第五章 二人の門出と困惑(2)
午前1時。
1台のタクシーがマンション前に停まる。
日付が変わってようやく総一と真由は帰って来られた。
真由は総一の肩に寄り掛かって眠っている。
披露宴後の二次会はあまりにも強烈だった。
「真由、大丈夫?」
総一は真由を起こすとタクシーから降りてすぐに真由の肩を抱いた。
「うんー…」
半分、寝ぼけている。
転倒だけはしないように、真由を支える。
全く…まだ十代なんだよ…
総一は少しイラついていた。
K-Racingの人達とレース仲間の皆でしてくれた二次会。
お店のメンバーはまだソフトだ。
問題は…ライダー仲間。
自分に下ネタを言うならまだしも。
真由に色々言ったのが気に入らない。
酒が入るとどうもよくない。
度が過ぎる部分がある。
「真由、立ってられる?」
部屋のドアを開けるのに、真由を支えたままじゃ開けられない。
「うん…」
真由は頷くと壁を支えに立ってくれた。
その間に部屋を開ける。
真由を中に入れるとようやく肩の荷が降りた。
真由をとりあえずベッドに寝かせて荷物などを片付ける。
片付けながら上着を脱ぎ、ネクタイを取り外す。
これさえ終わればしばらくは気持ちにも余裕が持てる。
ホッとして大きく深呼吸をした。
「そーちゃん…?」
寝室から真由の声が聞こえる。
総一は慌ててそちらに向かった。
「起きた?」
時計を見るともう1時半を過ぎている。
「うん…」
真由はどうやって家まで帰ってきたのか覚えていない。
ただ…
あまり良い気分ではなかった。
「お疲れ様」
総一が真由の頭を撫でると真由は微笑んだ。
「そーちゃん」
真由はそっと手を挙げて総一の肩に置いた。
「男の人ってみんな、あんな感じなの?」
…大変な誤解だ。
「お酒が入ると、ちょっとふざけた事も言ってしまうんだよ」
総一は二次会途中からかなり不愉快になっていた。
冗談とはいえ、何もわかっていない真由に総一と毎晩するのか、とかそんな質問を投げかけた。
どちらかというと天然ボケなタイプの真由。
そんな彼女の固まった顔を見た瞬間、心臓が止まりそうになった。
「おいおい、そんな質問は真由じゃなくて俺にしてくれる?」
隆道や他の友達が真由を囲んで赤裸々な質問をぶつけるので入ると
「そーちゃんに聞いても普通に返されるから面白くない」
そう言って次に言われたのが悪かった。
「だって…拓海が死んですぐ…まさか妊娠させるなんて、なあ」
それは隆道ではなく、違う人間の発言だった。
まあ、そう思うだろうな。
総一はゆっくりと口を開く。
「そうだね、拓海が死ぬ前から可愛いとは思っていたよ。
いつもパラソル持ってくれたり、色々チームの事を手伝ってくれていたからね」
話を聞く者に対して総一の目つきが変わった。
「拓海が死んで沈み込んでいる真由を誘って遊びに出掛けてその日のうちにしたんだよ…避妊もせずに。
真由はさすがに嫌がったけど、俺が強引にしたの。
その結果がコレ。わかった?」
一瞬、静まり返った。
賢司夫妻も、真由の両親も…
祥太郎も至も顔が引き攣っていた。
「…そーちゃんって大胆な所があるんだね」
気まずい雰囲気にさすがに焦った隆道がそう言うと
「俺は昔から大胆だよ」
クスッ、と笑ってかわした総一にまた場が和んだ。
「あんな嘘…」
真由は涙ぐむ。
総一は苦笑いをして真由にキスをすると
「あれくらい言わないと周りを騙しつづける事は出来ないよ。
これでお腹の子供は俺の子供だとみんなに信じ込ませる事が出来たし」
総一は真由のお腹を優しく撫でた。
「…真由、一緒にお風呂に入ろうか?」
体は疲れているけど、このまま眠るのは無理だ。
「そーちゃん!!」
真由は目を輝かせる。
「まだ一緒に入った事はないし」
少し伏せ目がちに、どことなく恥ずかしそうに言った総一。
その瞬間、真由は総一に抱きついた。