すことなく、読んでいた本から顔をあげる。

手に持っていた本を静かに机の上に置くと、腕を組みユイカから顔をそらして口を開く。


「ああ」

「やっぱりそうだよね! よかった〜!」

「違うぞユイカ! そいつは『ああ』しか言えない可哀想な奴なんだ! しかもそいつ描いた内容すらも見てもないぞ!」


安堵で胸を撫で下ろしているユイカに、ミヤトはラースの好感度が上がってしまうのを阻止するために間髪入れずに反論する。

いつの間にか隣にいたアサカが困惑顔でミヤトを諭す。


「もう、ミヤトくんったら。そんなことあるわけないでしょう。ね、ラースくん」

「ああ」

「……アサカ、わざとやってるだろ?」


ほらね、と顔を向けるアサカにミヤトは嫌疑の目を向ける。

ラースは明後日の方向を見続けている。

アサカは頬に手を当てると芝居のかかった声音で不思議そうに首を傾ける。


「なんのことかしら……ね、ラースくん」

「ああ」

「それまったく何の返答にも……あれ? なってるのか?」


ミヤトがからかわれているのか、はたまたラースがからかわれているのか。

翻弄され始めた。

ミヤトはヴィンセントの気持ちが分かった気がした。

そんな三人を余所にユイカは「やっぱり部屋に飾ろ~」と浮き浮きしながら机へと戻っていた。

教卓の椅子に座りクラス全体を眺めていた教師はそっと呟く。


「今年のクラスは仲がいいわね〜」


彼女は和やかに水筒のコップのお茶を啜った。



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