第八章 友達の家庭訪問(3)
「そーちゃんと私は」
そう言って真由は窓の外に広がる景色を見つめた。
遠くから蝉の鳴き声が聞こえる。
「付き合う前から家族だったの、恋愛より先に」
かれんは眉を寄せて『?』まさしく困惑していた。
「そーちゃんは私に恋愛感情を持つ前に家族として私を迎え入れてくれたの」
そう話す真由の胸が少し痛くなる。
「…最初は全く恋愛感情なんてなかったと思うしましてや…私を抱こうなんて思っていなかったと思う。
でも、私はいつの間にか好きになっていたし、そーちゃんも今では好きになってくれていると思う」
真由はお腹にそっと手を当てた。
「…拓海くんの事は忘れた訳じゃない。
そんなに簡単に忘れるくらい、軽い恋愛でもなかった。
…でも、それを充分カバー出来るくらい、そーちゃんの愛情は深いの」
真由は一瞬、躊躇ったけれど…
「もちろん、心だけではなくて、体も。
そーちゃんは私との繋がりを大切にしてくれる。
そしてお腹の子にも…」
いつも総一が優しくお腹を撫でる感触を思い出しながら真由もお腹を撫でた。
かれんは満足そうに真由の話を聞き入っていた。
が。
「じゃあ、具体的に教えてよ〜!!
今後の参考にするから!!」
「ちょっとかれん!!」
−何の参考にするのよ!!−
真由は笑いながらも怒り狂いそうになった。
だって、総一との甘い時間は誰にも知られたくないくらい、心地が良いから。
少しの無言の後。
「…少し羨ましい」
かれんは急に真面目な顔をして俯いた。
「真由は本当の愛を手に入れたのだと思う。
たとえお腹の子供が自分の子供じゃなくても愛してくれる旦那さん。
本当に心が広くないと無理だと思う。
そんな愛を手に入れる事が出来るなんて…なかなかない事だよ」
かれんは真由を見て微笑んだ。
「ありがとう」
真由は胸がいっぱいになる。
本当は心のどこかで総一と結婚した事に対して罪悪感があった。
総一以外の、誰か他の人にそう言って貰いたかった。
それが親友のかれん。
ようやく、認められた気がした。