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第一章 真由の妊娠(2)
真由の鞄の中には2つ、卒業証書がある。
一つは真由、そしてもう一つは拓海。
バイク屋を経営する拓海の父に証書を届けに行くのだ。
「真由ちゃん、ありがとうね」
拓海の父、賢司はそう言って微笑んだ。
真由も微笑む。
「明日からよろしくね」
賢司はそう言うと真由の肩を叩いた。
「そー!」
賢司さんの声に奥のピットから出てきたのは20代後半の青年。
真由はこのバイク屋のもう一つの顔、二輪ロードレースチームの手伝いで何度かレースクィーンをした事がある。
彼の横にも数回立った。
同じチームの拓海は若さを全面に出して感情の起伏が激しかったが彼は冷静。
いや、冷酷に近かった。冷めたライダー、とでも言うべきか。
名前は門真 総一(かどま そういち)。
総一が真由を送っていく事になったが、賢司はスポンサーに挨拶に行かねばならない。
まだ仕事が一段落出来ない。
真由はしばらく待つ事にした。
一人で帰ろうと思ったら帰えられたのに。
何となく、気分が悪くて帰られなかった。