第九章 突然の…(7)
「真由、朝はごめん」
「私こそ、ごめん」
夕食はチームのメンバー+真由達3人で近くのお店で食事をすると更に賢司達の計らいで総一と真由はこの夜、一緒に過ごす事になった。
同室だったはずの至は祥太郎と共に大輝・かれんカップルの相手をするらしい。
ありがたい話だ、と総一は思う。
「急に会いたくなっちゃった」
真由は照れながら言う。
でもその目には…涙。
「…ダメだよね、私。
そーちゃん、仕事やレースで忙しいのに…どうしても会いたいって思う。
そーちゃんのお嫁さん失格だ」
そんな事を言われると。
我慢出来ない。
総一は真由を抱き寄せ、そしてそのままキスをする。
優しいキスが真由を包み込む。
「…臨月じゃなければ、押し倒してるよ」
唇を離した総一が真由の耳元で囁く。
「…それももう後少しだよ」
真由はそう言って少し上目使いで総一を見つめる。
しばらく、こんな風に見つめ合っていない。
お腹が大きくなるにつれてスキンシップも少なくなり、また総一自身、仕事とレースの両立で精一杯だった。
真由とは会話こそするものの。
二人でゆっくりと過ごす事がなかった。
「そーちゃん…」
真由は体重を掛けるように総一に抱きつくと
「…眠い」
思わず後ろに倒れそうになる台詞を呟く。
「はいはい」
総一は苦笑いをしながら真由をベッドに寝かせた。
「ありがとう」
少し照れ笑いした真由は本当に眠そうな顔をしている。
何時間も車で移動は酷だったのだろう。
やがて真由は静かに寝息を立てて眠り出した。
総一はそっと真由の体を抱きしめる。
久々に感じる安堵感。
だからこそ。
朝の出来事を思い出すと自己嫌悪に陥る。
−こんな事なら最初から連れて来たら良かった−
真由のサラサラな髪を撫でながらため息をついた。
手と腕、そして体から伝わる真由の温かさ。
総一もやがて眠りに入る。
−トントン
ドアを叩く音が聞こえた。
−無視無視−
一瞬、目を開けたが今の心地よさを手放す訳にはいかない。
「そーちゃん!!」
祥太郎の声が聞こえる。
イラッ!!
総一はせっかくのまどろみから抜けて体を起こした。
少しいらついてベッドから降りると勢い良くドアを開ける。
「何の用?」
特に総一に対して絶対的な信頼と尊敬の念を持っている祥太郎だ。
空気が読めない訳じゃない。
「どうにかしてよ〜」
祥太郎が抱えているのは至。
しかも爆睡。
「すみません〜」
その後ろには大輝とかれん。
部屋に入れて話を聞くと至と大輝は同じ中学で話は盛り上がり。
食事していた至の酒のペースがどんどんと…
気がつけば爆睡していたという。
「死なない?」
祥太郎が本当に心配そうに聞くので思わず苦笑いをして
「この程度で死ぬ奴ではないよ」
ツインベッドのもう片方に至を寝かせると大きくため息をついた。
「まあ、たまにはいいんじゃない?」
−そういえば最近、至と飲みに行く事も少なくなったな−
またレースが終わったら誘おうと思いながら。
すっかり覚めてしまった眠気に付き合ってくれるかのように祥太郎と大輝とかれんは夜遅くまで色んな話を展開してくれた。