第九章 突然の…(4)
「そー」
マシンから降りてヘルメットを脱いだ総一を賢司は手招きした。
さっきより鋭い目つきになっている。
−そーちゃん!ごめんなさい!!−
心の中で真由は必死に謝る。
総一は一瞬、真由に視線を送った。
−心配するな−
そして何事もなかったかのように賢司の元へ向かう。
二人は真由達がいる場所に背を向けて耳打ちするかのようにヒソヒソと話をしていた。
賢司が二言三言、囁くと総一は目を丸くして首を横に振る。
その瞬間、賢司は怒りを込めて
「お前、もっとしっかりしろよ!!」
周りが一瞬、目を丸くしたくらい声を張り上げて総一の背中を力強く叩いた。
すぐに賢司がパドック通路に出てどこかに消えると総一は大きく息を吐いた。
「あのっ、門真さん!!」
真由の隣にいた大輝とかれんが慌てて走り出す。
「本当にすみません!!」
二人は総一に頭を下げる。
「…何を謝っているの?」
ポーカーフェイスの総一。
内心は色々言いたいに違いない。
けれど、顔の表情にも。
声のトーンにも。
不快感は全く出さなかった。
「真由をここに連れて来た事です」
かれんが言った。
「至さんから色々と聞いて…
来るなら来るって言っておけば良かったのに」
「…連絡が取れない状態だったから仕方ないよ」
総一は一瞬微笑むと
「ありがとう、真由の事を想ってくれて」
そう言ってマシンの元に行き、至と真剣に話し合っていた。
「真由ちゃん」
総一や至の様子を伺いながら傍に来たのは柏原 祥太郎。
中学2年の反抗期真っ盛りの少年だ。
笑った顔が拓海そっくりなその少年は
「そーちゃんに叩かれて大丈夫だった?」
心配そうに真由を見つめる。
「うん、大丈夫」
それを聞いて祥太郎は良かった〜、と呟き笑った。
「あのそーちゃんも真由ちゃんの事になると自分を見失うんだね」
祥太郎は手を頭の後ろで組んでケラケラ笑う。
「…初めて見た、ああいうそーちゃん」
チラッと真由を見つめると
「そーちゃんも人間だった、というのが証明された」
含み笑いをした祥太郎は
「せっかくサーキットに来たんだから少し案内してあげる。
…って真由ちゃん、辛かったら言ってね」
祥太郎はそう言って真由の手を取った。
「お友達も、ねっ。
最高にそーちゃんがカッコ良く見える場所に連れてってあげる!!」
「手伝わなくていいの?」
祥太郎は常にレースがあればチームや総一の手伝いをしている。
「父ちゃんが3人を案内しろって」
ジーンズのポケットから5千円取り出し
「4人で適当にお昼食べて昼からの予選を見とけってさ〜」
祥太郎は嬉しそうに札を見つめて
「久々に贅沢出来る」
来てくれてありがとう、と3人に頭を下げたのだった。