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第五章 二人の門出と困惑(1)

自分の子供はいらない、か…


一体、どういうつもりで言ったのか真由にはわからなかった。


大きくため息をつく。


もし自分の子供が出来たら今、お腹にいる拓海の子供を愛せなくなる、とか。


勝手な想像を膨らませる。




4月25日。


真由は鏡の中の自分を見つめる。


純白のウェディングドレス。


全然純白ではない自分。


少しため息をつく。


この結婚が本当に正しいのか、式が近づくにつれて疑問が大きくなっていた。




「わ〜!真由ちゃん、綺麗!!」


控室をこっそりと覗きに来た祥太郎が感嘆の声をあげた。


真由は祥太郎に微笑むと彼は天まで昇るような幸せな顔をしていた。


「こら!祥太郎!!」


控室に入っていた祥太郎を見つけて母親の彩子は怒る。


「真由ちゃんが着替えていたらどうするの?」


彩子は祥太郎を外に引きずり出した。


入れ代わりに入ってきたのは総一。


真由のドレス姿を見て微笑んだ。


「お気に入りのが着られて良かったね」


真由は頷く。


最初に試着した時に絶対にこれ!と決めていたのに、あと少しお腹が大きくなれば入らなかった。


「…本当に綺麗だよ」


総一の指が頬に触れた時、ドアをノックする音が聞こえる。


「はい」


総一は指を離した。


そしてドアの方に向く。


「失礼します。

ではこれから打ち合わせを…」


真由は総一をちらっと見つめると立ち上がった。






外に出て打ち合わせを終えると祥太郎がはしゃいで真由と写真を撮った。


その姿。


まるで拓海に見えて仕方がない。


背はまだ低いけれど、最近特に似てきて戸惑う事が多い。


祥太郎は拓海の弟…いや、正式にはイトコだけれど。


無邪気な祥太郎はそれに気がついていないように思う。


真由はついつい浮かない顔をしてしまう。


この戸惑いは一体どうしたらいいのだろう。




「真由!!」


名前を呼ばれて振り返るとパーティードレスを着た親友の生野 かれんが手を振っていた。


「かれん!!」


ようやく真由は本来の笑みを見せる。


「真由、久しぶり!!」


電話はよく話をするけれど、会うのは卒業式以来。


「似合うね〜」


と言ってかれんは笑った。


「来てくれてありがとう」


真由はかれんの手を握る。


かれんも握り返してくれる。


その温かさが真由の緊張を溶かしてくれた。


「本当におめでとう」


その言葉に笑って頷いた。






一旦控室に戻る。


今からこれだけ疲れていたら今日が終わる頃には倒れてしまう。


真由は一人、苦笑いをした。


やがてドアが開き


「真由」


総一の声が聞こえる。


真由はゆっくりと振り返った。


「そーちゃん」


薄いグレーのタキシードを着た総一に思わず魅入ってしまう。


いつもとはずいぶん違う雰囲気。


けれど元々色白で、目鼻立ちも整っているし、体型も細いので余計に似合うのかもしれない。


「真由…」


総一の手が真由の頬に触れた。


「そーちゃんもよく似合っているよ」


真由が総一を見つめると彼は一瞬、下を向くと照れ臭そうに少し上目使い気味に真由を見つめた。


二人の視線が絡み合う。


穏やかな優しい視線が…






「そろそろご準備を…」


係の人が呼びに来ると二人は立ち上がった。


「行こうか…」


まるで映画のワンシーンのように総一は手を差し出す。


真由はその手をしっかりと掴んだ。



式はチャペルで行われ…


真由は半分鬱気味にバージンロードを歩いていた。


父、芳弘が泣きすぎて真由の気持ちは下がりっぱなし…


泣きたいのは私だー!!


真由は心の中で叫んでいた。




やがてその隣が総一に変わると式場のあちこちからため息の声が聞こえた。


総一と真由。


まるで映画かドラマか?というくらい綺麗で、二人に降り注ぐスポットライトが更に効果を上げていた。


キラキラ光る二人にみんなが目を逸らせなかった。




当の本人達は…


自分達でも訳がわからないうちに式は進んでいき。


誓いの言葉。


指輪の交換。


あの時買った、決して高くない指輪だけれど、二人の左手薬指に見事なまでに上手く納まった。


そして、キス。


色々な想いが込み上げてきて。


真由の目から涙が溢れた。


まだ…まだ迷う。


けれど、迷うならやってみた方がいい…


だから総一と結婚するのだ。




真由が泣くと総一は必ずその細い指先で涙を拭く。


今日も感極まって泣いてしまった真由。


涙が止まらない。


その涙を何度も指先で拭き取る総一。




それを見た周りの参列者も泣く。


二人の事情を知っているだけに、余計に…






式、披露宴は無事に終わり、すべてが終わってから二人は婚姻届を提出しに行った。


どうしても。


今日に入籍したかったから。



今日は4月25日。


拓海が亡くなったのも12月25日。


妊娠がわかったのも2月25日。


二人で決して忘れないように。


忘れる事は絶対にないけれど、偶然が重なったこの日が良かった。


二人は付き合って2ヶ月で入籍して。


今日から平野 真由ではなくて門真 真由となる。


総一も長年の独身生活から一転、扶養家族が1人増えて、半年以内にあと1人、増えるだろう。


目まぐるしく、環境が変わっていく。




夜間受付で書類を提出すると二人は顔を見合わせて微笑んだ。

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