表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/66

第四章 桜の花が咲く頃に(3)

4月3日。


いよいよ全日本ロードレースが開幕した。


今日は予選。


普通に走れば、余裕で通過出来るタイムを持っている。


だからだろうか。


チーム内は穏やかな雰囲気に包まれていた。


真由はパドック内に用意されている椅子に腰掛けていた。


拓海の弟、祥太郎はチームの手伝いをしているが、手伝いは上の空。


真由の心配ばかりしていた。




「そーちゃん!」


パドック通路から馬鹿デカイ声が聞こえる。


真由は眉間にシワを寄せて通路を見る。


「よぉ!久しぶり」


総一は笑顔でその声の主に応対する。


「池田さんだ…」


祥太郎が呟いた。




初めて見るその人。


真由は名前だけは聞いている。




ああ、確か…総一の友達。


今では世界でも通用するくらいのライダー。


メーカー直属のチームに所属していて、このチームとは環境が全く違う。


そして…沙織の彼氏。




真由の中ではこの人と沙織が組んで総一を暗い闇の中へ落とした、というイメージしかない。




「そーちゃん、結婚するんだって?」


隆道は笑って真由を見つめる。


上から下までまるで品定めでもするかのよう。


真由は慌てて立ち上がって挨拶をする。


自分がどう思うにしろ、総一には恥をかかせてはいけない。


咄嗟にそう思った。


「真由ちゃんか〜、ヨロシク」


隆道は手を差し出した。


真由も差し出して握手をした。




「俺も結婚するよ、沙織と」


隆道は笑って総一を見る。


総一は一瞬、呆然としたように見えたけど、


「おめでとう、良かったね」


総一も微笑んで隆道の肩を叩いた。


「ようやく、プロポーズを受け入れてくれたよ」


隆道の言葉に総一はホッとした。


ようやく、諦めてくれたか…


「多分、そーちゃんの結婚に刺激を受けたんだろうね。

今、何ヶ月?」


目立ってきたお腹を見て隆道は言った。


「今、5ヶ月だよ」


総一は真由の代わりに答えた。


「うらやましい、俺なんか子供はいつになるやら」

総一は苦笑いをする。


隆道のペースに少しイラついてきた。


早く立ち去って欲しい。




「じゃ、また後で。

いいレースをしような!」


隆道は手を挙げた。


「うん」


総一も手を挙げて立ち去る隆道を見送った。




立ち去ってから大きくため息をついた総一。


表面上は『いい友達』


でも…あの忌ま忌ましい出来事以来、赦したとはいえ、隆道も沙織も信じていない。




考えただけで吐きそうになる。





「総一」


闇の中に落ちかけていた総一を救ったのは育ての父、門真 満だった。


総一に自然な笑みが戻った。


「調子はどうだい?」


「ん、まあまあかな…」


実はそれほど調子は良くない。


ベストでは走れない可能性が高かったので少し気が重くなる。


「…それと招待状、ありがとう」


総一にお礼を言うと満はゆっくりと視線を真由に向けた。


「紹介するね、俺の妻になる平野 真由さん」


総一が紹介すると真由は頭を下げた。


「真由、俺の、父さんだよ」


真由は一瞬にして緊張する。


満は微笑んで


「今日の夜、3人で食事でもしないか?」


「俺はいいけど…」


総一は真由を見た。


いきなりの事で心の準備も出来ていないだろうから総一は真由が断るならそれでも構わない、と思っていた。


真由はその誘いを断れるはずもなく、頷いて。




後悔した。




何を話せば良いのだろう…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ