第三章 短い同棲生活(5)
「へえ、真由、凄い!!」
風呂から出てきた総一はテーブルに並べられた食事を見て喜んだ。
その料理はまさに総一が望む物ばかり。
何を食べたいとかは言ってないのに真由は用意していた。
「うふふ」
真由は嬉しそうに笑っている。
「ありがとう」
心からお礼を言うと
「これくらいならお安いご用〜」
この前も有り合わせの物で作っていたけど、今日は買い物に行ってる。
高くない食材を上手く合わせている。
「これ、返しておくね」
真由から手渡されたお釣りとレシートを見て驚く。
「これだけでいけたの?」
総一は目を丸くして聞く。
真由は少し照れて笑いながら頷いた。
驚いたな…
歳が若いから期待はしてなかったけれど金銭感覚も抜群!
これなら家の事を任せられる。
総一には確実に未来への希望が見えていた。
真由とならやっていける。
「お風呂、入ってきなよ」
食事が終わって少し休憩してから真由が洗い物をしようとすると総一がその手に触れて止めた。
「えっ、でも」
真由は少しだけ身長の高い総一を見つめた。
「私は何も仕事をしてないし、家にいるだけだからこれくらいはするよ?」
真由が今度は総一の手を止めた。
「真由、いいよ、これくらい毎日していた事だから」
総一はそう言うと真由の体をクルッと反転させてその背中を押した。
洗い物をしながら総一は自分の心に戸惑う。
真由を好きだ!という気持ちが急に大きくなって、苦しい。
しかも真由は…わかっているのかわかっていないのか、多分総一の事は安全牌だと思っているのだろう。
無邪気に振る舞う。
いつか歯止めが利かなくなるんじゃないかと総一は悩んでいるというのに。
一体、真由は自分の事をどう思っているのだろう?
それさえ判れば行動はすぐにでも。
でも…怖くて聞けない。
「そーちゃん!」
真由は浴室から出てくると
「洗い物、ありがとう」
ニコニコと笑って言う。
抱きしめたい感情を押し殺して総一は
「どういたしまして」
と微笑んだ。
真由にとって総一は安心出来る存在になっていた。
毎日朝8時には仕事に出掛けて帰ってくるのは21時を過ぎる事が多い。
更にそこからトレーニングの為に2時間くらい出掛けたりする事が多いけど。
帰ってくれば真由の何気ない話に付き合ってくれる事はほぼ毎日。
居心地が良かった。
ただ、気になる事は。
全く手を出す気配がない。
今のところ手を繋いだり、寝る時に狭いから真由の背中に手を回したり。
それくらいしかない。
妊娠しているから気を使っているのかもしれないけれど…
でも真由の口からは言えない。
そしていつになったら。
結婚の話が出るんだろう?
色々な不安が募りはじめた。