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第五章 二人の門出と困惑(5)

結局。


ダラダラと3日間は過ぎ…


また日常の生活に戻った。


「どうだった?」


休み明け、至がニヤニヤしながら総一に聞く。


「…別にどうって事ないよ」


総一はあくまでもポーカーフェイスを貫く。


二人で過ごせたのは…夜中から昼にかけて。


一日中二人だけ、というのがなかったので総一にとってはストレスが溜まりまくりだった。


至は何だつまらない、という感じで肩を上下に動かす。


真由には…毎日祥太郎という番犬が付いて回ってる。


何かあればある意味、安心だけど、総一がいる時でも遠慮なしに真由に付いてる。


まあ、危険な相手じゃないから良いけど。




でも、心配なのは。






祥太郎が拓海に似過ぎている事。


真由がそれを意識しているのが…わかるから。







「真由ちゃ〜ん!」


またか!


真由がちらっと時計を見ると午後4時を少し回った所だった。


チャイムが鳴り、真由を呼ぶ声が聞こえる。


ドアを開けると無邪気に笑う祥太郎がいる。


結婚式の翌日から毎日来る祥太郎。


総一も『邪魔すんな!』とは言うけれど、追い返す事はなかった。


逆に仕事をしていると帰りが午後9時前後になるので、自分がいない間、番犬代わりになると言って笑っていた。




「今日は何作るの〜?」


「今日はカレー」


そう言うと嬉しそうに笑って、率先して手伝い始めた。


真由にしてみても有り難い。


けれど…


隣に立つ祥太郎。


真由より10センチくらい身長が低いけれど、思い出す。


拓海を。


よく拓海の家のキッチンを借りてお菓子を作ったなあ、とか。


そんなに遠い昔の事じゃないのに懐かしい。


祥太郎を見ているとまるであの時の感情が蘇ってきそうで恐かった。






「あれ…?」


食事の用意はバッチリ。


ただ、総一が帰ってくるまではまだ時間がある。


最初だけ手伝った祥太郎はテレビを見ながら寝てしまっていた。


タオルケットを出して、そっとかける。


寝顔も拓海そっくり。


ここまで似るか。



本当の兄弟でもないのに。


何かの戒めなんだろうか?


一人になるとこんな風に悩んで深い闇に落ちていきそうになる。


真由はため息をついた。


かといって祥太郎を好きになる訳ではない。


ただもう『いない』拓海を思い出してそんな現実に苦しくて泣きそうになる自分がいる。


本当にこれで良かったの?


考えても答えの出ない問い。


真由は髪の毛を振り、そしてそのままゴロン、と横になった。


段々テレビの音が小さくなっていく。









いつの間にか寝ていた。


祥太郎はふと目を覚まして自分にタオルケットが掛けられている事に気がつく。


時計を見ると午後8時。


「もうすぐそーちゃん、帰って来るなぁ」


小さく呟いた。


部屋はテレビの音だけが流れていて、真由は…?


慌てて見回すと隣で爆睡していた。


でも、そろそろ覚醒するのか、目の周りが光に反応している気がする。


「…真由ちゃん?」」


声をかけてみて、自分に掛けられていたタオルケットを今度は真由に掛ける。


「あっ、ごめんね」


真由は起き上がろうとするけれど起き上がれない。


「そーちゃんが帰って来るまで寝てたら?」


と言って祥太郎は座った。


「真由ちゃん」


祥太郎はまともに見ていないテレビ番組を見つめる。


言わなくてはいけない。


真由が自分を見る目は…危ない。


「まだ、兄ちゃんの事、好きなんでしょ?」






真由は目を見開いた。


そしてゆっくりと体の向きを変えて祥太郎の顔を見上げる。


相変わらず、祥太郎は真っすぐテレビを見つめている。


でも、見ている訳じゃない。


話のタイミングを計っていた。


「…時々、俺を見て、苦しそうにしているから」


祥太郎は真由を見下ろすような形で見つめた。


その表情。


何かを問い詰める時の、目。


拓海と同じだった。


「俺も最近、自分で兄ちゃんに似てきたと思う。

だから真由ちゃんが俺を通して兄ちゃんを見ているのもわかる」


祥太郎はため息混じりに吐く。


「俺がたまらないのは、真由ちゃんが自分を責めている事だよ。

そーちゃんと結婚したけど、どこかで兄ちゃんに悪いって思ってない?

またそーちゃんにも悪いって思ってない?」


祥太郎は目を逸らさなかった。


絶対に言おう。


拓海が死んでから常にそう思っていた。


真由は自分を通して拓海を見ている。


総一と結婚しようと決めてからも…真由の迷いは晴れていない。


結婚した今も、どこかど拓海を追っている。


それが真由自身を苦しめている。


「時々、真由ちゃんの目は俺を見るときも、そーちゃんを見るときも、凄く辛そうにしているよ」


真由は堪らずタオルケットに顔を埋めた。


そして出来るだけ声を出さずに泣く。


「真由ちゃん」


祥太郎は一呼吸置いて


「俺が兄ちゃんなら、真由ちゃんを責めないよ。

何があっても。そーちゃんも真由ちゃんを責めないよ。

だから…もう、自分を責めないでよ。

兄ちゃんは真由ちゃんが幸せに暮らしてくれたらそれで満足だと思う。

そんな風に悲しそうな顔をしていたら兄ちゃんも悲しむから」


祥太郎は自分が思っている事を全て吐き出すかのように話続ける。


真由は涙で祥太郎の顔ははっきり見えない。


けれど祥太郎の言葉は…拓海の言葉にも聞こえる。


「真由ちゃんは自分の幸せを考えなよ。

そーちゃんは何があっても真由ちゃんと子供を守るし、大切にしてくれる。そーちゃんは、今、すごく幸せと思う。

自分の本当の子供じゃなくても産まれてくる子供を心待ちにしているんだよ」


祥太郎が言い終わると同時に玄関の開く音が聞こえた。


「ただいま」


総一が帰ってきたんだ。






「で、真由を泣かした、と」


夕食を3人で食べながら総一は不機嫌丸出しに祥太郎を睨んだ。


余計な事を言うな、というのが総一の思いだ。


総一としては真由が抱えている事は自然と忘れていく方向に持って行きたかった。


「ごめん…」


頭を下げる祥太郎に真由は手を左右に振って


「そーちゃん、私が悪いから」


真由は二人の顔を見て


「二人とも、ごめんね」


やっぱり、二人は気がついていた。


真由は本当に悪いな、と思って下を向いた。


あまり知られたくない、この気持ち。


気まずい。


けれど総一は俯いて穏やかな表情をしていた。


やがてゆっくりと視線を上げて見つめた先は涙で顔が酷い状態になっている真由。


「真由、俺は自分自身で真由を選んだから。

俺が幸せじゃないとか思わないで欲しい」


総一の優しい目が真由を包む。


「うん」


真由もようやく微笑んだ。


見つめ合う二人。


祥太郎は?


俺の存在は忘れられているのか〜?


大きく咳ばらいをすると


「…じゃ、俺、お邪魔だから」


食べ終わった祥太郎は立ち上がった。


「続きはど〜ぞ、ごゆっくり!」

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