第六章 困った人達(8)
「えー、じゃあ子供同士が同級生か」
宿泊するホテルの同部屋は至。
真由の母の妊娠を総一が伝えると至は目を丸くして驚いていた。
「複雑だよね」
総一は苦笑いをするけれど真由の両親の年齢を考えると十分有り得る、と思った。
真由は父、芳弘が20歳、母、雅が17歳の時に生まれた。
芳弘が大学2年、雅が高校2年の夏。
あの夏の暑さと精神的な不安は一生忘れる事が出来ない、と二人が口を揃えて言っていた。
芳弘は大学に通いながらアルバイトをいくつも掛け持ち。
雅も出来るだけ節約に努めて何とか真由を出産。
その後は芳弘の就職も決まり順風満帆。
…ただ、あと1人。
子供が欲しかったけれど中々出来なかった。
それが今になって。
「子供って本当に授かり物だよね」
総一がしみじみと言うと至は微笑んで
「そうだよ、そーちゃん。
そーちゃんもいつかは本当の子供を持てたらいいな、なんて俺は思っている」
総一は口元にうっすらと微笑みを浮かべていたがやがて
「…俺の血はいらないよ」
そう言って俯く総一を見て至は胸が詰まった。
頑なに自分の子供を拒む総一。
けれど、子供が嫌いな訳ではない。
レース中に子供連れのファンがいると率先して子供を抱いたり、ファンサービスを見ている限りでは嫌い、ではない。
むしろ、好き。
嫌いなのは自分に流れる血、だ。
最悪な母親から生まれて、めちゃくちゃな幼少期。
自分さえいなければいいのに、という感情。
総一が苦しんでいるのは至もよく知っている。
知っているからこそ、幸せ…本当の幸せを掴んで欲しい。
至はそう思っている。
「けどさあ」
総一は話題を変えるように言う。
「同級生…は複雑だよね」
今、真由のお腹にいる子供からすれば伯父、伯母に当たる新しい命。
「もし性別が違って年頃になって問題発生とか…嫌だね〜」
何気に言った至の発言に思わず苦笑いした総一。
まさか。
十数年後に総一が一睡も出来ないくらいの問題が発生するとはこの時、全く予想も出来ず。
…当たり前だけど。
まあ、それはまた別の話。