第三章 短い同棲生活(1)
翌日の夜遅く。
総一は真由を迎えに来た。
荷物は最小限。
またお店が定休日の時に他の荷物を運び出す事になった。
「遅くなってごめん」
総一の謝罪に真由は首を振る。
「そんな…仕事しているのに」
真由はもう学校もないし、日中はただ家にいる事が多い。
たがらこうやって気を使って貰うのは逆に申し訳ない。
「じゃあ、行こうっか」
総一は真由の荷物を手に取った。
「必要な物があったら遠慮なく言って…洋服はここに」
総一のマンションに着くと真由に指示を飛ばした。
昨日、真由を送ってからすぐに家の片付けをした総一。
服などを少しでも収納出来るように、と。
「ありがとうございます」
真由は頭を下げた。
総一は苦笑いをして
「それと、敬語はいいから。普通に話して」
「はい!」
そんな真由を見て更に総一は声を立てて笑った。
「だから、そんなに硬くならないで」
思わず真由の柔らかそうな頬を突いた。
真由の顔が赤くなった気がした。
真由はドキドキが止まらない。
いきなり総一に頬を触られた。
嫌いとかそんな事ではない。
ただ…拓海以外の男に触られた事がないから。
戸惑う。
「名前も…『門真さん』じゃよそよそしいから、適当に下の名前で呼んで」
「はい!!」
総一は頭を抱えて
「だーかーら!!それが硬いって!!」
今度は両手で真由の両頬をキュッ、と軽くつねった。
「じ…じゃあ」
真由は少し吃る。
緊張して真っすぐ総一を見つめられない。
視線を総一の肩辺りに落とす。
「何て呼べばいいの?」
真由は離してくれない総一の手の平に自分の手を重ねる。
そして、ゆっくりと総一の手を頬から離した。
「好きなように…」
そんな事を言われても困る。
ちらっと総一の顔を見つめる。
明らかに真由の出方を伺っている。
…いじわる
だったら私も…
「じゃあ、私の事はなんて呼ぶの?」
か細い、頼りない真由の声が総一に届いた。
「何て呼んで欲しい?」
「好きなように…!」
真由は総一の手を離した。
仕返しか…
総一はクスッと笑うと
「俺はちゃん付けとかあまり性に合わないから…
『真由』って呼ぶよ?」
真由は微笑んで頷いた。
「…拓海くんは」
真由の口から零れる名前に一瞬、総一は眉を潜める。
「何て呼んでた?」
総一の脳裏に一瞬、拓海の柔らかい笑みが掠った。
「…『そーちゃん』」
拓海はそう呼んでいた。
「じゃあ、『そーちゃん』」
真由は嬉しそうな笑みを総一に向けた。