第七章 二人の時間(1)
「そーちゃん、今日は機嫌が良いね」
満足そうに助手席に座る総一を見て至は思わず言う。
「そう?」
300キロを一人で走り抜いて3位とは。
もう一人、せめて総一と同じくらい、いや若干劣っても良いからライダーがチームにいれば、8耐にも出る事も出来たのに。
祥太郎は才能溢れるが体力ではまだまだだ。
それもそのはず、まだ中学生、無理だ。
このチームの今の体制ならこの300キロに出るのが限界。
拓海が生きていれば間違いなく8耐にエントリーしただろうし、総一のペアライダーは拓海だったのに。
悔やんでも悔やみきれない。
トランポを運転しながら至はため息をつく。
一方の総一は至ほど深刻にはなっていなかった。
8耐は今の段階では望みすぎ、全日本に集中すべき、と思っている。
その意味では今回、耐久レースだけれど走行が出来て良かった。
スプリント用のマシンをじっくりとテスト出来た。
8耐が終わって後半戦に突入した時、この経験が活きてくるはず。
−見てろ、隆道−
そう思うと同時に早く家に帰りたい気持ちでいっぱいだ。
真由が心配。
きっと家で…
一人悶々としているに違いない。
「そーちゃん」
至の声で我に返った。
「早く帰りたいって思ってるんでしょ〜?」
総一は思わず微笑む。
「まあね」
真由と離れて4日ほどなのに、これほど寂しいと思うなんて思いもしなかった。
「じゃあ、そーちゃん、ゆっくり休んで」
真夜中、ようやく家に着いた。
「至こそ、ありがとう」
総一の言葉にニッコリ微笑んだ至はそっと手を挙げて車を出した。
二人とも、また明日は朝から仕事だ。
睡眠時間はせいぜい3時間程度か。
マンション下で部屋に明かりが点いている事に気がつく。
−まさか…−
夜中3時まで起きて待ってるとか…
総一は慌てて階段を駆け登った。
玄関を開けると明かりの点いているリビングに向かう。
リビングにゴロン、と横になって寝ている真由が。
6月とはいえ、今日はまだ寒い。
「真由…、真由」
総一は真由の体を揺すった。
やがて真由の目がゆっくりと開く。
ぼんやり、総一の顔が見えて慌てて目を開ける。
時計を見ると夜中3時。
「ただいま」
総一は覚醒した真由の額にキスをする。
離れている間、ずっとキスがしたくて堪らなかった。
「おかえり〜」
真由もそれに応える。
総一の背中に手を回して抱きついた。
「昨日は一人で大丈夫だった?」
「うん」
真由は微笑む。
総一にしても、過保護だな、と思う。
「どうだった?」
「今回は3位だったよ」
「えっ、本当に?」
普通のチームなら2人で走行するのをたった一人。
総一は
「びっくりした?」
上出来な成績に苦笑い。
「うん」
本来ならこの300キロも拓海と組むはずだった。
それが一人。
「お疲れ様」
心からそう伝える。
「ありがとう」
真由にもう一度、キスをした。
いや、一度とは言わず、二度三度。
疲れているはずなのに、もう後数時間もすれば店で働くのに。
真由さえいてくれたら癒される。
総一はレース以上に幸せな気分を味わっていた。