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第一章 真由の妊娠(7)

病院へ行く間、そして待合室で待つ間も。


総一は自分の過去を振り返っていた。




彼自身、本当の父親も母親も知らない。





総一の育ての父、門真 満(かどま みつる)が総一の母親、貴美恵きみえと出会ったのは24歳の時。


働いていた自動車やバイクの部品メーカーから独立をして新しく自分の会社を作った。


大学で学んだこと、働いた会社で培われたノウハウを生かして作った会社にはよい製品がたくさんあって、あちこちから仕事が舞い込んで順風満帆だった。


そんな時、偶然街で出会った幼馴染の貴美恵。

貴美恵は酷くやつれていて、満は放っておけなかった。


自分が住むマンションに連れ帰り、事情を聞くと


「男に捨てられた」


お腹にはその男の子供がいて、貴美恵は悩んでいた。


堕胎すべきか。


満はせっかくこの世に生まれてくるであろう子供を中絶するなんて、考えただけで身震いした。「俺、今誰とも付き合っていない。

もし、貴美恵さえ良ければ、結婚しないか?」


お腹の子供の事を考えた結果。


そう言っていた。


貴美恵もすぐに頷いた。


プライドの高い女だが、やはり捨てられた事に傷ついていたのだろう。


満の誘いに乗って。


一緒になる事に決めた。





最初は幸せな新婚生活だった。


風俗からすっかり足を洗った貴美恵はしっかりとした奥さんだったし。


みんなから満は羨ましがられていた。




やがて、男の子が生まれる。


それが総一だった。


総一は可愛い赤ちゃんとして近所では評判。


将来、どれほど美形になるだろう、と言われていた。




そんな可愛い総一を。


そして助けてくれた満を。


貴美恵はあっさりと捨てた。


しかも、男を作って出ていった。


総一はまだ、3歳にもなっていない。




満は残された総一に不憫な思いをさせまいと仕事に家事に必死になる。


毎日遅い帰りの満。


でも、総一には不満がなかった。


保育園に預けられても。


寂しいとは思わなかった。


4歳になると満からポケバイを与えられた総一はそれに夢中になる。


サーキットへ行けば、友達がいる。


一番仲が良かったのは池田 隆道(いけだ たかみち)、同い年でこの2人はレースでは上位になることが多かった。




でも、そんな生活も長くは続かなかった。


満が得意先から紹介された女性と再婚することになった。


その時、総一は小学3年生。


新しいお母さんだよ、と紹介された母は。


総一を見て冷たく笑った。




新しい母はすでに妊娠していて、もうすぐお兄ちゃんになると総一は言われていた。


『お兄ちゃん』


違和感があった。


何をしても新しい母に怒られた。


満と二人で暮らしていたときは掃除にしても料理にしても何にしても手伝うと褒めてくれた。


けれど、母は。


怒り狂って総一を殴った。


お母さんと呼ぶと


『お母さんと呼ばないで!!』


と叫ばれた。


腹違いの妹が生まれても一切触らせてくれなかった。


満もうすうす気付き始めるけど、新しい妻は注意を言わせる隙を見せなかった。





決定的な出来事が起こったのは小学4年生の時。


深夜、言い争う声が聞こえた。


総一は階段の所からリビングの様子を伺っていた。


「あなたの子供じゃないなら、お金のかかる事なんてしなくてもいいじゃない!」


あの女の声が総一の胸深く突き刺さる。


「血は繋がっていなくても、俺の子供には違いない!」


ああ…


総一は震える体を抑えようとした。


自分の父親だと思っていた人が、父親ではない…


「あの子にはもう、バイクを乗せないで。

そんなお金があるなら、私とあなたの娘にお金を使ってちょうだい」


「何だって?」


満の声が大きくなる。


もう…


もういいよ、父さん!!


「じゃあ、バイクに乗るのを辞める」


気がつけばリビングのドアを開けていた。


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