第九章 突然の…(5)
「この辺りならいいかな〜」
祥太郎が連れて来てくれたのは緩やかなカーブ。
その前後も良く見える。
ちょうど他のクラスの予選がされていて間近を駆け抜けていくマシンを見て大輝とかれんは目を丸くして見入っていた。
「そーちゃんのクラスはもっと迫力あるよ〜」
祥太郎はニタニタ笑いながら座り込んだ。
「ねえ、どこでお昼食べる?屋台で何か買う?それとも…」
祥太郎は更にニタニタ笑うと
「アソコ…」
真由は祥太郎の視線を追って見つめるとレストランらしき建物が見えた。
「祥太郎くんはあそこに行きたいんでしょ?」
真由の言葉に祥太郎は頷く。
−まだまだ子供よねえ…−
自分もまだまだ子供な真由は思わず苦笑い。
しばらくそこで観戦して、レストランに入った。
「おお!一度入ってみたかったんだよね」
祥太郎は本当に嬉しそうな顔をするので大輝は
「今まで入った事、なかったの?」
驚き半分で聞くと
「うん、普段は適当な所で買ってくるお弁当だから」
それも捨て難いけどね、と祥太郎は笑った。
「…そーちゃんも?」
実はあまり、総一がサーキットでどんな風に過ごしているかわからない真由。
祥太郎は頷く。
「そーちゃんはレース前はほとんど食べないよ。
せいぜいおにぎり1個が限界。
タフに見えるけど、繊細だからね」
そう言う祥太郎は大量に注文している。
今日、祥太郎はレースに出ないけど、彼はきっとプレッシャーに関係なく食欲があるんだろうな、と真由達は確信していた。
食べっぷりもお見事。
−拓海くんもいつも美味しそうに食べていたなあ−
なんて、真由は祥太郎を見ながら思っていた。
総一はその点、真逆だ。
確かに真由が作った料理は美味しいと言ってくれる。
が、拓海や祥太郎みたいに頬張って食べる、ではない。
食べるのもどこか上品。
だからレース前、あまり食べないというのは何となくわかる気がする。
食べる事よりも神経が先に立つ。
何となく総一らしい、と思った。
食事を終えて4人は再び先程の場所に戻る。
もうすぐ予選が始まる。
真由の胸が高鳴る。
−どうか最後まで転倒しませんように−
手をギュッ、と握りしめる。
その瞬間、お腹にいる子供が動いた。
真由が興奮するのをわかっているかのように、まるで子供も興奮しているみたいだった。
思わず微笑む。
多分、この子も父親のようにサーキットを走る。
真由はそんな予感を抱いていた。
特にサーキットに来るとよく胎動を感じる。
−もうすぐパパが走るよ−
そっとお腹に手を当てるとまた動いた。
やがて、コーナーの向こうからマシンの音が聞こえてきて、先頭集団が見えはじめる。
ゼッケンナンバー1の隆道のすぐ後ろに総一。
真由の興奮は一気に頂点へ達した。